第264話

 起床して外を見ると雨が降っていた。


(やっぱり雨か……)


 夢から現実に意識が戻ろうとした時に聞こえた音の正体だった。

 レティオールとシャルルは、リゼがバビロニアに戻って来たため、リャンリーの仲間たちと今後について話をする。

 今まで世話になっていた恩もあるので、簡単には抜けることは出来ないことはリゼも理解していた。

 なにより自分のせいで揉めることをリゼは嫌だった。

 背伸びをして、外出の用意を始める。

 今日はドワーフ族御用達の宿屋に行き、イズンを訪ねるつもりだ。

 ドヴォルク国から戻ったことを報告するためだ。


 部屋の外が騒がしい。

 人々が活動し始める時間になったようだ。

 リゼも部屋を出て受付まで歩いて行くと、レティオールとシャルルがいた。

 その後ろにはリャンリーが立っていた。

 リゼと目が合うと、再会の合図を目と手で挨拶する。

 頭を下げてリャンリーに応えた。

 どうやらリゼが来る前に、リャンリーたちとレティオールとシャルルの間で話がついていたようだった。

 その証拠にリャンリーの仲間たちの姿はない。


「お仲間は返すぜ」


 笑いながら、リゼの頭を軽く二回叩くと宿屋から出て行った。


 改めて三人になったリゼたちは、話し合いをする。

 とりあえず、リゼは今日の予定を二人に話す。

 まさか、昨日の今日で三人での行動が可能になると思っていなかったから、申し訳ない気持ちだった。

 二人からはリゼの用事を済ませてから行動すると快い言葉を受け取る。

 リゼは礼を言い、自分の用事が終わったら冒険者ギルド会館に寄り、クエストを確認してから、迷宮ダンジョンに向かうかを決めることにした。


 雨のせいか、噂のせいか分からないが、昨日よりも人が少ない。

 いつものこの時間であれば、全ての店が開いているが、まだ閉まっている店や準備うしている店も多かった。


「最近は、いつもこんな感じだよ」


 リゼの視線に気付いたレティオールが教えてくれた。

 昨日の話では知らなかったことだ。

 町を歩くことで、新たに気付くこともある。



 ドワーフ族御用達の宿屋に到着すると、ナングウに案内されたように裏にある別の入口の扉を叩く。

 しかし、建物内から返事はない。

 もう一度、扉を叩くと扉の向こうで物音がした。


「どちら様でしょうか?」

「以前、ナングウさんとカリスさんと一緒に来たリゼです」


 扉越しに名を名乗ると、暫くしてから扉が開く。


「お戻りになられたのですね」


 イズンが丁寧な言葉のあと、軽く頭を下げた。

 部屋へ案内しようとするイズンだったが、簡単な報告をするだけだったので、イズンの申し出を断る。

 ナングウとカリスは、ドヴォルク国に用事が出来たため残ったことを伝えるだけだった。

 ナングウやカリスに頼まれた訳では無いが、イズンに伝えるべきだと考えていた。

 イズンは感情を表に出すことなく、同じ表情のまま礼を述べる。


「他に御用はありますか?」


 淡々と話すイズンに応えるように、リゼも用件だけ話し終えるとイズンに挨拶をして別れる。


 そのまま、リゼたちは冒険者ギルド会館へと向かった。

 以前に訪れた時よりも冒険者が多い。

 やはり、迷宮ダンジョンへの影響が関係しているのだと実感する。

 いままで冒険者ギルドもクエストに力を入れていなかったため、クエスト数は少ない。

 その結果、クエストよりも冒険者の数の方が多い状態になる。

 オーリスや王都にある冒険者ギルドの通常運営に戻っただけだ。


「おすすめってある?」


 リゼはレティオールとシャルルに聞くが、二人とも目ぼしいクエストは残っていないと答える。

 他の都市同様に、クエストが貼りだされると同時に我先にと受注しようとする冒険者たちが多く殺到するからだ。


迷宮ダンジョンに入るしかないね」


 レティオールの言葉に、リゼとシャルルは頷き迷宮ダンジョンに向かって移動を始める。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「レティオール、御願い!」

