第14話「太陽の光を浴びながら」
14話「太陽の光を浴びながら」
「夢さん……夢さん。起きてください。」
「んー……まだ、眠いよ……。」
「お仕事ですよね?起きないとダメだよ。」
いつもよりふわふわで温かい布団。
夢は、やっと寝れたと言うのにすぐに起こされてしまい、また布団に潜りたくなった。
けれど、少しずつ頭が冴えてきて、どうしていつもより布団がふわふわで気持ちいいのか、そして、起こしてくれる人は誰なのか。それらを考えた瞬間、一気に目が覚めた。
夢は、すぐに布団から飛び起きると、律紀が驚きながらも、「おはよう。」と微笑んでいた。
彼はもうお風呂にも入り、セーターにズボンというしっかりとした服装になっている。
「おはよう、律紀くん。………起こしてくれてありがとう。」
そう言いながら時計を見ると、いつも起きる時間より早かった。けれど、1度家に帰るとなると丁度いい時間だった。
「律紀くん。体調はどう?元気になったかな?」
「はい!もうすっかり元気になりました。夢さんのお陰だね。本当のありがとう。」
「そんなことないよー。私なんて、結局お泊まりまでしちゃったし。」
「気持ち良さそうに寝てくれてたのでよかった。」
「…………看病する人が後から起きるなんて、恥ずかしいよ。でも、律紀くんが元気になってくれてよかった。」
律紀の顔色は、昨日よりとても良くなっており、普段通りに彼に戻っていた。
そんな彼を見て、夢はホッとした。
元気になったばかりの彼に、どうして泊まっていけ、なんて言ったのかを聞いてみたかったけれど、自分からその話しをするのはどうにも恥ずかしかった。
昨日言っていたように、夜道が危ないからなのか。それとも、病気をしていて寂しかったからなのか。
一緒にいたいと思ってくれたのか。
契約の恋人として、そんな事を言ったのか。
夢にはわからなかった。
「夢さん、ご飯食べますか?って言っても、昨日夢さんが作ってくれたおじやしかないんですけど………。」
「私は1回家に帰ってから出社するから、大丈夫だよ。おじやの残りは律紀くんが食べてくれると嬉しいな。あと、作り置きした料理が冷蔵庫に入ってるから、それは夕飯に食べてね。」
「え!?そんな事までしてくれたなんて。夢さん、ありがとうございます。」
「気にしないで。じゃあ……。」
夢がしわしわになってしまった服を整えながら、帰ろうとする。すると、律紀は「夢さん、これ。」と、何かを夢の右手に優しく押し付けるように渡した。
思わず受け取ってしまい、右手にあるものを見て驚いてしまう。
「えっ……何で、お金なんか……。」
「いろいろ買い込んで来てくれたし、料理までしてくれたから。材料費ぐらい出さないと。」
「そんなのいいよ!それにこの金額は多すぎる。」
夢の右手の中には万札が2枚あった。夢は、律紀に返そうとするけれど、彼は顔を横に振って全く受け取ってくれなかった。
「……夢さん、僕は夢さんに全部やってもらっているのに、何も返さないなんて嫌だよ。」
「でも……ほら、恋人としてやっただけだから、ね?」
「恋人なら尚更だよ。食材準備して、家まで来てくれて、料理もしてくれて。それで何もしないなんて、そんなの僕はヒモみたいじゃないですか。」
「そんな……ヒモなんて。」
「とにかく!これは譲れないのでっ!」
律紀はそういうと、夢の右手を両手でぎゅーと押さえ込んだ。
律紀は、考えを変えるつもりはない様子だったので、夢は渋々「ありがとう。」と言って、今回は受けとることにした。
彼の頑固な一面が見れたのには驚きだった。
年下なのに、こんな所まで気を使えるのは彼の良い所なのだろう。こんなに慣れているのに、彼女が今までいなかったというのが不思議だった。
「家まで送りますね。」
「え……律紀くんも仕事あるでしょ?それに、本調子じゃないだろうし。」
「僕の講義は昼前だけなので、今日はゆっくりだから大丈夫。帰ってきてから少し休むから。」
そういう律紀は、ポケットから車のキーを取り出した。すでに準備万端のようだった。
「じゃあ、お言葉に甘えて………よろしくね。」
