第10話 そして運命の輪は回り出す

「ここらでいいかな」


 俺たちは神社の境内横、辺りを一望できる一段高くなったところに陣取った。出店のたぐいもこの辺りまでは出ていないせいもあってか、人影もまばらだ。


 まさにベストスポット! 俺たちがこの観客席につくのを待っていたかのように、一発目の花火が空を光と音で彩った。


――――どんっ! ぱらららら……。

――どんっ、どんっ! ひゅ~~~っぱららららら……。


 さすがは夏の風物詩。庶民のための、音と光のエンターテイメント! 夏の醍醐味、だねぇ。

 散っては咲き、咲いては散る光の華。


「きれいですね……」

「ああ。こういうときはやっぱりこれだな! た~~~~まや~~~~っ!」


――どんっ! ぱらららら……。


「かぎや~~~……ふふっ。ちょっと恥ずかしいですね」

「あはは、確かに!」


――どんっ、どんっ! ひゅ~~~っぱららららら……。

――ひゅ~~~っぱららららら……。


「花火って……」

「ん?」

「花火ってすごいですね……。数瞬で燃え尽きてしまうのに……人の心に焼き付いて離れない」

「そう……だね」

「……」

「だけど……それって、なんか悲しくない?」

「悲しい?」

「なんとなく……だけどさ」

「……そうかも……しれませんね」


――ひゅ~~~っ、どんっ! どどんっ! ぱららららら……。


 ひときわ大きな花火が上がった。

 俺は……花火に照らしだされる、なにか悲しそうな佳乃さんの横顔から目が離せなかった。やっぱり、今日の佳乃さんは……どこか違う気がする。


「佳乃さん……」

「なんでしょう?」

「なんだか……さ。今朝の電話の時もそうだけど、今日の佳乃さん、なんだか佳乃さんらしくないよ」

「そう……ですか?」

「うまく言えないけど……元気がないって言うか……」

「くすっ、そんなことありませんよ。あ、ほらっ、また花火が――」


――ひゅ~~~っ、どんっ! どどんっ! ぱららららら……。

――――どんっ! どどんっ! ぱららららら……。


 佳乃さんやっぱり無理してる。そんなわざとらしい笑顔を俺に向けないでくれよ。なんか……なぜか……佳乃さん、泣いてるみたいだ。なんだか……この花火が燃え尽きると消えてしまいそうなくらい。


「……佳乃さん!」

「あっ……」


 俺は……俺は思わず、彼女を……佳乃さんを抱きしめた。今抱きしめないと……佳乃さんまで花火と一緒に消えてしまいそうで。

 抱きしめずにはいられなかった。


「どうしたん……ですか」

「……いなくなったり……」

「……」

「佳乃さんは……いなくなったり……しないよな?」

「拓人さん……痛いです」

「佳乃さん……俺、俺は――」


「拓人……?」


――えっ!?


「あ……」


――――ドーンっ! ぱららららら……。


「あきら……」


 花火に照らされた、あきらの顔。 何が起こっているのか……わかっていない、そんな……あきらの瞳が俺を見ていた。


「拓人の……用事って……?」


 俺は佳乃さんを抱きしめていた両手から力を抜く。


「拓人の用事って……このことだったんだ……」


 そう言って。

 それだけ言って、あきらは俺から逃げるように走り出した。


「お、おぃ!」

「拓人さん、早く追いかけてあげてください」

「でも……」

「早くっ!」

「あ……ああ」


 俺はあきらを追いかけた。途中で小室めぐみ、高橋ちとせとすれ違った……一緒に来てたんだな。何やってるんだろうな、俺は。

――本当に何をやってるんだよ、俺は!




「待てよ、あきら。待てったら!」

「いやよ! 離してよっ!」

「なんだってんだよ!」

「それはこっちのセリフじゃない! どういう事?! あの人……誰なの!」

「……」

「……ねぇ、何とか言ってよ。でないと……わたしが馬鹿みたいじゃない……」

「……あのひとは」


 佳乃さんは……俺にとって……?


「……」

「佳乃さんは俺の、家族……だ」


 家族? 俺にとって……家族?

 それ……おまえの本心か?


「……家族?」

「ああ」


――違うだろ?


