第260話

 二日目の野営の準備を終えようとしていると、マチスとナヨクが周囲の異変に気付く。

 少し遅れてリゼ、シキギとミズキの順に警戒を強める。

 自然と護衛対象のヤンガスを囲んでいた。


「この辺りっていうことは、ロックウルフだろう」


 マチスが冷静に襲ってくる魔物を仲間に伝えると、三人とも頷く。

 何度も通っている場所だけに、現れる魔物も予想出来た。


「長期戦になりそうだな」


 ナヨクが面倒臭そうな口調と裏腹に、楽しそうな表情を浮かべて、体を軽く動かす。

 シキギは顔を左右に振りながらロックウルフの動向を探り、ミズキは少しだけヤンガスの方に体を移動させた。

 リゼはロックウルフの情報を思い出しながら、マチスたちの様子も確認していた。

 小石が転がる音に反応して、小石に視線が集まる。

 その瞬間、別方向からロックウルフが駆け降りて来る。

 いち早く反応したのはシキギだった。

 【サンダーバレット】を即座に放つ、致命傷にならなくても電撃で体の自由が奪われて山肌を転がったりすることで、後続のロックウルフたちは減速出来ずに、玉突き式に倒れる。


「シキギ、こっちは任せたわよ。ナヨクとミズキはヤンガスさんを守ってくれる」


 マチスが指示を出すと、三人とも了承する。


「リゼさん。一緒にあっちの相手お願い出来ますか?」

「はい、大丈夫です」


 即答したが、どのように戦えば良いか不安だった。

 しかし、ロックウルフに向かって走り出すと、そんな考えは吹き飛ぶ。

 マチスの動きを見ながら、死角となる場所に回り込む。

 仲間が倒される姿にロックウルフの動きが止まる。


「とりあえず、ここまでですかね」


 ロックウルフは縄張りに入った獲物を一度で倒せなかった場合、一度では諦めず、二度三度と攻撃をする習性がある。

 一度目の攻撃で圧倒的な実力差を感じると、二度目の攻撃をしてこない。

 シキギの魔法で大打撃を与えることが可能だが、地形のことを考慮すると使える魔法は限られる。

 ロックウルフは魔法攻撃を嫌うため、魔法攻撃を避ける傾向がある。

 シキギに向かって行ったロックウルフも方向を変えて、マチスやリゼの方に向かっていた。

 だが、リゼとマチスの攻撃に思った以上に仲間が倒されるのを目の当たりにしたことで、撤退を決める。

 リゼの目から確認出来なかったが、撤退前に遠吠えが聞こえたので、リーダーのロックウルフが指示を出していたのだろう。

 メインクエスト達成したが、宵姫忍刀が体の一部にでもなったかのように違和感なく使えたことに感動していた。

 カリスとオスカーに感謝をして、宵姫忍刀を仕舞う。


(外見に騙されていたかも知れないわね)


 マチスは納刀するリゼを見ながら、リゼの実力を認める。

 それはヤンガスを守っていたナヨクとミズキも同じだった。

 荷台で控えめな少女とは正反対の戦闘に驚かされていた。

 マチスとリゼの戦闘を少ししか見ることが出来なかったシキギだけ、リゼの評価は戦闘前と同じだった。


「ヤンガスさん。ロックウルフは持って帰りますか?」

「そうだね。いつも通り、魔核と皮に爪と牙くらいだね。残りは今晩の食料にしましょうか?」

「分かりました」


 倒したのは全部で八匹。

 その全てを解体することになるので、リゼも手伝うことにする。

 解体の間、シキギとミズキが見張りをする。

 体の構造は犬に近くある程度は理解しているので、解体は難しくなかった。

 手際良く解体するリゼに驚きながら、マチスとナヨクも解体を続ける。


(解体は短剣やナイフの方が楽だな)


