第236話
シャルルが全員の治療を終える。
幸いにも大怪我をした冒険者はいなかった。
全員が意識を取り戻すと改めて礼を言われる。
斧術士の”クラッツ”が自己紹介をすると、続けて仲間の重戦士”パナップ”、回復魔術師の”コロン”と中級魔法師の”チーザ”の順に紹介する。
次にリゼたちも紹介をしようとするが、既に有名だったので紹介は不要だった。
「まさか、宵姫に助けられるとは光栄だね」
「私も宵姫の戦いを見たかったわ」
パナップとチーザがリゼを見る。
「私が最初にやられなければ、宵姫さんたちとの出会いは無かったんですから、感謝して下さい」
コロンが自分のおかげだと言うと、他の三人から文句を言われていた。
自分のことを宵姫と呼ばれることに違和感を感じながら、拒否したら雰囲気が悪くなるような気がして「止めて下さい」とは口に出せなかった。
「どうして、宵姫なんですか?」
シャルルはリゼの気持ちを知ってか知らずか、クラッツたちに質問をする。
誰が最初に言いだしたかは不明だが、リゼの黒い装備に闇属性魔法を巧みに使用して優雅に戦い、宙に舞う銀髪が日が暮れた時の情景に似ているから”宵”。
そして幼い見た目とか弱いイメージから”姫”。
その話を聞いていたリゼ以外の冒険者は頷き、納得していた。
話の流れで他にも二つ名の冒険者がいるかを聞く。
するとリャンリーにも二つ名があると話すコロンの口を急いでチーザが塞ぐ。
どうやら、リャンリーの二つ名を口にしたものは皆、バビロニアから居なくなったという噂が冒険者たちの間で広まっていたそうだ。
それもかなり信憑性が高いため、バビロニアで活動したければ、決してリャンリーの二つ名を口にしないことだ! と広まっていた。
小声で話すチーザと、恐る恐る周囲を確認するクラッツとパナップ。
誰かに聞かれていないか恐怖で顔が引きつっていた。
二つ名は不名誉な場合もあるが、多くは称賛されるからこそ付けられるのだと、羨ましそうに話すクラッツ。
その姿はリゼを慰めているようにも見えた。
「それでクレイジーレックスの分配だが助けてくれたし、そちらに任せるが?」
リゼはレティオールとシャルルを見ると、リゼにお任せと言う顔をしていた。
「クラッツさんたちだったらの分配を聞いてもいいですか?」
まさか、逆に聞かれると思っていなかったクラッツは他の三人と話し合いを始めた。
爪や牙に皮などの素材に魔核……価値を知っているからこそ難しかった。
結局、素材全てと魔核に分ける。
魔核の買取価格のほうが、素材一式より高い。
クラッツたちは、自分たちが素材一式で良いという分け方だった。
「じゃあ、素材のほうで」
クラッツたちの思惑とは反対に、リゼが素材一式を選択する。
「えっ……いやいや、話を聞いていたか?」
自分の言葉が聞こえなかったのかと自身を疑いながらも、リゼに問う。
「はい。私たちは後から来て討伐のお手伝いをしただけです。実際に倒したのはクラッセさんですし、クラッツさんたちの取り分の方が多いのは当然だと思います」
リゼの言っていることに間違いはない。
だが、冒険者たるもの貰えるものは貰うのが当たり前だった。
「でもだな」
「気にしないで下さい」
リゼは自分たちが魔物を横取りしたことで、冒険者同士のいざこざを避けようとする意図があった。
以前にレティオールから聞いた言葉を思い出していたからだ。
戸惑うクラッツの横目に、リゼは倒れているクレイジーレックスの方へと歩き出す。
「う~ん。この種類の魔物は解体したことがないな。骨格が似ている魔物は――」
リゼはクレイジーレックスの解体について悩んでいた。
「じゃあ、僕たちはリゼの手伝いをしますので」
「どうも、ありがとうございました」
レティオールとシャルルがリゼの方へと駆け寄る。
「礼を言うのは俺たちなのにな」
「えぇ、そうね。私も宵姫のファンになっちゃおうかな」
コロンの言葉にクラッツたちは「そうだな」と笑っていた。
解体しているリゼたちに挨拶をして、クラッツたちは去って行く。
上手く解体できないリゼは、とりあえず適当に部位を分けてアイテムバッグに詰め込む。
解体作業を手伝いながら、リゼに会えたのは幸運だとシャルルは感じていた。
あの時……リゼが助けてくれなかったら、もう死んでいたかも知れない。
いや、生きていたとしても、死んでいるのと同じだった。
