第227話

 その後もスワロウトードの巣を巡るが、シャルルの体調を気遣い休憩を取ることにした。

 レティオールにシャルルの介抱を任せている横で、リゼはレティオールの剣を研ぐことにした。


「自分で研ぐんですか?」

「うん、そうだよ」


 レティオールの剣を見事な手さばきで研ぐリゼの姿に、横になっていたシャルルも見惚れていた。

 自分たちが知っている冒険者は自分勝手で武器の手入れなどせずに、切れなくなれば武器屋に武器を持ち込み文句を言っていた。

 それが当たり前だと思い、武器の手入れなど自分でしたこともない。

 学院でも教わっていない。

 ましてや、倒した魔物に対しても自分で解体して、より高く買い取ってもらうように考えている

 リゼの行動を見ていると、いままでの冒険者生活がなんだったのかと考えさせられる。


「うん。これくらいかな」


 ライトボールの光をに照らしながら、研ぎ具合を確認する。


「はい」

「あっ、ありがとうございます」


 自然と敬語になるレティオール。


「ゴメンね。もう少し、討伐のペース落とした方が良かったかな?」

「いいえ。私が不甲斐ないだけです。もう大丈夫ですから」


 起き上がろうとするシャルルだったが、リゼはそのまま寝ているように起こそうとする体を止める。


「無理はしなくていいよ。焦ってもいいことないからね」


 シャルルに気を使うが、自分にも問う言葉だった。


「さっき回収した武器も研いでいいかな?」

「投擲武器のこと?」

「うん、あの針みたいなやつ。一応、分配前だから――」

「全然、大丈夫だよ」

「ありがとう」


 レティオールの了承を得たので、リゼはスワロウトードの巣で回収した針の形状をした武器を研ぐ。

 針というよりは棒の先が尖っているので、大きな釘か先の尖った鉄の棒という表現が正しいかも知れない。

 シャルルの情報だと武器の形状から、投擲用の武器か、タガーの先が取れた物では無いかということだった。

 とりあえず、投げられそうなので投擲用武器として確保していた。

 離れた場所からの攻撃が出来れば、戦術にも広がりがでる。

 小さい頃に一人で遊ぶことが多かったリゼは、木の枝などを缶などのゴミに小石を当てていた。

 距離を徐々に遠くしたり、投げる物を変えたりして、いかに時間を潰せるかと考えて過ごしていた。

 だから投擲の意味を知った時も、石とかを投げる遊びの延長の感覚だった。

 でも、その経験が生かせるのであれば……。

 五本あった錆びた鉄の棒を研いでいると水面に黒い影を発見する。


「レティオール! 盾を構えてシャルルを守って」


 リゼの突然の言葉にレティオールは即座に反応する。

 湖の表面に黒い影が、自分たちに向かって来ていることにリゼは気付いた。

 魔物に襲われないように、距離は取ったつもりだったが、湖で砥石を使っていたことで魔物たちに居場所を知られたようだった。

 良かれと思ってした行動が、仲間を窮地に追いやってしまったことを悔やむ。

 魔物は”フライングフィッシュ”だと寝ていたシャルルが教えてくれた。

 水中にいながら、短時間であれば飛行することも出来る。

 厄介なのは獰猛な牙と、鋭利な羽根と尾。

 首元を斬られれば、致命傷になりかねない。

 フライングフィッシュが飛び跳ねると、手に持っていた鉄の棒を投げつける。

 当然、当たるはずもないので、襲い掛かる寸前に小太刀で倒す。

 狙いはリゼのようで、幸いにもレティオールたちのほうにはフライングフィッシュの攻撃は無い。

 何匹かの攻撃だったが、冷静になれば対応出来る早さだと気付く。

 正面からの攻撃でなく半身避ければ簡単に倒せる。

 冷静になったリゼは、試しに研いでいた鉄の棒を投げてみると、思った以上に殺傷能力がありフライングフィッシュの体を貫通していた。

 リゼは残っていた鉄の棒をフライングフィッシュに投げる。

 投げると言っても一メートルにも満たない距離だ。

 一直線に飛んでくるフライングフィッシュが方向転換する前に仕留める。

 気付くとサブクエストを達成していた。

 全部で八匹のフライングフィッシュを討伐する。

 手を切らないように回収して、湖から遠ざけて血の匂いで襲われないように対策する。


「大丈夫だった?」

「はい……よく避けられましたね」

「うん、なんとかね。それよりもゴメンね。私が砥石を使ったせいで、魔物に襲われちゃって……」

「全然、大丈夫ですよ。逆に研いでもらったことに感謝しています。ありがとうございます。……腕、切っていますよ」

「あぁ、これくらい大丈夫だよ」


 深くはないがフライングフィッシュの攻撃で出血していた。


「私に治させて下さい」


 いままで、何も力になれない。

 それどころか、人骨や解体作業を見て気分が悪くなる失態を犯しているシャルルは、ここで挽回したいと無理に体を起こした。


「お願い出来るかな」


 シャルルの気持ちが分かったので、リゼはシャルルの治療を素直に受ける。

 謙遜するような回復魔法でなく、魔法効果も普通だと感じながらも、自分自身が回復魔法で治療をしてもらったのは数える程度なので、勘違いなのかも知れないが、どうしてシャルルが、そこまで自信のない発言をするのか不思議だった。


「ごめんなさい」

「何を謝っているの? 十分すぎる効果だよ」


 謝るシャルルは本当に申し訳なさそうだった。


「よかったら、昨晩の続きを聞かせてくれる?」


 学院時代のことは昨夜聞いたので知っていたが、それ以上になにかあるとリゼは思っていた。

 無理に聞き出そうという気は無いので、話してくれるなら……だ。


「前のパーティーでは全回復できない回復魔術師は価値が無いって……」


 どうやら、ハセゼラたちの言葉を真に受けているようだった。

 それに加えて学院時代のトラウマもあり、平均以下の治療しか出来なかった自分は、回復魔術師として価値がないと思うようになっていたようだった。


「大丈夫だよ。シャルルは回復魔術師として価値があるよ。自信もっていいから」


 リゼの言葉にシャルルの頬に涙が伝る。

 優等生から転落した人生で価値がないと言われ続けた自分に「価値がある」と言ってくれたことが、シャルルにとって心から嬉しい言葉だった。

 そして、自分をここまで思ってくれているリゼを失望させるようなことは出来ないと心に誓う。


「もう少し休んでから、出発しよう」

「私なら大丈夫です」

「ほら、フライングフィッシュも解体しないといけないから、少し待っていて」


 シャルルを少しでも休憩させようとするリゼの優しさだったが、フライングフィッシュも解体しようとするリゼの姿を見ていたレティオールは「解体職人さながらだ!」と感心していた。

 


――――――――――――――――――――


■リゼの能力値

 『体力:三十六』

 『魔力:三十』

 『力:二十五』(二増加)

 『防御:二十』

 『魔法力:二十一』

 『魔力耐性:十六』

 『敏捷:八十六』

 『回避:四十三』

 『魅力:二十四』

 『運:四十八』

 『万能能力値:零』

 

■メインクエスト

 ・迷宮ダンジョンで未討伐の魔物討伐(討伐種類:三十)。期限:三十日

 ・報酬:転職ステータス値向上


■サブクエスト

 ・瀕死の重傷を負う。期限:三年

 ・報酬:全ての能力値(一増加)


■シークレットクエスト

 ・ヴェルべ村で村民誰かの願いを一つ叶える。期限:五年

 ・報酬:万能能力値(五増加) 

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