第235話

「レティオール、御願い!」

「任せて!」


 レティオールが魔物を引き付けている間に、リゼが攻撃をする。

 八階層にいる三匹程度の魔物であれば、連携して倒すことが出来るようになっていた。

 レティオールの装備を一新したことが大きかった。

 それにシャルルが本来の力を取り戻したことと治癒師に転職したことで、回復だけでなく、麻痺解除や解毒などの効果も飛躍的に上がっている。

 リゼ自身も強くなった実感があった。


 九階層へ進む。

 レティオールとシャルルの話だと、中型の魔物が出現する。

 以前に倒したミノタウロスも中型魔物に分類される。

 ミノタウロスを倒したことが自信にもなっていた。

 階段を下りる途中から戦闘音が聞こえてくる。


(あれ……明るい)


 階段下から漏れる明かるさに驚く。


「九階層は天井一面に光苔が多く生息しているのか、かなり明るいですよ」


 シャルルがリゼの表情に気付き、説明をしてくれた。

 九階層は迷宮ダンジョンのなかとは思えない風景が広がっていた。

 辺り一面に木が生い茂っている。

 そう……まるで森だ!

 上を見上げれば眩しい光が目に入って来る。

 光苔だけで、この光量を維持していることに驚く。

 それに無数の魔物が飛んでいる……この距離から見ても大きいことが分かる。

 冒険者の暗黙のルールで魔物を最初に見つけた冒険者パーティーが優先的に討伐する権利を得る。

 度々、発見する場所や、追っていたら先に討伐されたなどと問題が起きている。

 これは避けられない問題なので、冒険者同士で解決出来なければ、冒険者ギルドが介入することになる。

 ただし、冒険者ギルドが仲介料を搾取するため、報酬が少なくなる。

 そのことを知っているので冒険者同士で解決をすることが多い。


 リゼたちも他の冒険者たちの邪魔にならないように九階層を探索する。

 すぐに魔物”スタンボア”と遭遇する。

 大きな牙で攻撃を受けると意識が揺らぐ。

 酷い場合は倒れてしまい、起き上がるまでに殺されることもある危険な魔物だ。

 反射的にリゼが構えるが、レティオールから攻撃をするのを止められる。


「多分、他の冒険者の獲物です」


 よく見るとスタンボアは血を流している。

 そして後ろから追跡する物音や話し声が聞こえてきた。

 リゼたちはスタンボアを避けて、走り去るのを待つ。

 すると追っている冒険者たちが走りながら、簡単な礼を言って去って行った。

 自分たちの討伐対象だと分かって、譲ってくれた礼だった。


「レティオール、ありがとう。止めてくれなかったら攻撃してた」

「仕方ないよ。普通であれば遭遇した瞬間に討伐だからね」


 もし、討伐してしまったら話し合いになる。

 リゼは他の冒険者との衝突を望んでいない。

 だが、知らぬうちに討伐してしまったら……と考えていた。

 レティオールはハセゼラのパーティーにいた時、魔物を発見したら引き止める役をしていた。

 それが他の冒険者の獲物だったとしても関係ない。

 ハセザラは難癖付けて、脅迫するように魔物を奪っていた。

 もちろん、自分たちより弱い冒険者に対してだけだ。

 迷宮ダンジョン内では、良くも悪くも譲り合うことで調和が保たれている。


 別のスタンボアを順調に討伐していく。

 木が生い茂っているため、本当に多くの魔物が生息していた。

 木から木へと飛び移りながら、木の実を口に含んで飛ばしてくる”サライバモンキー”は数匹で攻撃をしてくる。

 レティオールが敵を引き付けている間に、リゼが素早く移動する。

 九階層の魔物でもリゼの早さに対応出来ないでいた。

 サライバモンキーを倒し終えると、近くで戦っている音がするので、近くまで行ってみることにする。

 他の冒険者たちの戦い方を見て、勉強しようと思っていた。

