第241話

 険しい山道を進むと、渓谷に出る。

 一気に景色が変わり、整備された道も完備されていた。

 商人の馬車が往来するためのようだ。

 朝早いこともあり、商人の姿は見当たらない。

 そもそも、ドヴォルク国に入国できる商人自体が少ない。

 渓谷を抜けると、大きな洞穴にバビロニアの迷宮ダンジョンの扉と同じような扉が目に入った。


「あれが、ドヴォルク国の第一関所じゃ」

「関所……ですか?」

「聞きなれない言葉じゃったかな。要は入国許可のない者は先に進めぬ。この先にもかなり厳しく荷物なども検査される。アイテムバッグの中に仕舞っていても無駄じゃ」

「それはアイテムバッグの中が分かるということですか?」

「正確には違うが、大よその内容まで分かるという感じじゃ。偉大な御先祖様が製作した希少な道具じゃ」


 ドワーフ族は鍛冶職人のイメージが強く、武器や防具を制作していると思っていたが、実用品のような道具も製作していることに驚く。

 しかし、ナングウの口から今は自分たちが使用する道具以外は製作していないことが語られる。

 時代とともに廃れた技術だと寂しそうな表情を浮かべた。


 扉の方に目を向けるとリゼたちの姿を発見したのか、立っているだけだった四人ほどいるドワーフ族たちの動きに変化があった。

 綺麗に扉の左右に整列したことでドワーフ族たちが六人いることが分かる。

 足を進めると、背筋を伸ばしてナングウたちが来るのを待っていた。

 まるで地位の高い人を招くかのようだ。

 ナングウが六人のドワーフ族に視線が合わせると、素早い動きで敬礼をする。


「御苦労じゃの」


 ナングウは笑顔と労いの言葉をかける。


「リゼちゃんよ。通行石を門衛に見せてもらえるかの」

「はい」


 言われるままに通行石をアイテムバッグから取り出して、門衛のドワーフに手渡す。

 丁寧に両手で受け取ると、すぐに通行の許可が下りる。

 カリスは他の門衛と話をしていたが、リゼの許可が下りたことを知ると会話を途中で切り上げて戻って来た。

 最初の扉が開き、関所と呼ばれる次の扉まで歩いて、アイテムバッグや身体検査をされる。

 短刀はカリスが持ったままだったので、短刀が検査されることは無かった。

 扉が開き、同じように進む。


「次が最後じゃ」


 ナングウがリゼを安心させるかのように話しかける。

 リゼは門衛の態度からナングウやカリスが、普通のドワーフ族ではないと感じていた。

 敬称が二人とも“様”だったことで確信もあった。


「本当なら一度に済ませるべきじゃろうが、幾つも門を設置することで外部からの攻撃に備えることも出来るから、面倒でも長年変わらぬ入国方法となっておる」


 扉というよりは、国を守るための門なのだとリゼは意識する。

 最後と言われた扉を潜るが、大きな場所に幾つかの箱や机に椅子が置かれていた。

 生活するための場所でないことは一目でわかった。


「ナングウ様にカリス様だ‼」


 二人を見つけたドワーフ族たちがナングウの所に集まって来た。


「おかえりなさい」

「お帰りを待っておりました」


 口々に帰国した二人に話しかける。


「ふぉふぉふぉ、まぁ落ち着きなさい」


 詰め寄るドワーフ族をたしなめる。

 だが、リゼに対しては厳しい目を向けられていた。


「ここは商人たちと交渉する場所じゃ。よほどの者でなければ、これ以上先に入ることは出来んからの」

「そうですか」


 リゼはドヴォルク国に来たのはいいが、この場所でなにが出来るかを考えようとしていた。


「リゼちゃんは大事な客人だ。先に進めるから、安心するといい」


 ナングウがリゼのことを大事な客人と言ったことで、ドワーフ族の評価が変わった。

ドワーフ族の雰囲気からリゼは感じ取る。


「その……」

「お前は私が製作した武器の所有者であり、職業が忍だからだよ」


