第261話

 夜も更けていき、交代でしていた。

 リゼの見張りは終わり、今はミズキが見張りをしている。

 数時間後にはシキギ、ナヨクの順に交代する。

 リゼは横になりながら、闇糸の練習をする。

 クエストの習得は、どの程度使用出来るようになったらクエスト達成なのか? と思っていた。

 指先に集中すれば黒い糸が少しだけ出るようになる。

 ただ、ハンゾウが見せてくれた闇糸よりも太い気がする。

 細さを意識すると、闇糸は細くなるが持続するのが難しい。

 細く長い闇糸を出そうと、何回も何回も試していた。


「起きろ‼」


 突然、ナヨクの声が響く。

 その声に反応して、一斉に起き上がる。

 ロックウルフか他の魔物の襲撃だと理解していたので、すぐに戦闘態勢に入る。

 岩山に怪しく光る目が幾つも見える。

 先程と同じように、自分の場所が分かっているのか自然と移動していた。

 シキギが杖で大きな光の玉を生成すると、空に向かって放り投げた。

 ライトボールよりも大きな光属性魔法”ブライトボール”だ。

 マチスたちはあらかじめ分かっていたので、空に向かって”ブライトボール”を放つ前に目を瞑っていた。

 一定の高さで眩い光を放つ。

 その後、数十分は太陽と同じ光量を保つ。

 リゼは反応が遅れたため、光に目を当てられ視力を失う。

 長年、一緒にいた仲間との違いだった。

 いつものことでリゼにまで気が回っていなかった。

 そのことに気付いたのは、光が治まった時だったが後悔しても状況は変わらない。

 ブライトボールでロックウルフの位置を把握すると同時に、シキギは得意の雷属性魔法を放つ。

 効率よく魔法を放つシキギ。

 マチスとナヨクはヤンガスたちを守っていた。

 リゼの視力が戻るころには殆どのロックウルフを倒していた。

 長距離から中距離に関しては、魔術師の独壇場だ。

 圧倒的な戦力差にロックウルフは撤退を始める。

 岩の上に転がったロックウルフを狙っているのか、上空に何羽かの鳥系魔物が徘徊していた。


「すみませんでした」


 リゼは何も出来なかったことを負い目に感じながら、謝罪をする。

 マチスは、事前に作戦を伝えてなかったのは自分たちの落ち度だと、逆にリゼに対して謝罪をした。

 かしこまる二人に対してナヨクが「働いたのはシキギだけだ」と笑う。

 一度目が覚めてかつ興奮状態のリゼだったが、何事もなかったように再び横になるマチスたちに驚きながら、いついかなる時も体を休めることが出来るの冒険者としての条件だ。

 そういう意味では自分は冒険者になれていないと感じる。



 朝を迎えるがロックウルフからの襲撃は無かった。

 二度の攻撃で実力差を思い知り、無理をせずに次の獲物を狙うことにしたのだ。

 寝不足のリゼだったが、マチスたちと撤収作業を始める。

 結局、昨夜に練習をしていたが闇糸は細く出すくらいしか出来なかった。

 魔法という概念であれば、ブック魔法書を読めば習得出来る。

 疑問にも思わなかったが、魔法を簡単に習得できること自体が特殊だったのでは無いかとも思えた。

 同時に幼いころから鍛錬を積み、忍術を会得していたハンゾウたち忍たちに、尊敬の念を抱く。

 撤収作業を終えて、野営場所を立つ。

 ここからは険しい道のりになるとマチスがリゼに忠告する。

 片側は今までと同じように岩山だが、もう片方は崖。

 山を越えるため場所によっては、落ちると命を失うこともある。

 細い道をゆっくりと進むため、マチスたちも馬車を下りて歩く。

 馬車より少しだけ前後を歩くことになるが、それは落石や地盤を確認しながら進むことで、危険を低減させるそうだ。

 後方は魔物の襲撃を考えてだが、ロックウルフのように崖を駆け降りて来る魔物は危険があるため襲って来ない。

 襲ってくるのは鳥系の魔物になるが、その多くはスカベンジャー腐肉食魔物だ。

 ヤンガスがロックウルフの皮などをアイテムバッグに仕舞っていたのは、死臭を隠す意味があったのだとリゼは理解する。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 一つ目の山を越えて二つ目の山に向かっていた。

