悪プリースト③


   「う…全身が痛い」


 何故か頭やら腕、腹や脚など、到る所が鈍い痛みを訴える。

  記憶を探ると一つしか思い出せない、ヴァニエラに酒を吞まされた。


 それ以外その夜の出来事が思い出せないが、酒で痛いというと

  二日酔いというものがあるらしい。それなのだろうか。


 頭は何かで殴られているみたいに響く鈍痛。

  体は響くというよりも、部分部分がズキズキと酷く痛む。


 然し、起きて飯くって、俺のスキル検証なぞを――はて。

  目を開けた俺の目の前にあるこの白い二つはなんぞや?

 強烈に酒臭く、ほんのり温かさが伝わってくる白い何か。

  結構な大きさで、黒い布で何か刺繍の入ったものがついている。


 首を傾げると急に、凄い力でその二つに顔を押し付けられた。

  押し付けられたというか、引き寄せられた。

 柔らかい。然し…酒臭い!!


 これはまさか。


  「…何がどうなってこうなった」


 酔いつぶれた先の記憶が無く、俺の現状はトランクス一枚はいた

  状態でベッドに寝ている。


 同じく下着姿のヴァニエラに抱き寄せられて。

  だが、何故かふんわり気持ち良い状況どうしたものか――


 強烈なハグで背骨が軋む。ハグが緩んであっち向いたかと思えば

  寝返りからの裏拳が落ちてきて、俺の左肩に直撃。


 この全身の痛みはこの人の寝返りか!!


 再び掴まる前にベッドから転がり緊急回避。

  痛みを堪えつつ立ち上がり、ベッドを見ると涎をたらして

  幸せそうに寝ているヴァニエラ。

 対面のベッドを見ると、スヤスヤと静かに寝ているクルナ。


 …。ふと思ったが、美女と美少女と一緒の部屋に寝てる。

  凄い状況だな、在り得無い。そう思い、頬を抓るが現実だ。

 現実なのだが、酔っぱらいに、妹みたいな子。

  何か非常に残念な気がしてならない。


 取り合えずは壁にかけてある制服を…いい加減洗わないと臭いそうだ。

  スキル検証の前に衣服の調達だよなぁ。


 などと思い、窓の外を見るがまだ夜明け前。

  取り合えず、喉の渇きが凄いので水を貰いに下へ行く。


   「あらおはよう、早いわね?」

   「リーアさん、おはようございます」


 そう言うと、頭痛いでしょ?と、何か小さな紙に乗せられた

  水色の粉と水を渡された。二日酔いの薬だろう。

 それをありがたく頂戴して、冷たい水を流し込む。


   「ぶは…にが」

   「あはは。お酒はまだ早かったわね」

   「嫌いになりそうですよ、お酒」

   「まだストレス溜める年齢じゃないだろうから、

     その内、吞みたくなるわよ」


  そんなものなのか? と、思いつつ礼を言う。

   それから暫く俺は、目を覚ますついでに外を散歩し、

   再びギルドへと戻ると、カウンターにクルナとヴァニエラが座っていた。

  

 ヴァニエラはシャワーを浴びたのか、酒の臭いが若干抜けている。


  今度はクルナに絡んでいるようだが…。


    「で? 得意な魔法は?」

    「ふぁ…ファイヤボールですぞ」

    「あんなもの、めくらまし程度だろが」

    「う、うぅ」


  後ろで聞いた俺は耳を疑った。

   クルナの使ったファイヤボール…グレネード並みの威力ありそうなんだが。

  少なくとも鉄巨人の残骸が吹き飛んだぞ。

   あれがめくらましというのは可笑しくないか? と。


    「おはようございます。二人とも」

    「お、どこいってたんだシノブ」

    「あーっ!どこいってたんですのだよー!!」


  互いに挨拶をして、朝食を済ませつつ、俺は今後の行動を彼女達に

   話した。そうすると俺の固有スキルを尋ねられたわけだが…。


    「へぇ。まるでスライムみたいだなシノブ」

    「わぁ、スライムみたいね。凄いじゃないシノブ君」

    「スライムですのだ、シノブお兄様」

    「ス…スライム…」


  リーアさんまで止めて下さい。判ってはいるけど、

   俺の中ではスライムって―――

   最弱のモンスターだから止めてあげてください!!


