悪プリースト②


 色々あって疲れたけど、街の襲撃が無しになって良かった。

  再び、胸を撫で下ろしつつ、宿泊先のギルドのドアを開けた。


 流石に時間も時間、人も少なく…なかった。酒盛りだ。

  いや宴会? まぁ、何か知らないが盛り上がっている。


   「おや? 街を『連魔』から救った英雄の凱旋のようだね」


 お盆にビールか何かを乗せて、店の中を忙しく駆け回るリーアが

  こちらを見てそう言う。すると、周囲の人達が一斉に立ち上がる。


   「おぉぉお!! ようやく主役のお出ましかよ!!!」

   「どうやって追い返したのか、教えてくれよ兄ちゃん!!」


 へ? ナニコレ。どういう状況? と、隣のクルナを見るといまだに

  ガタブルが止まらないようで、顔面蒼白。

 …そんなに怖がる相手なのか? 常識の通じる良い人に思えたが。


 というかそれどころじゃない。人津波再び。

  どわっと押し寄せられながら、質問攻め。

 然し…、流石に妹の恥部を広めるわけにもいかず、

  攻撃対象を俺とクルナに仕向けた。とだけ。


 湧き上がる歓声に、悲鳴まで聞こえたような。


  「し、正気かよ…狂ってやがる!!」

  「俺も大概だが、この命知らずはとんでもねぇぞ!!」


 もしかして、とんでもな悪魔だったのかな。

  折角なので色々聞いたみたりすると、少し、後悔。


  『連魔』ヴィザハール


 元第二天界の高位神、この世界ロークアークに魔術を広めた

  魔術の神。だったらしい。

 遥か昔に第一天界の傲慢さに呆れ果て、自らの翼を引き千切り、

  悪魔へと堕ち、主神に挑んだ者。

 結果、敗れて地上に落とされてはいるが、その魔力は世界を覆う程。

  100にも及ぶ魔術を同時に使う事が出来るらしい。


 …化物じゃないか。然し成程、連続魔法で連魔ね。

  どうしよう、そんなののヘイト集めちゃったワケ?

 クルナが怯える理由がここか。


 これは悪い事したなぁ…と、俺はクルナの頭を撫でる。

  然しもう過ぎた事だし、諦めて強くなろうか。

 反転なるスキルも使いようなのだろう。

  何よりその連魔が太鼓判押してくれたしな。


 さて、疲れたし、皆には悪いけど、寝室に戻って寝―――


  「ようリーア。今夜は気分が良い、酒だ酒!!」


 あれ? このドスの効いた声は…。

  入り口へ振り向くと、ヴァニエラがギルドへ入ってきた。


 …嫌な予感しかしないので、即座に二階へ!!

  行こうとしたのだが、瞬時に見つかり呼び止められた。


  「おう、シノブじゃねぇか! よし、テメェも吞め」

  「え!? あ、いや、俺、お酒吞んだことなくて…」

  「はぁ!? んじゃ尚更だ、吞め」

  「いや、その…」

  「吞めないってのか? アタシの酒を」

  「いや、すみません。イタダキマス」


 断ろうとするたび、ヴァニエルの顔が怖くなっていくので、

  諦めて折れた。…あ、しれっとクルナだけ二階に逃げただと!?


  「おし、それでいい」


 彼女は頷くと、周囲に向けて、今夜は驕りだ、ガンガンいけと叫ぶ。

  それに対し全員がジョッキを掲げて歓声を上げた。

 ただでさえ耳に堪えるドンチャン騒ぎに拍車がかかりだす。


 ヒートアップした野郎達が、ほぼ裸になりお盆でアレを隠しながら

  踊りだし、それを見た女性冒険者が悲鳴をあげる。これは酷い。


  「で、シノブよ。残党討伐PTは決まったのかい?」

  「え、あ…。クルナと二人以外まだですが…」

  「ほーう。あのウィザードの子か。

    アークプリーストはいるかい?」


 確か、ゲームでよくあるプリーストの上位職…?

  かなんかだよな。でもこの人、この言動で神官!?

  どう見ても道の人なんですが…。


  「どっちなんだい?」


 痛い、痛い痛い痛い! なんつう握力、頭を握り潰されそうだ。

  頭蓋骨がミシミシと悲鳴をあげているのが判る。


  「いたたたた! いや、助かりますけど、多分…」

  「多分ってなんだ多分て」


 言葉を選び損ね、更に俺の頭蓋骨が悲鳴をあげる。


  「いや、まってそういう意味じゃなくて、

    ヴィザハールと戦わないとかもしれないので…と!!」

  

 それを言い終えると、何とか痛みから解放される。

  俺の頭を握りつぶさんとしていた彼女の右手がジョッキを

  握り、赤紫の液体がはいったソレを自身の口に当て、

  一気に流し込んだ。


  「…ぷはーっ!! 連魔が相手だから、やめておけ?

    上等じゃねぇか。このヴァニー様がぶちのめしてやる」

  「いやー…やめといた方がいだだだだだだだ!!」

  「ま、仲良くやろうや、兄弟」

  「いやちょ!?」


 何か、うん。もう無理矢理仲間入りしてきたような勢い。

  断れば頭が潰れたトマトだしな、仕方無いと諦めた。


  「つーかよ、シノブ。…吞めやこらぁぁぁぁぁあっ!」

  「いや、まって押し込まな―――」


 赤紫の液体を無理矢理に口に流し込まれた。

  甘酸っぱい味の後に、苦味。

 なんだこれ、なんだこれ不味い! 不味過ぎる!!


 というのが今夜最後の記憶。どうやら俺は吞まされた直後、

  酔いつぶれて気絶したのだった。


 

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