「うん。昨日は僕が甘えたから、おかえしね。」
「そ、そうなんだ………。」
昨日の夜の事といえば、頭を撫で合った事だりうか。それとも一緒に寝た事だろうか。
どちらも思い出しては夢は、頬が赤くなるほど照れてしまう。
律紀はそれに気づいてか、いつもより嬉しそうに笑っていたのは気のせいではないはずだ。
その日から、また律紀との距離は近くなったように夢は感じられていた。
初めて会った時は、大人びていて少し近寄りがたい雰囲気で、落ち着いていて年上のような気がするぐらいだった。
けれど、今の律紀は違った。
少しずつ素を見せてくれているのか、年相応の言葉を使ったり、無邪気に笑ったりしていた。それでも、鉱石の事を話すときは真剣そのもので、そんな彼を見るのも夢は楽しみにひとつになっていた。
そして、今日は前に話しをした実験をする日だった。
夢の右手の鉱石は太陽光や紫外線を浴びることで光るのではないか、と律紀は考えていた。 そのため、今日は並べく右手の鉱石を太陽に当ててみることにした。
仕事をしている平日だとどうしても太陽の光を浴びる事が出来ないので、その日は休日に律紀と会う事になっていた。
外を歩いてデートをしながら実験をするのだ。
彼との契約恋人としてのデートは、何回かあった。仕事終わりに食事に行くぐらいがおおかったので、1日となると映画の日以来だった。
「寒くないですか?」
太陽の光を当てるには寒い中、外にいなければならない。
そして、右手だけは手袋も出来ないのだ。
2月という冬本番の気候では辛いものがあったけれど、夢はそんな事は気にしていなかった。
律紀とのデートが嬉しいのもある。それにプラスして大切にしていた右手の鉱石の事がわかるかもしれないのだ。
その期待感と興奮で体温が上昇しているのか、夢はあまり寒さを感じてはいなかった。
「うん。大丈夫だよ!左腕には、ホッカイロ貼って来たから。」
律紀は心配そうに左腕を見つめていたので、夢は淡い水色のコートの上から手で左腕を擦った。
その話を聞いて安心したのか、律紀はホッした表情を浮かべた。
律紀は茶色のチェスターコートに、黒とグレーのチェックのマフラー、そしてカーキ色のセーターと黒のスボンという服装だった。
背も高くスラリとしているし、知的な雰囲気が眼鏡をする事で更に増している。
出会った時から全体が整った人だと思っていたけれど、やはり今見てもその通りだと夢は思った。
先程から、ちらちらと彼を見る女性の姿を夢は目撃していた。
「夢さん、左腕に何かあると大変なので、僕の腕をつかんで。」
「え………腕を組むってこと?」
「はい。そうですけど………?」
自分が何かおかしいことでも言ったのか?と、不思議そうな顔で夢を見つめる律紀。
やはりこういう所は無垢なままだった。
けれど、最近は恋愛ものの漫画を見ているからか突然ドキッとする事を言ったり、したりしてくる事があった。
けれど、やればいいと思っているのか、脈略のない事をし出すので、夢は驚いてしまう事が多かった。
「じゃあ………お願いします。」
「はい。どうぞ。」
夢はおずおずと彼の腕を左手で掴む。
手を繋ぐよりも彼との距離が近くなってしまい、夢はどうしていいかわからずただまっすぐ前を向いて歩いた。
律紀はどんな顔をしているのだろうか。
いつものように、ニコニコと微笑んで平然としているのだろう。夢はそう思いながら、目線だけで彼の横顔をこっそりと見つめた。
すると、律紀の頬や耳の先が赤くなり、開いている手で口元を隠しながら、夢と同じように前を見て歩いていた。
その隠していた口元は夢からは丸見えになっており、彼の唇が上がっているのがわかった。
夢はそれを見て、彼も同じように照れているのだとわかり、更に顔を真っ赤にさせてしまった。
2人は付き合いたての初々しい学生の男女のように、ぎこちなく腕を組んで、恥ずかしそうにしながら冬の街を歩き続けた。
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