第22話「過去の繋がり」
22話「過去の繋がり」
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夢は、律紀の家の浴槽に入りながら、体を暖めていた。
3時間もの間、外で待っていたので、やはり体は冷えきっていたし、左腕はガチガチに固まっていた。
律紀は少し高めの温度に、設定してくれてようであっという間に体が温まった。
浴槽の中で左腕を揉みほぐしながら、夢はいろいろな事を考えていた。
やはり律紀はアメリカに行っていなかったようで、自宅に帰ってきた。
後少し待っても帰ってこなかったら、夢は自宅に帰ろうと思っていたので、律紀の車を見た時はホッとしてしまった。
けれど、彼が何をしたくて日本に残ったのかはわからない。
あれほど熱心に光る鉱石を調べていたし、望月がアメリカの記事を見せたときも喜んでいたので、それ以上の事となると夢は想像がつかなかった。
そして、夢が外で長時間待っていた事に彼は怒った。
夢自身は、気づいたらそんな時間だったという感じで、そんなに長い時間居たつもりはなかった。
けれど、実際に体はかなり冷えきっていて体調を悪くする危険もあったはずだ。
それを思って彼は心配してくれて、少し強くい言葉で怒ってくれた。
そしてそれを謝ってもくれた。
「やっぱり律紀くんは優しいなぁー。」
失恋をしたばかりだと言うのに、彼の事を考えると、ドキドキしてしまう。
自分は本当に律紀が好きになっていると、夢は改めて実感していた。
それと同時に、叶わない片想いだともわかっているのが辛くなってしまう。
彼に直接フラれてしまうのが怖くなってしまう。
けれど、何故ここまで来たのか、3時間も彼を待っていたのか。
武藤夫妻からも理央からも背中を押されたはずだった。
それを思い出して、夢は湯船から勢いよく立ち上がった。
「くよくよしてたらダメだ!ちゃんと気持ちを伝えなきゃいけないんだから!」
夢は、自分に言い聞かせるようにそう言うと、浴室から出た。
律紀が準備してくれたふわふわのタオルで体を拭き、身支度をして何度も鏡でチェックしてから脱衣所を出た。
すると、キッチンの方からいい香りが漂ってきていた。
律紀が夕食を準備してくれていたのだろう。
お風呂上がりの赤らんだ自分の顔が恥ずかしかったけれど、夢はゆっくりとダイニングに顔を出した。
「お、お風呂ありがとうございました。」
「あぁ、上がりましたか。温まりましたか?」
「はい。お陰さまで。」
夢は律紀に頭を下げてお礼を言うと、律紀は安心した顔で微笑んで「よかったです。」と言ってくれた。
「あと、これをどうぞ。左腕に当ててみてください。」
「これは………?温かい……。」
律紀に手渡されたのは、布製の袋だった。受け取るとほんのり温かかった。
中には少し重いものが何個か入っていた。
「中に天照石という、岩盤浴などで使われている石が入ってるんです。レンジで暖めるだけでほんのり温かくて………ひなたぼっこをしてる気分になる温かさをくれるんです。」
「本当だ………なんか、優しいですね。」
夢はその袋を胸に抱き締めると、じんわり体の中が温まるのを感じた。
天照石の温かさと、そして律紀の優しさを感じ、夢は心がジーンとした。
やはりこの人が好きだ。
優しくて、真面目で、鉱石の事になるとこんなにキラキラした瞳で話をしてくれる。そんな律紀がたまらなく愛しいと思った。
その気持ちは止められるはずもなかった。
夢は、天照石の温かさを感じながら、律紀を見上げた。
緊張で、口はカラカラするし、目は潤んできてしまう。お風呂上がりの火照って体が、また熱を上げたように、頬が更に赤く染まった。
「律紀くんが好きです。」
「………え……。」
律紀の顔を見つめているうちに、ずっと隠してきた言葉が溢れでてしまった。