    「ま、まぁそれは置いといて、スキルをどうやって使うのか、

      それの検証がてらクエストをと」

    「成程ねぇ、大体理解した。なら一つおしえとこうか。

      そのスキル、例えばシノブ、お前の各属性抵抗が極めて低い

      とすると,それを反転、極めて高くも出来る」

    「スライムの持つアレよりも上位スキルですのだよ」


  また口調変えようとしてるな。然しふむ。ダメージ反転の他にも、

   属性耐性の反転…他にも色々ありそうだが、聞けば効果はいずれか

   一つのみらしい。巧く噛み合えば、これは凄いスキルなのだろう。


  それを聞いていたリーアが、俺の属性抵抗値を診てくれる…と。

   彼女の固有スキルは看破。それありきでギルドなぞをやっているらしい。


  で、気になる俺のステータスを紙に書かれて差し出された。


  JobLv:冒険者Lv5 スキル:反転

   HP1200 MP50

   筋力25 防御12 速度25 運45 知能120


  武器適正:剣・槍


  光:0 闇:0 火:0 水:0 風:0 土:0 無:0


  …おおぅ。見事に属性抵抗値がALL0かよ。

   そして割と知能高めで、後衛or中衛向きらしい。

   なのに武器適正が近接って…。


    「見事な魔術師殺しねシノブ君」

    「こりゃすげぇな。対魔術に関しては最高じゃねぇか」

    「知能…知能がおかしいですのだ!!」


 そのまま勢い良く、残りの二人も看破し、紙を見せてきたリーア。


  JobLv:大神官Lv25 スキル:吸収

   HP8900 MP580

   筋力450 防御120 速度250 運1 知能20


  武器適正:杖


  光:0 闇:100 火:15 水:50 風:4 土:20 無:8


 ヴァニエラのかな。筋力と防御とHPやべぇ。

  後衛職のステータスじゃないだろうこれ。

  然し、運が…ご愁傷様な気がする。



   JobLv:魔術師Lv12 スキル:剣聖

   HP4500 MP420

   筋力480 防御550 速度850 運44 知能50


  武器適正:剣


  光:吸収 闇:半減 火:10 水:25 風:5 土:50 無:12


 クルナ…もう前衛やれよ…なんだこのステータス。

  確か剣聖スキルの恩恵の一つに身体能力上昇があったはず。

  加えて光属性吸収て…。闇半減て…。


 クルナのステータスが記された紙を呆れ顔で見るヴァニエラ。

  だが判る。宝の持ち腐れだ。


   「なんだこりゃ。こんな馬鹿げたウィザードは

     世界広しといえど、テメェ一人だけだよ」


 それに対し、それでも魔術師になりたいのだと、

  何か並々ならぬ拘りを持つのか、口を尖らせているクルナ。

 同時に、クルナもヴァニエラのステータスを見つつ反論。


   「ヴァニエラお姉様も酷いですぞ!?

     大神官のステータスじゃないですぞ!!」

   「あ、いやまぁ、修道僧…モンクという見方もできるからなぁ…」

   「シノブお兄様あぁぁぁぁぁっ!?」


 あ、しまった。中立に徹するのが身上の俺としたことが…。

  慌てて、まぁ運が酷いしと言うと、頭の上に落雷が如き拳骨が落ちた。


   「誰が男運が無いだってぇ?」

   「いや、そこまでは言ってません…」


 と、とまぁ。現状。冒険者、大神官、魔術師と…。

  前衛1、後衛2に見えるが実質前衛3なんだよなこれ。


 それを一部始終見たリーアが、敵の裏をつけるから、

  ある意味、凄い面子だねと、フォロー。


 …うん。まともな後衛が欲しいです。ホント。

  そのまま朝食を済ませ、リーアさんに代金を支払う。

 そして、衣服を調達しに行き、なるべく安物の衣服を購入。


 理由としては、ミステアから貰ったお金が25万ギール。

  クエスト報酬も合わせて30万と5千。


 朝食代やら小物で5000ギール消費。


 お金があるからと、油断していい所持金では無いので、

  クエストにスキル検証を兼ねて行く為、再びギルドへと。


 受けた依頼はこれ。


  ファイアフライ駆除。報酬は討伐数に応じて変動するが

   基本報酬は15000ギールと。人数で数を倒せれば美味しいらしい。


 明らかな火属性、加えてファイアブレスというモノで

  広範囲の田畑を火の海にしてくる害虫。その駆除だな。


 リーラに礼を言うと、俺達は東門から出ると田畑が広がる地帯があり、

  そこに遥か東に存在する紅竜の住処と呼ばれる山から飛んでくる虫退治だ。


 これは最早、街の風物詩となっており、毎年この季節…季節あるのね。

  まぁ、季節になると飛んでくる。冒険者達にとっては、稼ぎ時であり

  一種の祭りみたいなものらしい。


 既に多くの冒険者が良い場所だろう所を陣取っているのだが…。

  四人の冒険者達に後ろからズカズカと歩み寄り――


    「おう」

    「うげ…ヴァニエラ…ど、どうぞ」


 おう。の一言でいい場所を奪い取った。仲間を守るように逃げようとした。

  慌てて割って入り、頭を下げるしか出来無い俺が居た。


    「どわーっ! すみませんすみません。

      ウチの仲間がご迷惑を…」

    「あ? くれるってんだから貰えばいいだろうがよシノブ」

    「駄目だよ…。あの人達、早くから待ってたんだろうし」

    「甘いねぇ。そんなんじゃあ、生きてけねぇぜ?」

    

 どんな生き方してきたんだろう。この人の中ではアレか…。


     力こそ正義


 スラム育ちでそれが確立しているのだろうか。

  甘さを見せるとそれが命の危機に直結するような。


 どう彼女に伝えようとしたその時、茶髪を無造作に短く切った

  剣士風の男性が、それなら共闘しませんか?と、申し出てくれた。


    「ああ!?」


 その言葉に、気分を害したのか、ヴァニエラが全身から明らかに

  ドス黒いオーラが漏れているように錯覚した。


   「敵なら最悪だけど、味方なら最高だしね」

   「そうそう。頼れる姉貴って感じで最高っすー」


 …あれ? 明らかに怒っていたヴァニエラが、

  黒髪ロングの魔術師の女性と、盗賊かな?

  身軽そうな金髪の少年が、明らかな尊敬の眼差しでヴァニエラを見た。


   「だ、誰がテメェ等と…」


  両腕を組みつつ、顔を横に向けてしまうが、頬がほんのり赤い…これは。

   

   「ま、まぁ。どうしてもと言うのなら」


  ああ、やはり、ちょろい。

   ちょろいが沸点が極めて低いので、扱いが難しそうだ。


  そんなこんなやり取りを見つつ、俺はふとクルナを見る。

   昨晩よりはマシだが、やはり顔色が優れない。

  そんなにヴィザハールが怖いのだろうか…。

   あんなに良い人なのに。


  と、俺達は、遠くから鈍く響き渡る羽音が聞こえてくるのを察知し、

   臨戦態勢を取り、ファイアフライ迎撃へと。


 

 



 

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