「俺の家さ……昔から両親いないんだ」

「……そうだね」

「それで……昔から家政婦さんを雇ってて……」

「そんなことが聞きたいんじゃないの」

「……」

「拓人の……家族? その家族と抱き合ったりするんだ?」

「……」

「否定……しないんだね?」

「……いや……」

「さっきの拓人の顔……見ちゃったから」

「なにを……?」

「わたしには見せてくれない、顔……だったんだよ?」

「なんだよ、それ」

「……言えない」

「わかんねーよ!」

「言ったら……言ったら拓人が気づいちゃうじゃない! だから……言えないよ……」


 なんだ? なんだってんだよ?

 確かに……俺も悪かったと思う。でも、俺にとって佳乃さんはかけがえのない大切な……。


――たいせつなひと、だから……。


 俺は……俺は佳乃さんの事をどう思ってるんだ?


「……俺は……佳乃さんのことを……」

「聞きたくない」

「俺は……彼女のことが……」

「やめてっ! そんなこと、聞きたくないよっ!」

「……」

「どうして……どうしてそんなこというの? どうしてわたしには言ってくれないの? ねぇ……どうして?!」


 佳乃さんは俺にとっての唯一の家族で、大切な人だ。でも、俺にとっては……あきら、おまえだって……。


「わたし……わたしね、拓人の事が大好きなの。わたしの全部の初めてをあげてもいいくらい……好きなの! ううん、はじめてだけじゃない! ずっとずっと!」

「……」

「でも……でもね。それと同じくらい、拓人のことがほしいの。拓人の全部が……ほしいよ……。止まらないよ、止められないよ!」

「あきら……」

「わたしは……拓人のこと好きだって伝えたよ? 何回も何回も、いつだって、今だって言葉で伝えたよ?」

「……そう……だな」


 初めての告白の時。普段の何気ない会話。

 そして……今。

 俺は……あきらのその言葉に甘えてたんだ……。こいつの好きって言葉に甘えてたんだ。


「拓人はわたしのこと……どう思ってるの? 好き? それとも……」

「俺は……」


 あきらの言ってることはたぶん……正しい。

 正しい? そんな言葉で……また、俺は逃げるのか?


 俺はあきらのことをどう思ってるんだ? どう思ってるのか……じゃないんだ。

 ちゃんと、考えろ。

 好き、なのか?

 俺は……あきらのことを、世界中で一番……好き、なのか? 他のすべてを……捨ててでも好きでいられるのか? 他の……すべて?


 他……ってなんだ?


――――佳乃さん。

 俺は……?

――答えは決まってたんだ。

 でも……だけど……俺は。

――どうして、二ノ宮であって、あきらじゃなかったのか?

 俺は――――――っ!

――違和感の正体、本当はわかってたんだ。

 本当の……気持ち。


 だから――――。


「俺は……俺の気持ちをあきらだけに向けることは……できない」

「?!」

「……ごめん、な」

「いやだ、いやだよ! なんで……どうしてそんなこというの? わたし……なにか悪いことした? 拓人のいやがることした? 謝るから! 気に入らないところがあるならなおすから! だから……」

「……ごめん」

「どうしてよ……」

「……」

「どうしても……だめなの?」

「……ごめん」

「……」

「……」

「……しん……じゃえ」

「……」

「拓人なんて死んじゃえ! みんな、みんな……なくなっちゃえばいいんだーーーっ!」


――がさっ!


「あ……ちとせっ。今出て行くのはやばいって!」

「……そんなところにいたんだ」

「何……言ってるの、ちとせ?」

「また……生き返ったんだね、パパ」

「ちとせ?」

「……うるさい」

「えっ?!」


――ボンっ! がっ……どさっ。


「あぐっ! うっ……ち、とせ……?」

「せっかく……めぐみのパパも殺してあげたのに……じゃまなんてするから。めぐみも……死ぬ?」


 なん……だ? 今、なにが……おこった?

 小室と高橋……だよな?


 いま……ものすごい勢いで……吹っ飛んでなかった、か?


――ドクン。


 なんか……ものすごくやばい雰囲気……じゃないか?


――ドクン、ドクン。


「今度のパパは……結城君そっくりなんだね」

「高橋……だよな?」

「パパ……忘れちゃったの? あんなにひどいことしておいて」


――ドクン!


