第226話

 レティオールが部屋を出ると、シャルルと二人きりになる。

 シャルルがアイテムバッグを持っていないことに気付く。


「これ、使っていいよ」


 リゼは予備で持っていた服をシャルルに渡すと、自分もスクィッドニュートの墨がついた服に着替えようとする。


「私が、そちらを着ます」

「別にいいよ。明日、迷宮ダンジョンから出たら、服とかも買おうね。……レティオールも着替えないけど大丈夫かな?」

「今頃、洗濯していると思います。生乾きで臭かったら、すみません」


 初めてシャルルが笑う。

 そういえば……オーリスにいた時、宿泊していた”兎の宿”の店主ヴェロニカから「笑いな」と無理やり頬を引っ張られたことがあったと思い出す。


「それ、なに?」


 着替えをしていたシャルルの左の二の腕辺りに紐のような物が巻き付いていた。


「これは、学院時代に仲の良かった友人から頂いた物です。友人とお揃いなんです。父親が商人をしているそうで、とても貴重な物で絶対に外さないでね! と言われました」


 友情の証のようなものか? とリゼは思いながら、その腕輪が気になり、少しだけ触って良いかの許可をシャルルに取る。


「はい、構いませんよ」


 リゼが腕輪に触れると、腕輪は薄っすらと光った。


(……まただ)


 なにか理由があると思いながらも、「ありがとう。相当いい物みたいね」と礼を言う。


 就寝しようと寝床で横になる。

 すると、目の前にサブクエストの画面が現れる。

 『投擲とうてきで魔物三匹討伐。期限:十日』『報酬(力:二増加)』。


(投擲って……なに?)


 初めて聞く言葉に眠気が吹っ飛ぶ。

 目を瞑るが、投擲のことを考えると寝付けなかった。

 魔物討伐となっているので、なにかしらの攻撃方法か、武器の名前だろうと思考を巡らせていた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 「じゃあ、行こうか!」


