才無き強者③
「何をしてるですぞシノブお兄様!!」
何をしてるか? 今、まさに、鉄巨人とガチンコバトルだ。
「早く背の剣を抜くですぞ!!」
抜きたいんだけど、恐怖で足が竦んで、手に力ががが。
身の丈30mはあろうかという巨躯に、鋼鉄が朝日に反射し眩しく光る。
明らかに防御と攻撃両方がヤバイ。一発でも貰えば爆散必死である。
じりじりと後方へと、勝手に足が下がる。そしてついに体も後ろ向きに…。
すかぁん!!
向いた瞬間、顔に石ころがぶつかった。 なんで?
顔を左手で抑えつつ飛んできた先を見ると、クルナが投げていた。
「クルナ、何すんだよ!!」
「それほどの名剣を携え、何故そんな鉄くずが倒せないですぞ!?」
「これの何処が鉄くずだよ!!」
「鉄くずですぞ、鉄くず以外の何物でも無いですぞ!!」
流石に頭に来たのか、んじゃクルナ、お前ちとやってみろよと。
慌てて駆け寄り激しく抗議。
「よかろうですぞ。 火よ来たれ、我が手に来たれ、
集まり集いで火球と成せ!!」
「おぉ」
木のスタッフを地面に突き刺し、そのスタッフに両手を翳して詠唱していると。
スタッフの前方に火が渦を巻いて集まる。 まさか一撃で溶かすのか!!!
「ふぁいやーぼぉぉぉぉぉおっ!!」
「お、おおお」
ぷすん。
と、何かスタッフの先から煙が出た。
「おいクルナ」
「ファイヤーボールが、プスンとか言わなかったか?」
「き、気のせいですぞ!! 目の錯覚ですぞ!!!!!」
ズズンという足音が、ズズズンと近づき、ズドンズドンズドンと早足になる。
待て、鈍重なのに足速いぞ…あ、歩幅やべぇぇええ!!!!
「だーっ!! 取り合えず退却だ退却ーっ!!」
「こんな筈は無いですぞ! 会得したのですぞ、使えるのですぞ!!」
どごーん!!
言い合いをする俺達の手前に、大槌とも言える巨大な拳が落ち、
土煙を巻き上げながら、衝撃で吹っ飛ばされる。
「やっぱ無理だろこんなデカブツあぁぁぁああっ!!!」
「無理でなかとですぞ!! こんなの雑魚だとよですぞぉぉおおっ!!」
強がりもいい加減にしろっ!と、怒鳴りながら草原をゴロゴロと転がる。
どう考えても勝てない。 くそ、逃げ…。
起き上がった俺達に一際大きな影が落ちる。
その影は鉄巨人の足。俺達から見たら真っ黒い足の裏だった。
「あーっ!! 終わったぁぁぁああっ!!」
ずどむ!
という鈍い音が聞こえ…る筈だった。
筈なのに、聞こえる音は、何だっけ…そうだ鞘走りだ。
刃金と鞘が滑る音と共に、キィンという音が一つ響き渡る。
鋼鉄の足が左下から右上へ切裂かれ、俺達を避けるようにズリ落ちた。
「うむ。やはり名剣。見事な切れ味ですぞ」
「…へ?」
ナニコレ、何で魔術師が居合い抜きして、鉄を斬り割いてるの?
わけがわからないよ!!!
「ほほう。へしきりはせべ と、言うのですぞ?
良き名ですぞ…ならばへしきりはせべ。
その業、このクルナに今一度、伝えませいですぞ!!」
そうクルナが言うと、再び納刀からの抜刀。
残る左足を、まるでバターでも斬るかのように斬り抜けた。
更に、振り返りざまに身を沈め、一気に跳躍し、体勢を崩す
鉄巨人の背を駆け上り跳躍し、大上段からの一振りで、頭から
股間部まで一気に斬り割いた。…なんで?
ズズン…と、
両断された胴体が二つに分かれ、土煙を上げて地へと落ちた。
「うむ。素晴らしいですぞ、へしきりはせべ」
その声と共に、地へと着地し軽く刀を振り払い、
美しい音色と共に鞘へと納めた。
「いや、おま…なんそれ」
「お見苦しい所を、ごめんなさいですぞシノブお兄様」
「いや、見苦しいどころか、美しいの一言だって…」
この子、鋼鉄を斬りやがった…。いやつか魔術師ぃぃぃぃ!!!?
「な、なぁ、魔術師だよな?」
「命の危険を感じたので仕方なかったですぞ。
それに凄いスキルもついてくると伝えた筈ですぞ」
「凄いスキル…あ、確かに言ってたな。叩き売りの時に」
「ワタクシの固有スキルは、剣聖ですぞ。
聞けば1000年に一人の割合らしいですぞ」
ねぇ。どう突っ込めばいいかな。突っ込んでいいよね?
なんで物理系チートそうなスキルもってんのに、
魔術師なんてやってんだと。
叫んでいいよね? 吼えていいよね!?
「何でテメェそんな凶悪なもん持ってて、
魔術師やってんだくるぁぁぁああっ!!!」
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