「念入りに……コワシテアゲルネ。二度と生き返らないように」

「お前……なに言ってるんだよ? 冗談……なわけないか」


「拓人なんて……きらい……。みんな……みんな死んじゃえば……いいんだ……。拓人なんていらない……みんなみんな、だいっ嫌い!」


――あきら?!


「あきらっ! 何してるんだ、早く逃げろ! なんかやばいっ!」

「もういいよ……疲れたもん……」

「なにふざけたこと言ってんだよ!」

「拓人さんっ! 早くこっちへ!」

「佳乃さん?! だめだこっちに来ちゃっ!」


 俺の声が聞こえていないのか、佳乃さんがこっちに走ってくる。何が起こってるのかわかんねぇけど……今の高橋は……狂ってる! しかも人間を軽く吹っ飛ばせるようななにかを持ってるのか?

 かなりやばいぞ。


「壊れると、楽になれるよ。あきらも……死ぬ?」


 いつの間にか、あきらのすぐ隣に高橋が――やばいっ!


「こっちに来い、あきら!」


 俺はあきらの腕を思いっきり引っ張る。


――間一髪!


 高橋の腕の延長が爆ぜる!

 俺たちが数瞬前までいた地面がえぐれ、衝撃波が俺とあきらを襲った。


 なにがあった?! 何も持ってなかったよな?


「なんだよいったい……漫画じゃねーんだぞ!」

「……フフ、逃げても……無駄。大丈夫、壊してあげるから」

「なにが大丈夫だ! ふざけんな!」

「拓人さん、早くこっちへ!」

「佳乃さんも逃げて! 早く警察に!」

「それは――無理です」

「えっ?!」


――なんだ?

 佳乃さん? 俺の知ってる佳乃さん……か?

 佳乃さん……だよな?


 俺は少しの疑問を感じつつも、あきらを引きずって佳乃さんの隣まで駆け寄った。


「拓人さん……絶対に私のそばを離れないでくださいね」

「え……あ、ああ」

「おまえ……? そうか、昨日の……」

「昨日はどうも、お嬢さん」

「今日は……逃げられないから。わたしを必要としてくれるヒトがいるもの……」


 そう言うと、高橋は腕を水平に上げて……。


――――っドっ!! ガコッ!

――ゴゴゴゴゴゴ、ドスンっ!


 その腕の延長。

 さっきまで俺たちがいた、神社の横の石垣が崩れ落ちた。

 もうもうとたちこめる、砂埃すなぼこり

 見えない何かが通り過ぎたような?


「いったい……何をしたんだ?!」

「圧縮した空気を投げたんです」

「え……?」


 俺の問いに答えてくれたのは、佳乃さんだった。


「ちょっと寒くなりますけど、我慢してくださいね」

「え、ああ……」


 佳乃さんはわざとおどけたように、そう言った。そしてその指が、複雑な形を描いていく。これって確か……印とかいうやつか?


 でも……指を動かすたびに佳乃さんの顔が苦痛にゆがむ。腕のけがか。何がなにやらわかんねぇけど……今、一番まともなのは俺って事じゃねぇかよ。


 となればやることは一つだ。


「佳乃さん。ここは俺が何とかするから、あきらを連れて逃げてくれっ!」

「だめです……逃げられ……ません。ここはもう……あいつの結界の中です……」

「ケッカイ? 結界か? なんだよそれ」

「こういう……ものです」


――えっ?


 空から白く冷たいものが落ちてきた……。

 一つ。

 二つ。

 それは次第に数を増していく。


「真夏に……雪?」

「私の力は……幻雪。これであいつを……殺します」

「……どういう、ことだよ?」

「彼女は……『』に魅入られました。あのチカラは危険です」


――ドクン。

 少し、寂しそうな佳乃さんの横顔。


「マ? なんだよ……それ。それになんで佳乃さんがそんなこと知ってるんだよ?」

「説明は……後でします」


 そう言うと、佳乃さんは高橋ちとせに向かって駆けだした。


 佳乃さんの言う、チカラっていうものが何なのかはわからない。高橋ちとせのチカラも……少なくとも、今までの人生における常識外のチカラだってことしかわからない。


 佳乃さんのチカラ、幻雪。雪や氷を作りだし、意のままに操るもののようだ。それに対して……高橋ちとせのチカラは空気の圧縮、そして解放。


 勝てるわけないじゃないか!