 理由を聞こうとするリゼを抑止するように、カリスが説明をした。


「そういうことじゃ。それに儂らに、イディオームからの伝言を伝えてくれたしの」


 カリスの言葉にナングウも同意すると、門衛たちが一斉にリゼの顔を見る。

 門衛の表情からも好意的な印象になったことを感じる。

 そして、最後の扉を開くと多くのドワーフ族が往来する光景が目に飛び込んできた。

 男性も女性も筋肉質で、 男性の多くは立派な髭をたくわえている。

 一方で、カリスのような露出の高い服を着ている女性は少ない。

 建物からは煙が立ち上り、金属を叩く音が聞こえる。


「カリス。儂は野暮を済ませて来るから、リゼちゃんに町の案内をしてやってくれるかの」

「分かった。それで、ハンゾウの所には寄っていいのか?」

「そうじゃな。頼めるかの」


 カリスにリゼのことを頼むと、衛兵らしき服装のドワーフ族と一緒に歩いていった。

 いつの間にか群衆の中にいたのだろうと思いながら、ナングウの後姿を見る。


「改めて、リゼ。ようこそ、ドヴォルク国へ」


 カリスが両手を広げて、リゼを歓迎するポーズを取る。


「ありがとうございます」


 視線が集まるなか、恥ずかしそうに礼を言う。

 その間もカリスの右手には、リゼの短刀が握られたままだった。



 町を案内してくれるカリスだったが、やはり人気があるのか行く先々で声を掛けられる。

 カリスの隣で会話を聞いていたが、カリスのことを何人かが「オスカー様」と呼んでいた。

 リゼは”オスカー”という名を聞いたことがあったが、何処で聞いたかを覚えていなかった。

 老若男女から好かれるカリスを見て、自分とは根本的に違うのだと感じていた。

 金属を叩く音が、町……いや、ドヴォルク国のBGMのようだ。


「リゼたちは職業が選べるからいいよな」

「えっ、どういうことですか⁈」


 ドワーフ族は”鍛冶職人”という職業にしかなれないそうだ。

 十歳になると火の精霊と契約することで、鍛冶職人としての一歩が始まる。

 転職しようとしても、他の職業がないことは長い年月で何度も証明されている。


「私たちドワーフ族はリゼたちが言う魔法というものが使えない」

「そうなのですか?」

「あぁ、火の精霊と契約することで、精霊魔法というものが使えるがな」


 リゼは以前にカリスが戦った時に見た、拳に火を纏わせることを思い出す。


「まぁ、これは運命だと思うし、私たちの他にも同じような人種がいるしな」


 他の人種ということで、リゼの頭の中には”エルフ族”が思い浮かんだ。

 滅多に姿を現さなず、この世界で一番長寿な種族で魔法の扱いに長けていることくらいしか知らない。

 だが、フォークオリア法国の魔法技術は、エルフ族の協力があったからだとも言われている。

 カリスの進む先が徐々に栄えている町から遠ざかっている気がしながらも、 カリスの後をついて行く。



――――――――――――――――――――


■リゼの能力値

 『体力:四十一』

 『魔力:三十』

 『力:二十五』

 『防御:二十』

 『魔法力:二十一』

 『魔力耐性:十六』

 『敏捷:百一』

 『回避:五十三』

 『魅力:二十四』

 『運:五十八』

 『万能能力値:零』

 

■メインクエスト

 ・購入した品を二倍の販売価格で売る。

  ただし、販売価格は金貨一枚以上とすること。期限:六十日

 ・報酬:観察眼の進化。慧眼けいがん習得


■サブクエスト

 ・瀕死の重傷を負う。期限:三年

 ・報酬:全ての能力値(一増加)


■シークレットクエスト

 ・ヴェルべ村で村民誰かの願いを一つ叶える。期限:五年

 ・報酬:万能能力値(五増加) 

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