 小太刀で解体するが細かい箇所の解体は難しかった。

 リゼは解体用に短剣かナイフの購入を検討する。

 三匹目を解体し終えると、ナヨクが二匹目の解体を終える。

 マチスは最後のロックウルフを解体中だった。


「手際がいいが、昔からやっているのか?」

「いいえ。冒険者になってから覚えました」

「ふーん」


 小さい頃より親の手伝いで解体をしているナヨクは、自分よりも上手く解体する冒険者と出会うことが少ない。

 解体の精度は自分の方が上だが、解体していた時間を考えればリゼのほうに上手に解体したと考える。

 解体技術は一朝一夕で身につくものでないことは、身を以って知っている。

 リゼが努力して得た技術だと、リゼの解体したロックウルフを見ていた。

 マチスの解体が終わると持って帰る部位は、ヤンガスがアイテムバッグに仕舞う。

 討伐した魔物はヤンガスが買い取り、その何割かをマチスたちに渡す契約となっているそうだが、リゼとの契約には入っていない。

 あくまでドヴォルク国からの依頼でリゼをバビロニアまで送るだけだった。

 商人なので損得勘定で動くことが大きい。

 リゼの素性が分からないこともあり、無下に扱うのはドヴォルク国への信頼を損なう可能性もあるため対応に悩む。

 過剰な報酬はマチスたちとの関係にも亀裂を与えかねないからだ。


「魔物討伐の報酬は、バビロニアに到着したときでいいですかね?」

「はい、構いません」


 ヤンガスの言葉に昔なら遠慮して断っていた。

 だが、働きに見合った報酬は貰うべきだという考えに変えた。

 これはクランにも迷惑が掛かるという意識が強い。

 自分一人でなく仲間にも迷惑が掛かることが嫌だった。


 それからも、ロックウルフからの攻撃に備えて交代で寝ずの見張りをする。

 夕食時、マチスが見張りをしていた。

 ナヨクが中心になり会話が進む。

 先日もそうだったが、ナヨクは話好きのようだ。

話題はリゼへと移る。

 素早い身のこなしでロックウルフを倒していくだけでなく、マチスのサポートをしっかりとしていたことをナヨク評価していた。

 シキギは、まともにリゼの戦闘を見られなかった。

そのため、話にも加われずにいたが、リゼに警戒せず楽しそうに話すナヨクに対して、不快感と嫉妬が混じった感情を抱く。

 話の流れでリゼも闇属性魔法に似た忍術が使えることを知ったシキギが口を開く。


「連携を取りたいから、その魔法を教えてくれる?」

「はい、構いません」


 リゼは口頭で説明をする。

 隠したところで意味がないし、闇属性魔法に嫌悪感を抱いているのであれば、言葉を聞いた時に分かる。

 ただ、シキギや他の三人も表情を変えなかったので、闇属性魔法に対して悪いイメージは無いのだろうと判断していた。

 戦力が多いに越したことは無い。

 シキギも好き嫌いで判断することなく、冒険者として最善のことだった。


「シャドウバインドは拘束するだけってことでいいかしら?」

「はい、そうです」


 シキギは少し考えると、シャドウバインドで自分を攻撃するよう言う。

 戸惑うリゼだったが、先程のシキギの質問の意図が理解できた。

 リゼは頷き、シキギに向かってシャドウバインドで攻撃をする。

 影から飛び出す棘に拘束されるシキギ。

 その様子にマチスたちも驚く。


「なるほどね……以前に見た【フレアバインド】と違い、大きなダメージは無さそうね。それに……」


 シキギは詠唱を始めて、リゼのすぐ横に向かってサンダーボールを放った。


「魔術師にとっては、それほど脅威ではないわね。手首が動けば、ある程度は狙った所に魔法を放つことが出来るわ」


 シキギの言葉はリゼにとって衝撃だった。

 体を拘束することは、攻撃を無効にしたと考えていたからだ。

 確かに話すことは出来るので、詠唱することは可能だし、腕や手首の角度を調整すれば杖から魔法を放つことも出来る。


「有難う御座います」


 リゼはシキギに礼を言うと、シキギは驚き戸惑う。

 まさか、礼を言われると思っていなかったからだ。

 しかし、リゼは自分の説明を聞いたシキギが身を以って“シャドウバインド”の弱点を教えてくれたのだと思っていた。

 もし、実戦で魔術師に使用していたら、間違いなく反撃されていたに違いない。

 だからこそ、このタイミングで“シャドウバインド”をより理解できたことは、リゼにとって幸運だった。

 理解力が強まったためか“シャドウバインド”が【黒棘こくきょく】と変わるが、リゼは気付いていない。

 魔法の特性を理解することで忍術の名に変わることをリゼが知るのは、もう少し後になる。


「まぁ、いいわ。あなたが戦力になることは分かったから」


 シキギは少しだけ照れながら、ミズキの横に移動して座ると、食べかけの夕食を口に運ぶ。

 ミズキの表情から、リゼに対して少しだけ警戒心を解いたことに気付いたミズキが微笑む。

 その微笑みに気付いたシキギは、心を見抜かれた気がしてミズキを睨んでいた。

 


――――――――――――――――――――


■リゼの能力値

 『体力:四十三』

 『魔力:三十二』

 『力:二十七』

 『防御:十九』

 『魔法力:二十三』

 『魔力耐性:十二』

 『敏捷:百七』(一増加)

 『回避:五十五』

 『魅力:二十三』

 『運:五十七』

 『万能能力値:五』

 

■メインクエスト




■サブクエスト

 ・瀕死の重傷を負う。期限:三年

 ・報酬:全ての能力値(一増加)


 ・闇糸の習得。期限:二十日

 ・報酬:魔法力(二増加)


 ・殺人(一人)。期限:無

 ・報酬:万能能力値:(十増加)


■シークレットクエスト

 ・ヴェルべ村で村民誰かの願いを一つ叶える。期限:五年

 ・報酬:万能能力値(五増加)

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