第242話

 カリスは多くの木々に囲まれている場所へと、足を踏み入れる。

 明らかに今までの岩肌が多くみえていた光景とは異なっていた。

 一応、道らしき場所を進むと見たことのない形の家が目に入る。

 手前には池らしきものがあり、ここからだと家が池の中央に立っているかのように思えた。


「お戻りでしたか?」


 突然、目の前に黒い衣装で身を包んだ人物が現れて、カリスに声を掛ける。


「さっきな。爺さんは野暮用で、あっちに行っている」

「そうですか」


 カリスの視線でナングウが何処に行ったのかが分かったようだ。


「ハンゾウはいるか?」

「なんでしょうか?」


 また、意識の外からというか突然、目の前に別の黒い衣装に身を包んだ人物が現れた。


「元気そうだな」

「はい、おかげさまで。私をお呼びになったということは、新しい任務でしょうか?」

「違う違う。お前に頼みごとなら、まずはコジロウを通す」

「そうでしたか。それは失礼しました」

「まぁ、コジロウにも挨拶するつもりでいたし、少し歩きながら話すか」

「はい」


 歩きながらカリスはハンゾウに近況のことを聞いていた。

 リゼは聞いてはいけない気がしたので、少しだけカリスたちと距離を取って歩く。

 リゼの後ろには、一定の距離を保ちながら黒い衣装の二人が着いて来ていた。


「それで、このリゼだが職業が忍らしい」


 カリスの言葉にハンゾウは足を止めて、リゼを見る。


「まぁ、転職したそうだから、敵ではないだろう」

「そうですか」


 一瞬、ハンゾウや背後から殺気に似たような雰囲気を感じたのは、気のせいでないのだと分かる。

 カリスの一言で重い空気から解放されたからだ。


「コジロウ様は御屋敷の中に居られます。すでに部下がカリス様が来られていることを伝えております」

「相変わらずだな」


 手際の良さをカリスなりの言葉で褒める。

 目の前の家の扉が開くと、見たことのない服を着ている長身で細身の男性が姿を現して、カリスに一礼した。


「体調はどうだい?」


 コジロウの一礼に応えるように挨拶をする。


「まぁ、良くも悪くもないですな。それで、後ろのお連れの方は?」

「あぁ、私と爺さんの客人だ。名前はリゼで、職業は……忍だ」

「忍ですと‼」


 リゼとコジロウの視線が重なると、リゼは自分の四肢が切られて首が胴体から落ちて、切り刻まれた自分の体を見上げていた。


「はっ!」


 咄嗟に首や斬られた箇所を手で触るが、なにも異常がない。

 なにより動かそうとした手足が重く感じる。


「コジロウ。そんなに殺気を当てなくても」


 カリスはコジロウのしたことが分かっているのか、笑っていた。

 だが、リゼは冷や汗が止まらなかった。

 本当に斬られた感触が残っていたからだ。

 それに体が重く、自由に動くことが出来ない。


「大丈夫か?」

「は、はい。今のは」

「コジロウの殺気だ。本当に斬られたと感じただろう」

「殺気……ですか」

「コジロウくらいの達人になると、実体験のように感じただろう」

「は、はい」


 殺気だということが信じられなかった。

 間違いなく体を切られた痛みを感じていたし、今も脳裏に残っている。


「それで忍と言うのは本当ですか?」

「あぁ、本当だよ。ただ、生粋の忍ではなく、転職したそうだがな」

「転職……そういうことでしたか」


 コジロウが目を伏せると、リゼが感じていた重苦しい空気が無くなる。


「失礼した。殺気を飛ばしたことを詫びさせていただく」


 コジロウが深々と頭を下げて、リゼに非礼を詫びる。


「大丈夫ですので……」


 突然のことで、うまい言葉が出て来なかった。


「どうぞ、こちらへ」


 コジロウは頭を上げると、リゼたちも中へと招き入れる。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 見たことのない造りの家に驚きながら、カリスの後をついて行く。

 入り口もそうだったが、扉が押したり引いたりするのでなく、横に開く扉にもいた。

 家の中の扉も同じような造りになっている。


「どうぞ、お座りください」


 コジロウに促された場所には椅子は無く、低い机が置かれていた。

 座る場所が分からず戸惑うリゼを見てカリスが先に座る。


「ここだ」


 リゼに隣に座れと、カリスが床を叩く。

 カリスと意図を理解したリゼが、カリスの隣に座る。

 コジロウは、カリスとリゼが座ったのを確認すると、自分もカリスとリゼの対面に座る。

 その際に、腰から武器を外して横に置いた。

 見たことのない武器にリゼの視線は自然と興味があった。

 リゼの視線に気付いたカリスがコジロウの方を見たまま呟く。


「あれは刀だ。この短刀や、小太刀と同じ製造方法だ」


 始めて見る刀にリゼの視線が釘付けになる。


「興味がおありですか?」


 リゼの視線に気付いたコジロウは横に置いてあった刀を手に取り、鞘から抜いて見せた。

 奇麗に輝きながら、緩い湾曲を描いている。

 なによりも小太刀や短刀と同じように、片刃なのが同じ種類の武器だということを確認した。


「これを使いこなせるのは、拙者たち”侍”しかおりませぬ」


 そう言うと刀を鞘に納める。


「ちなみにハンゾウたちの刀は忍刀と言って、少し違うぞ」


 カリスが話すとハンゾウはリゼの横に移動して、自分の忍刀を見せる。


「あっ、有難う御座います」

「忍刀は小太刀と刀の間くらいの長さだ。それに刀と違い湾曲していないだろう。これが忍刀の特徴だ」


 忍刀の話をするとカリスは止まらなくなっていた。

 正確には武器の話を始めた時点で、カリスの目は輝いていた。

 真剣に話を聞くリゼと違い、コジロウは「またか」と言った顔で見ていたが、

話が長くなると感じたのか、途中で話を中断させるとカリスも熱中しすぎたことを反省する。


「リゼ殿は転職して忍になったそうですが、他の忍に会ったことは?」

「いいえ、ありません。私自身、恥ずかしい話ですが忍について、ほとんど知りません」

「そうですか……」

「なにかあるんですか?」


 リゼの質問に対して、コジロウはカリスを見る。

 カリスは静かに頷いた。


「……長い話になりますが、お聞きになられますか?」

「はい、御願いします」


 リゼは神妙な面持ちのコジロウに説明を頼んだ。



――――――――――――――――――――


■リゼの能力値

 『体力:四十一』

 『魔力:三十』

 『力:二十五』

 『防御:二十』

 『魔法力:二十一』

 『魔力耐性:十六』

 『敏捷:百一』

 『回避:五十三』

 『魅力:二十四』

 『運:五十八』

 『万能能力値:零』

 

■メインクエスト

 ・購入した品を二倍の販売価格で売る。

  ただし、販売価格は金貨一枚以上とすること。期限:六十日

 ・報酬:観察眼の進化。慧眼けいがん習得


■サブクエスト

 ・瀕死の重傷を負う。期限:三年

 ・報酬:全ての能力値(一増加)


■シークレットクエスト

 ・ヴェルべ村で村民誰かの願いを一つ叶える。期限:五年

 ・報酬:万能能力値(五増加) 

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