第237話

 クランの話は、この場では結論が出ないことは分かっていたので、今まで強く地上に戻る。

 九階層の魔物の買い取りは八階層までと違い、少しだけ高かった。

 それは中型魔物だということでなく、素材として価値が高いという意味でだ。

 リゼは解体が上手く出来なかったことを伝えると、奥から解体職人たちが仕事を止めて出てきた。


「よっ、宵姫!」


 揶揄うようにリゼを呼ぶ。

 ここ最近は買取して貰うだけで、解体職人と会うことは無かった。

 リゼを揶揄うためだけに、受付まで出てきたのだ。

 聞かなかったことにして、リゼはクレイジーレックスの解体について教えて貰う。

 他の中型魔物の解体についても教えて貰おうと思ったが、仕事が止まっていると解体職人たちが叱られたため、次回へ持ち越しとなった。  

 連日、九階層で戦い続ける。

 九階層で戦う冒険者の顔見知りが増えていく。

 十階層に進みたくても進めない冒険者たちだったが、実力不足だと分かっているのか、ここ九階層で鍛えている。

 他の冒険者たちの戦いを見て、リゼは悩んでいた。

 自分たちには圧倒的に攻撃力が無い。

 レティオールが防御している時間が長い。

 つまり……リゼの攻撃では、なかなか魔物を倒すことが出来ないことを意味していた。

 小太刀と短刀では、剣や斧などに比べれば一撃で与えるダメージが小さすぎる。

 手数で押し切ろうとしても限界があった。

 攻撃役のリゼが二人の足を引っ張っていた。


(これが私の限界なの……かな?)


 強くなってアンジュやジェイドの隣で戦えるようになる。

 今の状態では、なにをしたら良いのか分からなくなっていた。

 十階層に行けない苛立ちも重なり、悩みは深くなっていくがレティオールとシャルルに心配かけないように、平然を装っていた。


 迷宮ダンジョンを出て、いつも通り商業ギルド会館で魔物の素材と魔核を買い取ってもらう。

 いつもよりも少しだけ遅い時間だったため、エールを提供している飲食店では、酔っ払いたちが騒いでいた。

 そのなかでひと際威勢のいい声が耳に飛び込んできた。


(あれ? この声って……)


 聞き覚えのある声だと思ったリゼは、レティオールとシャルルに我儘を言って、声の方へと向かう。


「ほらほら、次は誰だ~!」


 露出の高い服装でエールを豪快に飲み干して、挑戦者を募っているカリスがいた。


(やっぱり‼)


 少し離れた場所で美味しそうにエールを飲んでいるナングウも発見する。


「リゼの知り合い?」


 レティオールの質問に「一応」と答える。

 

「今回も酔害すいがいが酷いな」

「まぁ、カリスが来たら毎度のことだからな」


 楽しそうに観戦している人たちの会話が耳に入って来た。


「あれ、宵姫も飲みに来たのか?」


 既にリゼのことを名前でなく、宵姫と呼ぶ人のほうが多くなってきた。


「いいえ、違います」


 リゼは即答すると、そのままカリスのことを聞く。

 カリスはバビロニアに滞在している間は毎晩、人の通貨で酒を飲みまくり、飲んだ相手は翌日も酒が抜けずに死んだような状態になるので、カリスと飲むことを酔害と呼んでいた。