 近付くにつれて、魔物の咆哮と冒険者の叫ぶ声が聞こえてきた。

 歩いていたリゼたちだったが、明らかに異様な声に走り出す。

 倒れている木に片足を乗せて首を左右に振り、かなり興奮した魔物”クレイジーレックス”が暴れまわっていた。


「大丈夫ですか」


 倒れている冒険者にリゼが駆け寄る。

 気絶している。

 クレイジーレックスから必死で仲間を守ろうとしている冒険者二人と合流する。


「手伝いましょうか?」

「悪い、頼めるか。俺たちだけでは手に負えない」


 重戦士と斧術士だった。

 重戦士のほうは既に限界だったようで、レティオールと交代して、シャルルに回復を頼んだ。


「私の仲間が気を引きますので、攻撃に回りましょう」

「分かった。俺は左側から攻撃するから、右側を頼む」

「はい」


 リゼと冒険者は視線を合わせて、レティオールがクレイジーレックスを挑発するタイミングで左右に飛ぶ。

 斧術士の一撃はリゼの一撃よりも攻撃力が高い。

 自分は攻撃しながら、クレイジーレックスの注意を斧術士に向けないように攻撃をする。

 大振りの攻撃をしようとしたクレイジーレックスにシャドウバインドで拘束をする。

 拘束時間はレティオールも攻撃に参加して、出来るだけ体力を削る。

 レティオールが上手く位置を変えながらクレイジーレックスを誘導してくれるので、とても戦いやすかった。

 なにより攻撃するのがもう一人居るだけで、こんなに楽なことを知る。

 リキャストタイムを終えると、もう一度シャドウワインドで拘束する。

 最後は斧術士が、拘束された状態のクレイジーレックスにとどめを刺す。


「はぁはぁ」


 早く浅い呼吸を繰り返すリゼ。

 思っていた以上に苦戦した。

 これが九階層の魔物……中型の魔物の脅威を知った。

 ミノタウロスのほうが強かったが、今の実力ではクレイジーレックスでも倒せない。


「本当に助かった。さすがは宵姫だな」

「……宵姫?」


 呼吸を整えながら、自分のことを言われているのか確認する。

 リゼは気付いていなかったが、ミノタウロスの事件以降、リゼの戦闘スタイルと容姿から”宵姫”と二つ名で呼ばれていた。

 自分で名乗らずとも周囲が勝手に広める二つ名なので、時には不本意な二つ名で呼ばれる時もある。


「私は姫じゃないですよ?」


 真剣に答えるリゼに斧術士とレティオールが笑う。

 離れていたシャルルも回復しながら笑っている。

 アルベルトやクウガたちにも二つ名はあったが、エルドラード王国では二つ名で呼ぶ習慣があまりない。

 それは不本意な二つ名だった場合、本人が気分を害するからだ。

 バビロニアは良くも悪くも、そういった感覚が無いので揶揄うように二つ名で呼ぶ冒険者も多い。

 しかも口の軽い噂好きの冒険者が他の町などで、吹聴するので二つ名だけがひとり歩きすることもある。



――――――――――――――――――――


■リゼの能力値

 『体力:四十一』

 『魔力:三十』

 『力:二十五』

 『防御:二十』

 『魔法力:二十一』

 『魔力耐性:十六』

 『敏捷:百一』

 『回避:五十三』

 『魅力:二十四』

 『運:五十八』

 『万能能力値:零』

 

■メインクエスト

 ・購入した品を二倍の販売価格で売る。

  ただし、販売価格は金貨一枚以上とすること。期限:六十日

 ・報酬:観察眼の進化。慧眼けいがん習得


■サブクエスト

 ・瀕死の重傷を負う。期限:三年

 ・報酬:全ての能力値(一増加)


■シークレットクエスト

 ・ヴェルべ村で村民誰かの願いを一つ叶える。期限:五年

 ・報酬:万能能力値(五増加) 

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