第13話「温かい夢と現実」
13話「温かい夢と現実」
日があたりぽかぽかした春。公園の草むらに寝そべって土の香りを感じながらうたた寝をする。
そんな夢を見ていた。
心地よいのは、ほのかに感じる温かさと誰かの呼吸。
隣に誰かいるのだろうか?
夢は不思議に思って隣を向くと、そこにはすやすやと気持ち良さそうに眠る律紀の姿だった。
あぁ、彼と一緒だからこんなにも穏やかな気持ちになれたんだ。夢はそんな事を思って幸せな気持ちになった。
けれど、隣の人とはただの契約の関係。
それを思うだけで、先程の穏やかな気持ちはなくなり、悲しみと焦りが夢の心を支配する。
「律紀くん。………私は………。」
夢が右手を彼の頬に伸ばした瞬間。
違和感を感じる。
夢が掌を見ると、そこにはいつもあるはずの光る鉱石がなくなっていた。
律紀と繋がることが出来る、唯一の鉱石。
これがなくなってしまったら、彼と過ごすことが出来なくなる。
「いや………どうして、石が………いやっ!!」
と、叫んだ瞬間。
夢は体をビクっとさせて、夢から目覚めた。夢はぼやけた目と頭で、周りをキョロキョロと見渡す。
「あれ………私、なんで寝て…………。あ、律紀くんの看病に来てたんだ。」
夢はベットに頭を預けて座ったまま寝てしまったようだった。
そして、右手は何故か彼の胸の上に置かれていた。そして、夢の左肩には律紀の手が乗っている。
ほのかに温かい彼の体温が服越しに感じられる。
「そうだ……。頭を2人で撫でながら、私まで寝ちゃったんだ。」
夢は、自分が気持ちよく寝てしまったことを、恥ながらも幸せな気持ちになっているのを感じた。彼のぬくもりと呼吸の音がとても安心できるのだ。
「食器片付けて、帰らないと………って、もうこんな時間!?終電は間に合わないかな。」
律紀の寝室にあった時計を見て、夢は驚いてしまった。寝ている間に日付が変わる少し前になっていた。
「………夢さん?」
「あ、ごめんね。私、寝ちゃったみたいで……….。片付けして、そろそろ帰るね。鍵だけ閉めてほしいんだけど。」
「……もう夜中だから危ないよ。送っていく。」
「それはだめ!律紀くん、体調悪いんだから。」
「………今日は随分お姉さんっぽいね。」
「私はこれでも年上なの。」
いつもはどんな風に見ているんだろう?そんな事を思いながらも、彼を叱るように見つめると、律紀くんは渋々「わかった。」と言ってくれた。
夢は納得してくれたと安心したけれど。律紀のわかったは、夢の考えとは違っていた。
ベットから体を起こした彼は、何故かこちらに両手を向けたかと思うと夢の体を抱き上げて、ベットに引き寄せたのだ。
「ちょっ………ちょっと!律紀くんっ!?」
「僕が送れないなら、泊まっていく?」
「え………。」
律紀の言葉にドキリとする。
男の人が泊まっていくと誘うのはどんな意味が含まれているのか。夢だって、それぐらいは知っている。
けれど、律紀がそんな事を言うとは信じられず呆気にとられてしまう。
律紀に抱き締められている体と、ふわふわの感触のベット、そして彼の香り。
それを感じてしまい、夢は一気に顔を赤くしてしまう。
「………律紀くん、なんでそんな事言うの?」
「あれ?この間見た、漫画本にはこういう風に添い寝するのがドキドキしてくれるみたいな事描いてあったんだけど……。夢さんは、ドキドキしない?」
「ま、漫画本って?」
「夢さんが好きだって言ってた恋愛ものの漫画。人気あるって書いてあるのから、少し読んでみたいんだ。」
「そ、そんなことしてたの…………?」
「いや、だった?」
自分のしたことが間違いだと思ったのか、ミスをしてしまった子どものように、律紀はシュンとしてしまっていた。
夢は、自分が彼を怒ったかなような罪悪感に襲われた。
彼は夢を思ってやってくれた事であるし、夢だって気になる男の人と、こうやって近くにいられるのは嬉しい。
だけど、偽りの恋人で添い寝までしてもいいものかと悩んでしまう。
体はとても熱くなり、彼の鼓動がつたわってきて夢の鼓動も早くなる。
気持ちは確実に揺らめいていた。
「で、でも、律紀くんはが具合が悪いんだし、一緒に寝たらゆっくり出来ないでしょ?」
「夢さんが作ってくれたご飯を食べたら元気になったよ。それにすごく熟睡できて、なんかすっきりしたんだ。」
「…………そうなの?」
「夢さんと一緒にいると寝れるみたい。」
嬉しそうに笑う彼はとても純粋そのもので、律紀の言葉を聞いて嬉しくなってしまう。
そこまで言われてしまうと、夢も負けてしまう。
「ね、寝るだけだよ?」
「それって、エッチな事はしないって事?」
律紀の言葉に、夢は絶句してしまう。
そして、顔を更に真っ赤にしながら精いっぱいの言葉を返した。
「っっ………そうです!」
「しないよ。約束する。それに僕も本調子じゃないし。」
「…そうだよね。」
ホッとしながらも、夢は彼を恥ずかしそうに見つめるしか出来なかった。
すると律紀は、自分が入っていたふわふわの掛け布団を捲り、ポンポンと自分の横を優しく叩いて夢に向かって「どうぞ。」と促した。
夢は緊張しながらも、彼の大きなベットに体を全て乗せて彼の隣に体を横たえた。
彼の方を見るのはさすがに恥ずかしくて、反対の方向を向いてしまう。
そこに律紀が布団を優しく掛けてくれる。
それだけで、律紀との距離がとても近くなるのを感じ、夢はドキッと体を震えさせた。
「温かい………でも、ちょっと恥ずかしいね。」
「そうね………。」
「じゃあ、電気消すね。」
律紀はそう言うと、ベットの近くにあったのか、照明のスイッチを消した。
一気に部屋が暗くなる。
本当に律紀と一緒に寝るんだ。
夢は、彼と自分の体温で温かくなる布団と、彼の吐息を感じながら、そんな事を思った。
律紀は、抱き締めたり、夢に触れることはなかった。
けれども、彼と同じ布団に入って眠ることが信じられない。
本当の恋人のようだな、なんて思うと嬉しくなるけれどこれ以上胸を高鳴らせたら、彼にドキドキしているのがバレてしまいそうで、夢は小さく呼吸を整えた。
「夢さん、おやすみなさい。」
「…………おやすみ。」
彼の優しい声がすぐ後ろから聞こえる。
抱き締められていないはずなのに、それぐらい近くに彼を感じてしまう。
その日夢が寝れたのは、夜が明ける少し前だった。
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