第263話

 レティオールがリゼの部屋を訪ねる。

 シャルルは先程の様子から用意に時間がかかると二人とも思っていたので、とりあえず簡単にお互いの近況報告をする流れになる。

 しかし、リゼの報告はシャルルと一緒に聞きたいというレティオールに、リゼは了承する。

 リゼがバビロニアから居なくなってから、二人で迷宮ダンジョンに潜っていた。

 夜までに迷宮ダンジョンから出なければいけないため、深い階層まで行く必要がないので二人でもそれなりに戦うことは出来た。

 リャンリーたちは領主の指名クエストを半ば強制的に受注することになり、何組かで迷宮ダンジョン内を見て回っているそうだ。

 領主からの指名クエストは、とても曖昧で迷宮ダンジョンの悪評をこれ以上酷くしないことだった。

 一般の冒険者たちは日没までに迷宮ダンジョンを出なければいけないが、一定数は守らない冒険者もいるため、その保護も含めてリャンリーたちにクエストを発注した。

 当然、リャンリーたちは日没後も迷宮ダンジョン内に残った冒険者の保護という名目で必ず数人は日没後も迷宮ダンジョン内に残っていた。

 リャンリーたちの仲間全員が毎日、領主からのクエストをしているわけではないらしく、クエストに参加しないリャンリーの仲間数人とパーティーを組んで迷宮ダンジョンや、町近場での簡単なクエストに挑んでいた。

 リャンリー曰く、同じ宿のよしみということらしい。

 パーティーの盾役である重戦士もいたため、レティオールにとっては、いろいろと学ぶことが出来た。

 他にも剣を使った攻撃も剣士や重戦士から教わり、臨機応変な対応が少しは出来るようになったと嬉しそうに話す。

 話を聞いていたリゼも嬉しい気持ちになっていた。

 レティオールは自分のことだけでなく、バビロニアと言う町の変化について話しを始める。

 やはり、ハセゼラの件はこの町に関わる人にとって衝撃だったらしい。

 結界石で守られているとはいえ、簡単に傷が付かないとされていた門に傷が付いたこと。

 そもそも意図的に門の扉に傷を付けようと考えたことなどが無い。

 長年、語り継がれていただけで、本当は脆いのではないか? と考える者。

 そして、結界石の信頼も揺らいでいた。

 結界石の信頼とは、それを設置して維持管理してきたアルカントラ法国に直結する。

 だからか、アルカントラ法国も領主から連絡を受けると、すぐに優秀な魔法師を派遣させた。

 同時に、迷宮ダンジョンの門が傷つけられたことを知ったフォークオリア法国からも人を派遣させる動きがある。

 再三、バビロニアに対して迷宮ダンジョンの結界を自分たちフォークオリア法国に、アルカントラ法国から鞍替えするようにと言い続けてきた。

 今回の件は、フォークオリア法国にとって吉報だった。

 アルカントラ法国とフォークオリア法国の両国が同時にバビロニアを訪れるということは事実だが、町の人には知らされていない。

 噂だけが広まることで、人々の不安を煽ることになる。

 険悪な二国によるバビロニアが巻き込まれるなど、根も葉もないことが囁かれていたからだ。

 この噂をリゼに話すレティオール自身も半信半疑だった。


迷宮ダンジョンに入れないことや、噂の関係で一旦、バビロニアを離れた冒険者が多かったよ」 

「バビロニアを去った冒険鞘たちは、どこに行ったの?」

「さぁ、そこまでは知らないけど、パーティーを解散して地元に戻るとか、拠点を変えるって話は聞いたかな。ただ……」


 レティオールは言い辛いのか、言おうとした言葉を一度のみ込む。

 リゼの表情を見て、飲み込んだ言葉を口にする。


迷宮ダンジョンで長く活動していた冒険者は、迷宮ダンジョン以外では使えないっていう冒険者もいるから……」

「そうなの? 初めて聞いた」

「僕たちは、そういう風に教えられたから、アルカントラ法国だけかも知れないね」

「でも、どうして……」


 アルカントラ法国が、そんな根拠のないことを教えてるのか分からなかったリゼだったが、実際は迷宮ダンジョンに拘っていると広い視野を持てなくなるし、多くの魔物討伐をしないため、冒険者として成長しないということを教えていた。

