第27話「繋がる夜」
27話「繋がる夜」
夢は1冊の鉱石の本を見ていた。
それも1つしかない律紀の寝室にあるベットの上で。律紀の姿はない。
夢は、もちろん本の内容を集中して読むことも出来ずに、ただパラパラとページを捲っていた。
先ほど律紀から借りた洋服を夢は身につけていた。彼の長袖のTシャツにズボン、そしてロングのニットカーディガンを着ていた。
すると、彼の香りが夢を包んでいるようで、先ほどから夢は頭がくらくらしそうな気分だった。恋人になったばかりの、大好きな彼の香り。
そして、自分のこの状況はかなり緊張するものであった。
今、律紀はお風呂に入っていた。
夢はその間、夕食の片付けをして、好きに見ていいと言われた本棚から鉱石の本を取り出して見ていた。「先に休んでていいですよ。」と律紀に言われたけれど、夢はそんな事ができるはずもなかった。
フカフカのベットは、普段ならばすぐに夢を眠気に誘ってくれるはずだけれど、きっとこの場所に慣れるのは当分先のような気がしていた。
「あ、起きいてくれたんですね?」
「………うん。」
「じゃあ、寝ましょうか。明日は仕事がおやすみだとしても、眠いですよね。」
律紀はそう言うと、ベットに近寄ってきた。
夢は律紀の顔を見れずに、うつ向いてしまっていた。
読んだふりをしていた本を棚に戻し、彼がいるベットに戻る。
「夢さん、どうぞ。」
「……うん。」
律紀はそう言うと、座りながら布団を捲ってくれた。
夢はゆっくりとベットに入って、横になるとふわりと布団を掛けてくれる。
その時にちょっとした風でまた彼の香りがして、ドキリとしてしまう。
前回は、彼に背を向けてしまったけれど、今日はそれも出来ず、そして彼の方を向くのもはずかしくて、夢はまっすぐと前を向いて天井を眺めるしか出来なかった。
すると、律紀がリモコンで照明を消したので、間接照明だけが寝室を淡い光りで照らしていた。
夢は緊張しすぎてしまっているのか、体を動かせないまま、瞼だけを閉じた。
寝てしまえば、いいのだ。そんな風に思った。
けれど、隣でギシッというベットが軋む音と、布団が擦れる音がした。
夢が目を開ける前に感じたのは、抱き締められているという事だった。
律紀の体温と肌の感触が、伝わってきて夢はすぐに目を開ける。
「おやすみなさいって挨拶するつもりだったんですけど………やっぱり我慢出来ませんでした。」
「り、律紀くん……。」
体を引き寄せられてから抱き締められたので、向かい合うように体が彼と密着していた。
耳元に聞こえる彼の声は、いつもより艶があるように聞こえたのは気のせいだろうか。
律紀の言葉の意味は、言わなくてもよくわかる。
恥ずかしい気持ちもあるけれど、自分を求めてくれる彼が愛しくて仕方がなかった。
夢が自分から律紀の胸に顔を擦り付けるように寄せると、律紀の体が少しだけ固まった。けれども、そこから早い鼓動が伝わってきて、夢は安心した。
彼もドキドキしてくれている。自分だけではないとわかった瞬間から、夢は少し気持ちが落ち着いた。
「ねぇ、律紀くん。」
「はい……。」
「キスしてほしいな……。」
「僕もしたいんですけど、してしまうと我慢出来なくなりそうなんです。………我慢出来るだろうって思ってたんですけど、やっぱり好きな人と一緒になるとダメですね。僕も普通の男みたいです。」
「………さっき、律紀くんは律紀くんのままでいいって話したでしょう?だから、律紀くんがそう思ってくれたの話してくれて嬉しいし………その、私だって好きな人に求められるの、嬉しいんだよ?」
きっと小さな光だけでもわかってしまうぐらい、自分の顔は赤いのだろうと夢は思った。
とんでもない事を言ってしまっていると自覚していた。
どうして彼の前だと、恥ずかしいことでも言ってしまうのだろうか。
そう考えると答えは1つしかなかった。
律紀が好きだから。
彼が好きだから、自分からも彼を求めてしまう。呆れられたり、嫌われたりするかもしれない、という考えも飛び越えて、自分の気持ちをぶつけてしまうのだ。
そんなにも夢中になるぐらいに、夢は彼が好きなのだと、自分でも驚くぐらいに律紀に惹かれていた。
夢は、大胆な言葉を言った後にじっと彼を見つめていた。
どんな反応をするのか怖かったけれど、自分の気持ちをしっかり伝えるには、彼を見ていなければダメだと思ったのだ。
すると、律紀は呆気にとられた顔をした後、少し頬を染めながらギューっと目を閉じて我慢をしているようだった。
けれど、すぐに目を開けると、前髪をかきあげながら焦りの表情を見せた。
「………あー、我慢出来ないです……。」
「……っっ………ぁ、りつきくん………。」
先ほどのキスよりも熱くて深い。夢を食べてしまうように口を開けて、唇を貪るりキスをする。そんな彼の強引なキスに、夢を圧倒されながらも、体がキューっ締め付けられるぐらいの幸せを感じていた。
誰かに必要とされたい。欲しいと言われたい。そんな恋愛に憧れていた自分に、そんな気持ちをぶつけてくれたのは、夢自身が愛した人。
それはとても幸福な事なのだ。
彼の熱をもっと感じたい。
キスの感触に溺れたい。
そう思っていても、やはり不安なことはある。
「律紀くん……っ、ちょっと待って……。」
「……夢さん?どうしたんですか?……やっぱりダメ?」
熱を帯びた彼の瞳が、淡い照明に照らされてゆらりと光った。妖艶にも見える彼の姿に、ハッとなりごくりと唾を飲み込んでしまう。
「あ、あのね。そのー私も経験あるわけじゃないから……年上なんだけど、先に謝っておくね。」
「……それは僕も同じですよ。夢さんに無理させないようにしますから。」
「………律紀くん。」
「だから、夢さんを感じさせてください。」
彼は恋愛下手かもしれない。
けれど、だからこそ着飾らない純粋な言葉が、彼の魅力だと夢は思った。
愛しい人の素直な気持ちを知って、「イヤだ。」と言えるはずがない。
いや、夢はそんな事を言うつもりなどまるでなかった。
夢は彼の眼鏡を両手で外して微笑み、体を少し浮かせて彼の頬にキスをした。
すると、律紀は嬉しそうにニッコリと口元を緩ませると、夢の右手の掌に唇を落としながら眼鏡を受け取り、それをサイドテーブルに置いた。
少したどたどしい動きは、じれったさを感じつつも彼が自分を大切にしてくれる事がわかった。緊張した顔でも、目が合えばいつもの優しい彼の微笑みがあった。
けれど、少しずつお互いに余裕がない表情になる頃には、夢は彼に翻弄されるばかりだった。
うっすら汗ばんだ体に、優しい声、熱い体温に、彼の香り、そして、律紀から与えられる快楽。
全てで夢は律紀を感じ溺れていく。
それがとても幸せで、嬉しくて涙が溢れる。
切ない顔で、律紀が夢を見つめる。
夢がぎこちなく微笑むと、律紀は切ない表情を浮かべながら顔を近づけてキスをしてくれた。
「夢さん、好きです………。」
何度も名前を呼ばれながら、夢はそのまま目を閉じて律紀の感触に酔いしれた。
この夜が、あともっともっと続けばいいのにと、願いながら。
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