 この時点でドヴォルク国を出てから既に八日経っている。

 リゼたちは豪雨のため、足止めを余儀なくされていた。

 何度も往来しているからか、雲の動きや経験から豪雨の予測をしていた。

 外れれば外れたで問題無い。

 豪雨の影響で危険にさらされるよりは……という考えだからだ。

 怪しいと感じた段階で、あらかじめ知っている雨風が凌げる場所まで移動する。

 距離があるため、少しだけ移動速度が早くなったが許容範囲内の用だった。

 そして、予想は見事に的中して、雨が降り始めて三日間になる。

 雨だけでなく暴風に近い風が吹いているため、移動は出来ないと判断していた。 

 

 今いる場所は少しだけ入り組んだ場所になり、小さな洞窟に近い。

 見張り以外はする事がないので、各々が時間を潰していた。

 リゼは闇糸の練習をする。

 太い状態なら親指から小指まで繋ぐことは出来るようになっていた。

 しかし、それでもかなりの集中力が必要だった。

 指の間にある糸を一本でも細くしようとすると、一本が途切れたりして上手くいかない。

 その様子を見ていたシキギがリゼに声を掛ける。

 魔術師として魔法の扱いにはリゼよりも分かっているので、リゼにとっては有難いことだった。

 最初こそ、印象が良くないリゼだったが、時間とともに信頼関係を築いていた。


「魔法はイメージが大事よ。魔法師に我儘が多いって言われているのは、それだけ自分の欲などをイメージしているからなのよ」


 魔法師に我儘が多いと言われていることを始めて聞いた。

 国や地域による職業差別や偏見があるのかも知れないと、シキギの話を聞いて感じる。

 リゼが闇糸の練習をしていることは、シキギたちも知っている。

 魔法でなく忍術だと説明したところで混乱を招くだけだと思い、闇属性魔法だと一貫して説明をしている。

 だからこそ、ブック魔法書で習得した魔法を使いこなせないリゼを、シキギは不思議に思っていた。

 属性が無ければ、上手く使えないことはあるが、リゼは闇属性の適正を持っている。

 不器用なのか、魔法師でないため、魔法の習得が苦手なのだと思い可哀そうだとリゼを見ていた。


「そもそも、その闇糸の使い方をイメージしながら練習をしている?」


 シキギに指摘されて、リゼは気付く。

 練習することに意識を向けていたため、闇糸本来の使用の仕方を失念していた。

 ハンゾウに見せてもらったクナイに取り付て扱うことを頭に浮かべる。

 そのイメージで指を見つめて闇糸を出すと、先程まで難しかったことが簡単に出来た。

 一つのことに集中していたせいか、固定概念が強すぎて柔軟な発想が出来なかった。

 リゼは自分の悪い面だと猛省する。

 シキギのアドバイスで片手を両手にしてみると、より闇糸のイメージが強くなる。

 両手の距離を離すと、幼い頃に遊んだ”あやとり”に似ていた。

 あやとりを意識すると、さらに闇糸の扱いが楽になると、サブクエスト達成が表示された。

 ある程度の距離まで細く出すことで習得したと、スキルが判断した。

 だが、戦闘で使えるには程遠いので、今まで以上に鍛錬する必要があると決意する。

 そして、未だに表示されないメインクエストについて不安を感じ始めていた――。



――――――――――――――――――――


■リゼの能力値

 『体力:四十三』

 『魔力:三十二』

 『力:二十七』

 『防御:十九』

 『魔法力:二十五』(二増加)

 『魔力耐性:十二』

 『敏捷:百七』

 『回避:五十五』

 『魅力:二十三』

 『運:五十七』

 『万能能力値:五』

 

■メインクエスト




■サブクエスト

 ・瀕死の重傷を負う。期限:三年

 ・報酬:全ての能力値(一増加)


 ・殺人(一人)。期限:無

 ・報酬:万能能力値:(十増加)


■シークレットクエスト

 ・ヴェルべ村で村民誰かの願いを一つ叶える。期限:五年

 ・報酬:万能能力値(五増加)

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