 レティオールが記憶違いなのか、教えて貰ったことを湾曲して覚えていたのかは定かではない。

 考え込んでいたリゼだったが、部屋の扉を叩く音がした。

 シャルルが来たので、改めて三人で話をする。


「私はですね――」


 レティオールの近況報告は聞いたと伝えたところ、シャルルはリゼの話を聞く前に自分のことを話し始めた。

 シャルルもレティオールと同じように、リャンリーの仲間たちと共に行動をしていたそうだ。

 ただ、迷宮ダンジョンに入れなかったことで、思うような貯金が出来ずにいた。

 本当であれば、リゼが戻って来る前にバフ支援魔法ブック魔法書を入手するつもりだった。

 リゼと別れてから成長したと思っていないからか、話が進むにつれて表情が険しくなっていく。

 レティオールがシャルルも頑張っていたというが、その優しさがシャルルの心をえぐる。


「次はリゼだね」


 沈んだ表情のシャルルから話題を変えるように、レティオールがリゼに話を振る。

 リゼはヤマト大国のことは話すべきではないと判断する。

 逃げ延びたヤマト大国のことをリリア聖国に知られることは絶対に避けるべきことだが、事実を知ったレティオールとシャルルにも危険が迫ることを危惧していた。

 まず、武器を忍刀に変えたこと。

 その忍刀は”宵姫”といい、名匠オスカーに製作してもらったことを話す。

 カリスのことはドヴォルク国以外では知らないことだと思い、意図的に名を伏せた。


「名匠に‼」

「凄いです‼」


 やはり名匠の武器というのは冒険者にとっては憧れだ。

 二人の反応は当たり前だと思いながら、リゼは話を進める。

 クナイを宵姫の横に並べて、投擲用の武器も棒手裏剣から変更したと話す。


「まだ、使いこなせていないけど……」


 指先から闇糸を出す。

 新しい魔法だということは二人とも理解しているようだが、どのような効力があるのか分からないようで、じっとリゼの指先から出ている闇糸を見ていた。

 出来るかどうか不安のまま、床に置いたクナイを拾い上げて指先から出る闇糸を結びつけるイメージをして、闇糸をクナイに取り付けた。


「本当は投げたクナイを回収したりするんだけどね」


 リゼが話すことに意識を逸らしたせいか、クナイと結びついていた闇糸が切れる。


「こんな感じで、実戦では使えないんだ」


 苦笑いするリゼ。

 成長していないと気にするシャルルに、自分もあまり成長していないのだと伝えたかった。

 だが、闇糸を習得したというだけでも成長しているため、シャルルには逆効果となる。

 明日からの行動について話し合うが、レティオールとシャルルはリャンリーの仲間たちに話をしてから決めたいと話し、リゼも了承する。

 


――――――――――――――――――――


■リゼの能力値

 『体力:四十三』

 『魔力:三十二』

 『力:二十七』

 『防御:十九』

 『魔法力:二十五』

 『魔力耐性:十二』

 『敏捷:百七』

 『回避:五十五』

 『魅力:二十三』

 『運:五十七』

 『万能能力値:五』

 

■メインクエスト




■サブクエスト

 ・瀕死の重傷を負う。期限:三年

 ・報酬:全ての能力値(一増加)


 ・殺人(一人)。期限:無

 ・報酬:万能能力値:(十増加)


■シークレットクエスト

 ・ヴェルべ村で村民誰かの願いを一つ叶える。期限:五年

 ・報酬:万能能力値(五増加)

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