リゼと一緒にいたいという思いが強くなる。
職業案内所で、リゼがクランに所属していたことを知ったが、それ以上のことは
聞くのが怖いという思いが頭の片隅にあり、聞くことが出来ないでいた。
いずれはバビロニアから王都に戻るのだろうが、その時自分は……。
その思いはレティオールも同じだったが、お互い確認することは無かった。
クレイジーレックスの解体を終えて、再び九階層の探索をする。
数体の中型魔物と出くわすが、リゼたちでは太刀打ちできない。
事前に戦闘を回避するか、遭遇しても逃走するほうが無難だった。
パーティーの人数を増やせば、戦術に幅が広がり討伐も簡単になる。
だがそれは、リゼたちの思うところではなかった。
今できることで最善のことを考える。
何度も何度も三人で議論する。
結論が正解なのかは関係なく、可能性を探っていく。
「職業スキルを覚えられれば、だいぶん違うんだけど……こればっかりは簡単に習得出来ないからね」
レティオールの言おうとしていることは分かっていた。
守護戦士のレティオールであれば
リゼの忍や、シャトルの治癒師にも
だが優先すべきことだと思い、リゼは投擲で中距離からの攻撃も出来るようにしたいと、二人に告げる。
シャルルも
治癒師も回復魔術師同様に扱える
直接攻撃が出来ない職業だからこそ支援魔法を使用して、戦闘中の仲間を助けることができる。
回復魔法しか使えないシャルルは、討伐中に何もできないことに歯がゆさを感じていた。
魔法効果を向上させるために杖の購入も考えていたが、手札を増やすことで戦闘中の選択肢を多くしたほうが良いと判断した。
一方でレティオールはリゼとシャルルと違い、自分に何が出来るか分からずに悩んでいた。
明確な目標が立てられなかったからだ。
「リゼはクランに所属しているんだよね?」
レティオールは話題を変えて、リゼに質問をする。
それはシャルルも聞きたかった内容だった。
「うん。王都にある銀翼っていうクランに」
「銀翼って、あの有名な‼」
レティオールとシャルルは驚くが、リゼは複雑な表情を浮かべる。
「皆が知っている銀翼と同じだけど、同じじゃないかな……」
リゼは自分が意味不明なことを言っていると分かっていた。
レティオールとシャルルは、アルベルトたちがクエストに失敗したことを知らない。
リゼは自分が銀翼に所属した経緯も含めて、銀翼と関わった……クウガやアリスに良くしてもらったことなどを全て話した。
クウガやアリスのことは、最初にあった時に自己紹介がてら話をしている。
ただ、意図的に銀翼の名は伏せていた。
そして、銀翼を名乗っているが、自分は数合わせのメンバーだということも正直に話す。
他の二人……アンジュとジェイドとは実力に差があることも伝えた。
話を聞き終えたレティオールとシャルルは、言葉が出なかった。
リゼが強いのは、有名クランに所属していたからだと納得してしまった自分がいたからだ。
境遇だけなら、自分たちの方が恵まれている。
甘い考えをしていたせいで、ハセゼラに取り入られたことを思い出す。
「ぼ、僕たちでも銀翼に入ることは出来るかな?」
レティオールの思いもよらぬ言葉にリゼはたじろぐ。
「私に決定権は無いから……他の二人次第だと思う」
悩みながら言葉を絞り出した。
リゼは二人に対して、強くなって欲しい思いはある。
ただ、銀翼に入りたいと思うことは別だと思っていた。
リゼは今も自分は数合わせのメンバーだという意識があったからだ。
――――――――――――――――――――
■リゼの能力値
『体力:四十一』
『魔力:三十』
『力:二十五』
『防御:二十』
『魔法力:二十一』
『魔力耐性:十六』
『敏捷:百一』
『回避:五十三』
『魅力:二十四』
『運:五十八』
『万能能力値:零』
■メインクエスト
・購入した品を二倍の販売価格で売る。
ただし、販売価格は金貨一枚以上とすること。期限:六十日
・報酬:観察眼の進化。
■サブクエスト
・瀕死の重傷を負う。期限:三年
・報酬:全ての能力値(一増加)
■シークレットクエスト
・ヴェルべ村で村民誰かの願いを一つ叶える。期限:五年
・報酬:万能能力値(五増加)
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