彼の驚いた顔が目に入ったけれど、夢はそれを見ても言葉を止めることが出来なかった。
「契約の恋人なんて事をお願いしたり、それを自分で止めたりして、自分でもバカな事ばっかりしてると思うんだけど……。年上なのに、幼いなって。………けど、本当は律紀くんと一緒に居たかった。側に居たくて、契約恋人をしたり、実験を了承したの。律紀くんには想ってる人がいるのはわかってるんだけど………好きって気持ちは止められなかったの……。」
「夢さん………。」
律紀は夢の顔を見つめ、そしてゆっくりと手を伸ばすと温かい指先で、夢の顔に触れた。
指で夢の目元にあった涙を拭ってくれる。
それで、夢は初めて自分が泣いていたのだと知った。
「あれ……なんで泣いて……ごめんなさい。」
「……僕は夢さんの事を泣かせてばかりですね。」
「そんなことないよ。律紀くんが好きだから、私が泣いてしまってるだけ。」
夢がそう言うと、律紀は悲しそうな顔で夢を見つめた。
そして、夢の右手を両手で持ち、ガーゼが当てられている傷口を優しく包んだ。
「夢さん、さっきの言葉を今から僕が話す事を全部聞いてから、よく考えてほしいんです。」
「………私は何を聞いても律紀くんが……。」
「僕が聞いて欲しいんです。」
律紀が首を横に振って、優しく微笑みながらそう言った。
大好きな彼にそう頼まれてしまっては、夢も嫌だと言えるはずもなかった。
それに彼から話を聞きたかったのも事実だった。
どうしてアメリカに行かなかったのか。
そして、武藤夫妻との取引は?そして、昔の事故の事について。
夢は、律紀の事を知りたいと思った。
「私も律紀くんに聞きたいこと沢山あるよ。だから、話して欲しい。」
「………ありがとうございます。」
夢は、彼の優しい笑顔につられるように、微笑んでいた。
彼の雰囲気が穏やかになり、そして、緊張感がなくなってきたことに、夢は少しだけホッした。
話が長くなるからと、2人はリビングのソファに座って話しをする事にした。
隣同士で座りながらも、横を向いて彼はしっかりの夢の方を見てくれる。
眼鏡の奥の澄んだ瞳で見つめられると、夢はやはりドキドキしてしまう。
「どこから話せばいいかな。」と少し悩んだ後、律紀は夢をまっすぐ真剣な視線で見つめながら話を始めた。
「僕は両親とも医師という家庭に産まれました。幸い兄がいたので、そこまで熱心に勉強をすすめられたわけではなかったんですが、やはり医師になる事は絶対でした。勉強することは嫌いではなかったので………その、成績はよかったのですが。昔から石、鉱石に興味を持っていて、こっそり鉱石の事も調べるようになっていたんです。」
律紀は、そこまで言うと少しだけ恥ずかしそうに苦笑した。
「幼い頃、どうしても鉱石が欲しくて。いつも本や辞典ばかりを買って貰っていたので、なかなか言い出せなかったんですけど。誕生日にやっとお願いして買ってもらった物があるんです。」
「どんな鉱石だったの?」
夢彼が1番始めた欲した鉱石が何だったのか夢は気になった。
やはり、キラキラとした水晶や宝石だろうか。そんな風に思っていた。
「マラカイトですよ。」
「………マラカイト……もしかして、それって……。」
夢は、すぐにスカートのポケットの中に入れていた物を取り出した。
ひび割れた、丸いマラカイトのキーホルダー。
夢は驚いた顔で律紀を見つめると、ニッコリ微笑んだまま彼は頷いた。
「そうです。それは、僕が持っていたマラカイトのキーホルダーなんです。」
夢は、驚きすぎて声も出なかった。
けれど、少しずつ繋がっていく過去。そこに、律紀が存在していた事がわかり、彼が今までしてきた意味をもっと知りたいと強く思った。
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