「任せて‼」


 四階層にある地底湖中央の道を進み、ケルピーと戦っていた。

 盾でシャルルを守りながら、ケルピーの攻撃を防ぐ。

 攻撃を受け止めるのではなく、受け流したりと盾さばきが上手くなっていた。

 リゼも決して広いとは言えない場所で、所狭しと動き回りながらケルピーを追い詰めていく。

 少し前なら、この中央の道を進むという選択肢などなかった。

 四階層まで進むと、レティオールからの提案だった。

 リゼに話していなかったが、レティオールとシャルルはリャンリーの仲間と、二度ほど、この道を通っている。

 その時にケルピーの対策を聞いていた。

 レティオールは仲間を守るための盾の使い方を、シャルルは全方位に視線を集中させてリゼたちに指示を出す。

 守られるだけでなく、戦闘での自分の役割をリャンリーの仲間たちから学んだようだ。

 その時に、一緒にいたリャンリーからはリゼがいれば、この道を三人で通ることは出来るだろうと言われていた。

 少人数のパーティーだからこその言葉だ。

 中央の道を通ることに不安だったリゼと対照的に、レティオールとシャルルの顔に自信があったのは、この裏付けがあったからだ。

 目の前で戦うリゼの姿は、以前と同じだと感じ「任せて大丈夫」と自分の役割を全うする。

 ケルピーが水を集めて球体を作り始める。

 強力な水属性魔法で攻撃自体を相殺させたりして応戦する。


「リゼ。とどめは出来るだけ地上で!」


 レティオールの言葉にリゼが攻撃を躊躇う。

 ケルピーの素材は貴重だった。

 出現場所も分かっているし、討伐の難易度も高くない。

 ただ、上手く地上で仕留めないと、死体が地底湖に沈んでしまうため、入手が難しいとされていた。

 ケルピーの素材は魔核と、たてがみが高価な素材だ。

 他の部位は利用価値がなく、地底湖に沈められる。

 攻撃を一瞬だけ遅らせたリゼは、ケルピーを絶命させる。

 リゼは地上に倒れるように攻撃をしたつもりだったが、攻撃の反動で地底湖の方へと飛んでいた。

 リゼは無意識に闇糸を出して、ケルピーの前足に闇糸を縛る。

 縛ろうと意識すれば、闇糸は意識に応じて発動するのだと知る。

 それと同時に意識していないため太い。

 細い糸でも強度は同じだと、ハンゾウから聞いていたので無意識に出すことの重要さを再認識する。

 縛り付けたはいいが、リゼ一人の力でケルピーを引っ張ることが出来ずに地底湖へと引きづり込まれそうになる。

 シャルルがリゼの腰を掴むと、少し遅れてレティオールもシャルルとリゼの体を引っ張る。

 三人がかりで地底湖からケルピーを引き上げる。

 他の場所でもケルピーと冒険者が戦闘している。

 以前は地底湖の中心部辺りでしか攻撃をしてこなかったケルピーが、中央の道を通る冒険者に対して、場所を問わずに攻撃していた。

 当然、先行者が攻撃されれば、後ろにいる冒険者たちは立ち止まるしかない。

 その立ち止まった冒険者をケルピーが攻撃する。

 レティオールたちも、一度に何匹も出現するケルピーに異常性を感じていた。

 今朝、リャンリーから迷宮ダンジョンに入るなら気を付けるようにと忠告される。

 今まで冒険者が多く、保たれていた魔物と冒険者の均衡が崩れたのか、日を追うごとに魔物の数は増え凶暴さを増していた。



――――――――――――――――――――


■リゼの能力値

 『体力:四十三』

 『魔力:三十二』

 『力:二十七』

 『防御:十九』

 『魔法力:二十五』

 『魔力耐性:十二』

 『敏捷:百七』

 『回避:五十五』

 『魅力:二十三』

 『運:五十七』

 『万能能力値:五』

 

■メインクエスト




■サブクエスト

 ・瀕死の重傷を負う。期限:三年

 ・報酬:全ての能力値(一増加)


 ・殺人(一人)。期限:無

 ・報酬:万能能力値:(十増加)


■シークレットクエスト

 ・ヴェルべ村で村民誰かの願いを一つ叶える。期限:五年

 ・報酬:万能能力値(五増加)

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