 俺の乏しい知識でもそれくらい容易に想像がつく。空気の圧力を自在に操れるんだとすると佳乃さんのチカラである冷気をすべて遮断することができるって事だ。


 俺の推察を証明するかのように、佳乃さんの攻撃はことごとくはじかれ、止められている。今はかろうじて相手の攻撃もよけてるけど……このままじゃ、やられるのも時間の問題か。


 なにか……何か無いのか? 俺ができる、何かは! 佳乃さんは俺たちを助けるために戦ってくれてるんじゃないか! こんなところで見ているだけなんて納得できるかよっ!


 佳乃さんが幾度目かの攻撃をヤツに加える。当然のごとく受け止められ届かない。そんな、現実とは思えない光景。

 でも――。

 それを受け入れないことには……みんな、死ぬ。


「なにか……なにかあるはずだ」


 いつの間にか、辺りには雪が降り積もっていた。こんな状況なのに、誰もなにもいってこない。それどころかまだ打ち上がっている花火の音までかき消えている。


 これがさっき言ってた……結界ってやつなんだろう。隣でふるえているあきらや、俺、そして……佳乃さんにも雪が積もりはじめている。

 ただ、一人だけをのぞいて。


 雪……? あいつに触れようとする雪が……?!

 ヤツが佳乃さんを攻撃する……その瞬間だけ、あいつにも雪が……触れてる?!

 もし俺の推測が正しければ……!


「あきら、ここから動くなよ」

「拓人……一緒に……死んでよ……。もう……いやだよ、つらいよ」

「馬鹿! なに甘えてんだよ!」

「でも……いたいんだよ……。つらいんだよ……」

「……」

「……もう、なんにもなくなっちゃった……のに」

「あきら……」

「……いたいんだよ……。苦しいんだよ……」


 俺はあきらの正面に向き直った。


「……誰かを。誰かを想うってのは……つらいよな」

「……」

「想いが伝わらないのは……苦しいよな」

「……」

「それでも。それでもその想いは……確かにあるんだ。たとえ届かなくても。伝わらなくても」

「……拓人?」

「今は……つらいかもしれない。苦しいかもしれない」

「……」

「でも……。好きだって気持ちは……いやだったか?」

「……」

「誰かを好きだって……想うのはいやだったか?」

「いやじゃ……ない。いやなわけ……ないよ」

「想いは……消えない。想いは……なくならない!」

「でも……」

「何をいまさらって思われるかもしれないけど……。俺、あきらのこと……好きだったよ」

「?!」


 俺は佳乃さんの元へと走った。


「拓人……さん?! どうしてこっちに?!」

「佳乃さん、気づいてる? あいつの攻撃の瞬間、雪!」

「!!」


 その瞬間、あいつの圧縮空気弾が俺たちの横を通り過ぎた。この雪のおかげでなんとか軌道が読める。そうか……この雪を降らせているのは、相手の攻撃を見切るためか。佳乃さん、戦い慣れしてるな。


「拓人さん……今の!?」

「ああ! 攻撃する瞬間だけ、あいつの周囲の空気の層が消えてるんだ。つまり……」

「無制限に空気を圧縮することはできないってこと、ですね」

「さすがは佳乃さん! ってことで俺がおとりになるから」

「だ、だめですっ! そんな……危険です、やめてください!」

「大丈夫、この雪のおかげで俺でも空気の動きは見えるから」

「でも……」

「他に……方法が無いんだ! 頼んだよ、佳乃さん!」


 そう言って、俺は高橋ちとせ……いや、敵に向かって走り込む!


「何を話したかしらないけど……無駄」

「そいつはどうかな? もうおまえの攻撃に当たるつもりはないぜ?」


 俺はあいつの空気弾を紙一重でよける。所詮、空気そのものを人力で動かしてるうちは、距離にさえ注意すればよけられないことはない。相手が気づかないうちに勝負を決めないと……。


「どうだ! もうお前の思うようにはさせない!」


 何度と無くあいつの攻撃を避ける。もう少しだ……もう少しで佳乃さんの攻撃範囲に入る!


「当たらない? そうか……そういうことか。この……雪」


――ばれた?! まずい!