 カリスは酔っても雰囲気が変わらないため、常に酔っているのではないかと噂される。

 町の人に好かれているカリスだったので、誰か彼かはカリスの晩酌の相手をしていたし、カリスと飲むのは楽しいので自然と人が集まっていた。


「気になるなら、紹介してやるから来い!」


 面白がる酔っ払いたちが、カリスの所へリゼを連れていく。

 しかし、リゼとカリスが顔見知りだということは知らない。


「カリス。こいつが噂の宵姫だ‼」


 カリスにリゼを紹介する。


「ん~」


 リゼの顔に見覚えがあったが、いつどこで会ったのかを思い出すかのようにリゼを見つめる。


「あぁ、思い出した。オーリスで酒を奢ってくれたリーズナブルだ!」


 リーズナブルって、自分の事なのか? と悩みながら返答に困っていると後ろから、カリスの連れナングウが笑いながら近づいてきた。

 もちろん、片手にはエールを持っている。


「なにを馬鹿なことを言っておる。彼女はゼリーちゃんじゃ。のぉ、ゼリーちゃん」


 少しだけだが自分の名前に近付いたが、間違いなのは変わりない。


「……リゼです。お久しぶりです」

「おぉ、リゼ。久しぶりだな」

「リゼちゃん、久しぶりじゃの」


 名前を名乗ると思い出したのか、都合よく記憶を書き換えたのか分からないが、何事もなかったかのように「リゼ」と呼ぶようになる。


「まだ、旅の途中ですか?」

「う~ん。そうと言えば、そうじゃ。ちょっと野暮用で戻って来たんじゃよ」


 陽気なナングウが答える。


「そういえば、ここに来る途中ですが、イディオームという方が御二方を探していましたよ」

「イディオームじゃと⁈」


 やはり、イディオームという名に心当たりがあるのか、ふざけていた雰囲気がなくなる。


「イディオームから何か預かってはおらぬか?」

「預かったというか、これを頂きました」


 リゼはアイテムバックからアダマンタイトの鉱石と、ドヴォルク国の通行石をナングウに見せる。


「こちらは仕舞っておきなさい」


 アダマンタイトの鉱石を仕舞うように促す。

 周囲の冒険者が羨ましそうに見ていたからだ。


「ちょっと、借りても良いかの?」

「はい、どうぞ」


 ナングウに通行石を渡すと、通行石を見ながら何か呟いている。

 すると通行石から文字のような物が浮かんだ。


「えっ!」


 思わず叫ぶリゼだったが、周囲の冒険者は驚く素振りさえ見せていない。


「ほぉ、この文字が見えるのか。本当に面白い子じゃのぉ」


 ナングウの言葉で浮かんでいる文字が見えるのが、リゼだけだと理解する。

 だがリゼは文字自体は見たことのない形をしていたので、読むことは不可能だった。


「ほぅほぅ、なるほどの……少し面倒なことになっておるの。カリスよ」

「なんだい、爺さん」


 ナングウは何も言わずに通行石をカリスに渡す。

 カリスにも文字が見えているようで、読んでいる目つきが変わった。


「いまからは……難しいか。明日の朝一だな」

「そういうことじゃ」


 カリスはナングウに通行石を返す。

 そして、そのまま持ち主であるリゼに通行石を返却した。


「そうじゃの~、リゼちゃん。この後、用事はあるかの?」

「いいえ、とくにはありません」

「ちょっと、儂らに付き合ってくれんかの?」

「それは構いませんが、私の仲間が一緒でもいいですか?」

「もちろんじゃ」


 その後、カリスの一言でお開きになる。

 店を出てナングウに着いていくと、一件の宿屋に到着する。

 ここバビロニアでも宿泊費が高いとされる宿屋の一軒だ。

 正面入り口からでなく、ナングウとカリスは裏口に回り、そこから宿屋に入っていった。

 宿屋内に入るとすぐに、部屋になっていた。

 さきほどの裏口は従業員専用の裏口だと思っていたが、部屋に直接入れる入り口だったことにリゼは驚く。


「さぁ、好きなところに座って」


 豪華な椅子が幾つも並んでいた。

 部屋の大きさに比べて机と椅子の数が合っていない。

 まるで会議でもするかのような配置を不思議に思いながらも、ナングウの言葉に従い、ナングウが座った場所の対面のに座った。



――――――――――――――――――――


■リゼの能力値

 『体力:四十一』

 『魔力:三十』

 『力:二十五』

 『防御:二十』

 『魔法力:二十一』

 『魔力耐性:十六』

 『敏捷:百一』

 『回避:五十三』

 『魅力:二十四』

 『運:五十八』

 『万能能力値:零』

 

■メインクエスト

 ・購入した品を二倍の販売価格で売る。

  ただし、販売価格は金貨一枚以上とすること。期限:六十日

 ・報酬:観察眼の進化。慧眼けいがん習得


■サブクエスト

 ・瀕死の重傷を負う。期限:三年

 ・報酬:全ての能力値(一増加)


■シークレットクエスト

 ・ヴェルべ村で村民誰かの願いを一つ叶える。期限:五年

 ・報酬:万能能力値(五増加) 

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