第四話 悪プリースト ①


  何とかヴィザハールを帰す事に成功し、

   当面の危機は去ったと言える。

 

  ほっと胸を撫で下ろしつつ、南門へ行くと、

   集まっている中で回復を使える方がいたら、

   向こうの怪我人を治療してあげて下さい。そう言った。


   「おぉぉぉぉ!!」

   「六堕天の一人、『連魔』ヴィザハールを相手に無事とか…すげぇ!!」

   「へ?」


  津波のように人が押し寄せてくるが…。


   「いやちょ! 怪我人いるからそっち優先させて下さいよ!?」

   

  余りの圧力に、押し潰されそうになるが、

   凛とした声というよりも、ドスの効いた女性の一喝で

   その場の全員が一瞬固まり、後退していく。


  例えるならモーゼの十戒に出てきた、海を割るお話。

   まさにそれである。人の海が割れて、後ろの方から

   一人のシスターの格好をした銀髪の女性がこちらへ

   歩いてくる。


  目は鋭く、猛獣を彷彿とさせる蒼。

   そんな彼女に何をされるものかと、一瞬たじろいだが、

   俺の横も通り過ぎ、怪我人の下へと。


  見た目は怖いがプリーストかなんかかなー…。

   と、安心した瞬間。


   「ヒール!!」


   ごすっ。と、打撃音。  


  回復魔術だよね? ヒールって。

   なのに何で拳で殴ってるの?


   「何時まで寝てんだ糞がぁぁあっ!! ヒール!!」


  うわ…今度は踏みつけた。


  …。殴られ蹴られ、散々な目には遭っているが、

   回復したのか、起き上がってくる冒険者達。


  全員が起き上がるのを見ると地面に唾を吐き、

   こちらへと戻ってきた。

  そして、俺の横を通り過ぎ――


   「よぉ少年。首尾はどうなんだい?」

   「え?」

   「ヴィザハールと何かナシつけてきたんじゃねぇのか?」

   「あ、はい。一応、この街の襲撃は無しの方向に収まりましたが…」


  それを聞くと、彼女は口元を歪めた。歪めたに見えるが、

   これは彼女なりの笑みなのかもしれない。


   「ほう…。気に入った。アタシはシスター・ヴァニエル。

     気軽にヴァニーと呼んでくれや兄ちゃん」

   「あ、はい。忍といいます。宜しくお願いします」

   「おう。また会おう」


  そう言うと、ヴァニエルは通り過ぎて行き、

   南門に集まった人達を怒鳴り散らし、帰宅させていく。


  何か、すげぇ人だな。豪快な男前…いや女性か。

   言ったらさっきの殴打回復くらいそうだ。

  ただヴァニエルの豪快なリーダーシップを呆然と見ている俺に、

   クルナが刀を抱え込んでトテテと走りよってきた。


   「凄いですぞ!あの六堕天の一人を追い返すなんて凄いですぞ!?」

   「あはは、ありがと。彼が紳士で助かったよ。

     まぁ…根っこの所は悪魔なんだけどね…」

   「ほうほう、どう言う意味ですぞなもし?」

   「ぞなもし!? ん、ま、まぁ、あれだ。

     俺とクルナが代わりに近い内に狙われるかも?と」

   「な、なななな…何でそうなったのですかぁぁぁっ!?」


  事の顛末を全て話すと、クルナが激しく肩を落とし

   絶望を全身で現している。

  まぁ、俺達が強くなれば良い。それだけの話だ。


   俺にもあった固有スキル、反転。


  あらゆるモノを逆の結果にするものなのだろう。

   ダメージを治癒にしたり…しか思い浮かばない。

  まぁ、色々試してどこまで使えるものか、見つければ良いかな。


  一人納得しつつ、ガタガタ怯えているクルナを連れつつ

   宿泊しているギルドへと戻った。 

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