「ちっ、雪ばかり見過ぎたか!」

「そんなに雪をみたいなら……どうぞ」


 そう言って、あいつは……圧縮空気を俺の足下にぶつけた!


「何?!」


 雪が……。

 地面に降り積もっていた雪が舞い上がり、俺の前に壁になって……視界を奪った。


――まずい、見え――。


「拓人、危ないっ!!」

「なっ?!」


――ドンッ!


 俺に当たるはずだった空気弾は……。

 俺の目の前で。

 俺の好きだった少女に。


――――直撃した。

 糸の切れた人形のように、少女は……転がった。


「こほっこほ、ごふっ!」

「あきら!」

「……結城君は……大丈夫だった?」

「あきら、あきら!」

「大丈夫……みたいだね、良かった……」

「あきら……なんで……」

「あきら、じゃないよ。二ノ宮……だよ、結城君」

「あき……ら……」

「もう……何度言ったら……わかるの……よ」

「あきら……なんで、どうして俺なんかをかばったんだよ?」

「……惚れた……弱み、かな? やっぱり拓人がいない世界なんて……考えられないから」

「あきら……」

「あ、ごめんね……拓人じゃなくて、結城君……だよね」

「拓人でいいよ……いいに決まってるだろ?!」

「だめだよ……。それじゃだめなの……。それだと……困るから」

「……」

「結城君が困るから。わたしが……結城君を困らせる……から。だから……だめ」

「もういい……いいから……」

「……」

「?! あきら?」


 胸の動きが、あきらの命を告げる。気を失った……だけだよな?


「あきら、待ってろよ……今、病院に連れてってやるからな」


 俺は後ろを振り向いた。そこには、一つの決着。

 佳乃さんの氷柱つららが高橋ちとせの胸を貫いていた。


「……もう、殺さなくて……いいんだね」

「お前……なんなんだよ!? 人を……友達をなんだと思ってやがる!」

「……わたし……誰も助けてくれなかった」

「なんだよ……それ」

「あんなに精一杯叫んでたのに、たすけてって……叫んでたのに」


 高橋ちとせの体が徐々に銀色の光に包まれていく。佳乃さんはもう、コイツのことを見ていない。つまりは……もう、すべて終わりって事なんだろう。


 これが……ヒトでないものの、死?

 マに魅入られし者の……末路?


「誰も助けてくれなかった。でも、わたしは違う。殺したいって叫んでいる人の代わりに……殺してあげたの。壊してあげたの」

「……」

「誰も……わたしの叫びを聞いてくれる人はいなかったけど。私はみんなの思うとおりに壊してあげただけなのに……」

「お前……さ」

「……なに? 結城、拓人君。キミだってあきらの気持ち、聞いてあげられなかったでしょ? 言ってあげなかったでしょ? あきら、ずっと叫んでたのに」

「そうだよ! 俺……バカだからな。だからわかることもある」

「……?」

「お前、助けてって……叫んだって……言ってたよな?」

「……」

「お前……それを言葉で伝えたか? 口に出して叫んだのかよ?」

「……」

「ヒトってのはな、言葉にしないと通じないことだってあるんだよ! そのせいでつらいことや、悲しいことを背負うことに……なるんだ」


 これは、俺に……俺自身に向けた言葉だ。俺がバカだったばかりに傷つけた、女の子に対しての……謝罪の言葉。許してもらえるなんて思ってないけど……。

 でも言っておきたかったんだ。


 今度はちゃんと、言葉にして。


「言葉にしないと伝わらない……か。そうか……そうだね……わたしも馬鹿か」


 そう言う高橋ちとせだったものは、そのほとんどが銀色の光に包まれていた。


「ありがとう、結城拓人君。あきらがキミのこと、好きになった理由が……わかった」

「なんだよ……それ」

「わたしはそれで救われた。今度はあきらを救ってあげて……」


 銀色は……。

 高橋ちとせだったものは……。

 いつの間にか空の真ん中にいる月へと還っていった。


 あいつは……。

 あいつは救われたって言ってた。

 でも……こんなのが、こんな事が救いだなんて……俺は……認めない。

 認めないぞ! 絶対に、認めない! 死んだら終わりだろ? 死ぬことが救いだなんて……俺は絶対に認めないっ!!


「――すみません、拓人さん」

「!?」


 その言葉を最後に……俺の意識は――――――。

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