第228話

 三人初めての迷宮ダンジョンは四階層で終えることとなった。

 五階層へ進むかを悩んだが寄り道して戦うより、そのまま六階層に進んだほうが良いと判断する。

 それに今日の討伐して得た通貨で、レティオールとシャルルの武器や防具を強化出来ればと考えていた。

 まず、冒険者ギルドで回収した冒険者プレートとアイテムバッグを渡す。

 アイテムバッグの契約解除は明日になる。

 そのまま、商業ギルド会館に行き、スワロウトードとフライングフィッシュの素材を買い取ってもらう。


「ほぉ、これはまた状態がいいな」

「冒険者止めて、本当に解体職人にならないか?」


 リゼの解体の腕を褒めてくれる。

 その様子を見ていたレティオールとシャルルは、商業ギルドの商人や解体職人たちの態度が、ハセゼラたちの時とは全然違うことに驚く。

 商業ギルドでの買取りも不満ばかりで、文句を言ってばかりだった。

 和やかな雰囲気で話をしていることなど一度もない。


「僕たちって、冒険者を勘違いしていたかも知れないね」

「えぇ、そうね」


 レティオールとシャルルは、生まれ変わった気持ちだった。


 武具屋に行く道中でレティオールはリゼに頼みごとをしてきた。

 スワロウトードの巣で発見した盾を自分に貰えないかだった。

 今、レティオールが使用している盾よりも大きな盾だ。

 剣士というよりも、重戦士が装備している印象が強い。

 別に剣士が持っても問題は無い。


「うん、いいよ。他は大丈夫?」


 あっさりと承諾するリゼ。

 呆気にとられるレティオールとシャルル。

 これにも理由があった。

 分配する時に毎回揉めている姿を見ていたからだ。

 買取価格の分配でなく、物で分配していた場合も多かったので、高価な物を誰もが狙う。

 喧嘩に発展するならとハセゼラが一旦預かることも多かった。


 武具屋で査定して貰っている間、リゼたちは店内を見て回っていた。

 とりあえず、レティオールとシャルルの着替えは必要だった。

 安いのを選ぼうとするので、気に入った物を選ぶようにと言いながら、本当に昔の自分と重なり笑いそうになる。

 

「生きていれば迷惑をかけるのが当たりまえ。迷惑をかけたと思ったら、そのぶん誰かの手助けをしてあげなさい」


 母親の言葉を思い出す。

 なんでも一人で抱えていた昔の自分に言ってあげたい気分だった。


「リゼ。投擲用っぽい武器があるよ」


 レティオールが並んでいる武器を見て教えてくれた。

 投げられるような小さな武器を投擲用として置いてある。

 フライングフィッシュを倒した時に使用した針のような武器は見当たらなかった。

 レティオールが見ている武器や、先程の盾から重戦士になりたいのだろうと思い、聞いてみる。


「うん。仲間を守りながら戦う重戦士を見て凄いと思っている。言い方は悪いけど、前のパーティーでは損な役回りだったけど、自分なりに納得はしていたから」

「そう。じゃあ、重戦士になれるように頑張ろう」

「ありがとう」


 重戦士は装備も頑丈なので一式揃えようとすると、かなり高い価格になる。

 加えて盾役とされることが多いため、意図的に魔物の意識を自分に向けさせる。

 そのため、防具の損傷なども他の職業に比べて大きい。

 盾役には重戦士が多いし、魔物を引き付けるためパーティーでも重要な役割だ。


「リゼは暗殺者になるの?」

「うん……そのつもり」


 返事に迷いがあった。

 暗殺者でも良いが、他の職業で自分にあったものがあればと思っていたからだ。


 シャルルも服を選びながら、綺麗な回復魔術師の服を見ていた。

 せめて自分が一緒にいる間に、二人が購入出来るようにしてあげられればと思う。

 アイテムバッグも見てみたが、自分が購入した時よりも高い白金貨八枚だった。

 高いことには間違いないが、バビロニア価格としては他の町との価格差が小さい。

 バビロニアに来る冒険者の多くが既にアイテムバッグを持っているため、多くは売れないため、価格差を抑えていた。


 査定が終わり、レティオールとシャルルの服を購入する。

 一応、買取の中にフライングフィッシュを倒した時の武器もあったので、なにかを聞いてみた。


「多分だけど、三十年ほど前に滅んでしまったヤマトって国の武器じゃないかな」

「ヤマト?」

「火を使うことに長けていて、ヒノモトのヤマトとも呼ばれてドヴォルク国の友好国だったはずだ。お客さんが使っている短刀や小太刀なども、元々はヤマトの製作していた武器だったはずだよ」


 店主の話を聞いて、反射的に短刀と小太刀を触る。


「ちょっと、待っててくれるかい」


 リゼたちを待たせて奥へ行った店主が数分で戻って来た。


「武器職人に聞いたら、手裏剣という武器の一種で棒手裏剣だそうで、投げるのが難しいそうだ」


 武器職人に話を聞いてくれたようだった。


「使いたいなら買い取らないよ。買取価格としては……まぁ、同じだね。どうする?」

「じゃあ、これは売らないことにします」


 買取価格が同じであれば、使える武器として手元に残しておくことにした。

 扱いに難しい棒手裏剣を上手く投げることが出来たのは、小さい頃に一人で物を投げて遊んでいたおかげだ。

 一人遊びも役に立つものだと、小さかった自分に感謝をする。


 宿に戻り、今回の迷宮ダンジョンで得た通貨を分配する。

 三等分にした後、リゼが立て替えた迷宮ダンジョンの入場料や宿代などを引く。

 思っていたよりも少ないが、レティオールとシャルルは多すぎると怯えていた。


「三人で得た報酬だから、きちんと貰ってよ」


 二人とも役に立っていなかったことや、リゼの解体技術のおかげだと言い、取り分んを減らそうとしていた。

 だが、きちんと三等分という約束を守るとリゼも引く気は無かった。


「ありがとう。有難く貰っておくよ。この通貨はリゼが預かっていてくれるかな」


 アイテムバッグを持たない二人には、袋に入れて持っておくことが不安なんだろうと思い、リゼは預かることを了承する。


「リゼはヤマトについて興味があるの?」


 シャルルが武具屋での会話を思い出す。


「興味というか、私は学習院……二人で言う学院? に行っていないから、皆が普通に知っているようなことを知らないの。今日の投擲だってレティオールに聞くまで知らなかったし……」


 自虐的な発言だが本当のことだ。

 自分なりに知識を得ようと努力はしているが、学習院で何年も勉強をした冒険者には敵わない。


「私で良ければ教えるから、なんでも聞いてね」

「シャルルは賢いし、教えるのも上手だよ」

「ありがとう」


 こうして、宿屋に戻り報酬を分けた後は、リゼへの勉強会が開かれることになった。



――――――――――――――――――――


■リゼの能力値

 『体力:三十六』

 『魔力:三十』

 『力:二十五』

 『防御:二十』

 『魔法力:二十一』

 『魔力耐性:十六』

 『敏捷:八十六』

 『回避:四十三』

 『魅力:二十四』

 『運:四十八』

 『万能能力値:零』

 

■メインクエスト

 ・迷宮ダンジョンで未討伐の魔物討伐(討伐種類:三十)。期限:三十日

 ・報酬:転職ステータス値向上


■サブクエスト

 ・瀕死の重傷を負う。期限:三年

 ・報酬:全ての能力値(一増加)


■シークレットクエスト

 ・ヴェルべ村で村民誰かの願いを一つ叶える。期限:五年

 ・報酬:万能能力値(五増加) 

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