 レティオールと合流したリゼとシャルルは迷宮ダンジョンへと歩き始める。

 町に出るとハセゼラたちからの恐怖から解放されていないのか、周囲を気にしているようだった。


「大丈夫よだと思うよ。町で騒ぎを起こすことが、どれだけ面倒なことかを知っていると思うから」


 安心させるようにリゼは優しく話し掛けた。


「そ、そうですよね」


 レティオールは、おどおどしながらも返事をしてくれた。

 一方のシャルルはレティオールの影に隠れるように身を縮めている。


「投擲って知っている?」


 リゼは昨夜からの難問を二人に聞いてみた。


「投擲って、投擲武器のことですか?」

「投擲武器?」


 またも聞きなれない単語を耳にしたリゼは首を傾げた。


「はい、短剣や槍などを投げて魔物を殺す武器のことです」

「へぇ~」

「投擲とは、なにかを投げるという意味です。投擲武器とは、武器に関わらず投げることが出来る武器全般を言います」


 感心するリゼだったが、レティオールの後ろにいたシャルルが訂正と補足をする。

 自分の学の無さを恥じるとともに、武器を投げる……つまり、短刀か小太刀を投げて魔物を殺すという難易度の高い討伐方法に悩みが増えた。


「シャルルは頭良いんですよ」

「そんなことない」


 仲の良い二人は少しずつだが、表情が柔らかくなっていっていると感じていた。

 ずっと一緒にいるわけではないので、二人が無理をせずに冒険者を続けられる手助けが出来ればとリゼは考える。

 この二人のおかげで、かつての自分を思い出しながら、初心に戻り強くなれると感じていた。


 迷宮ダンジョンの入場料をリゼが立て替える。

 いつもよりも人が少ない感じがしていた。

 冒険者ギルドの探索クエストの影響だろうと思いながら、下の階層へと進む。

 四階層でスワロウトードを討伐しようと提案する。

 二人ともリゼの意見に従う。

 狙うはスワロウトードがため込んでいる排泄物の山だ。

 武器に防具などを売れば、それなりの価格になる。

 無理をして五階層で戦う前に、二人のボロボロになった装備を買い替えてあげたいと思っていた。

 来る途中にレティオールの剣を見せてもらったが、刃こぼれもしていて切れ味も悪そうだった。

 砥石で研いだりと武器のメンテナンスが出来る状況ではなかったから、仕方がないと思ったが昨晩気付いていれば、自分が研いであげられたと準備不足を後悔する。

 最悪、湖があるので砥石を出して研ぐことは可能だ。


「この穴にしようか」

「はい」


 奥からスワロウトードの鳴き声が聞こえる穴を選ぶが、レティオールとシャルルの二人は、スワロウトードの巣に入るのが初めてだったようで緊張しているのが、はっきりと分かった。

 先頭はリゼで、二番目にレティオールが最後尾のシャルルを守るような陣形にする。

 狭い横穴を通り、聞きなれた蛙の声が大きくなるとスワロウトードが姿を現す。


「私が突っ込むから、舌が伸びてきたら盾で防御して」

「うん、分かった」

「じゃあ、行くね」


 リゼは走ってスワロウトードとの距離を詰める。

 応戦するスワロウトードの舌が伸びるので、体をねじり回避する。

 後ろで激突音がしたので、レティオールが上手くガードしたと確信して、伸び切った舌を短刀で切り落とす。

 こうなれば、あとは簡単だった。

 背後に回りスワロウトードの首元に短刀を突き刺した。

 あまりの一瞬の出来事にレティオールとシャルルは固まっていた。


「大丈夫だった?」

「うん……リゼって凄い冒険者だったんだね」

「そんなことないよ」

「いやいや、あれだけの早さで動けるのは凄いよ」

「そう?」


 誰かと比べたことは無いが、敏捷の能力値が高い自覚はあった。


「とりあえず、解体するから奥にある武器や防具を仕分けしてくれる?」

「解体?」

「うん、解体」

「魔核を取るんじゃなくて?」

「解体のついでに魔核も取るよ」


 レティオールとリゼの間で会話が成立していなかった。

 そもそも、魔物を倒して解体することを経験していなかった。

 シャルルは奥にあった人骨の山に気分が悪くなっていた。

 その横でリゼが淡々とスワロウトードを解体していたため、気を失いそうになっていた。


「気分が悪かったら、休んでていいよ」

「大丈夫です」


 リゼからの優しい言葉が、自分がパーティーの足手まといになっていると感じたシャルルは、何度か嘔吐をしながらも、レティオールと二人で排泄物から持って帰る物の仕分けを続けた。

 作業人数の差と、廃絶物の少なさのせいか、リゼの解体よりも仕分けのほうが早く終わる。

 リゼは解体した肉をニアリーチに血を吸われないようにとライトボールの灯りが届く範囲に一旦、置いてからすぐにアイテムバックに仕舞った。

 リゼの思惑通り、岩の隙間からニアリーチが姿を現して、解体時に出た肉に群がる。

 その光景に、シャルルは耐えきれなくなり、奥で嘔吐した。

 レティオールの顔も青ざめていたので、リゼが説明をする。


「現場で解体するなんて、初めてです。いつも、討伐したら魔核だけ採取してましたから……それにニアリーチも初めて見ましたし……」


 異端の冒険者である自覚がないリゼ。

 普通の冒険者であるレティオールとシャルルには刺激が強すぎたようだった。

 


――――――――――――――――――――


■リゼの能力値

 『体力:三十六』

 『魔力:三十』

 『力:二十三』

 『防御:二十』

 『魔法力:二十一』

 『魔力耐性:十六』

 『敏捷:八十六』

 『回避:四十三』

 『魅力:二十四』

 『運:四十八』

 『万能能力値:零』

 

■メインクエスト

 ・迷宮ダンジョンで未討伐の魔物討伐(討伐種類:三十)。期限:三十日

 ・報酬:転職ステータス値向上


■サブクエスト

 ・瀕死の重傷を負う。期限:三年

 ・報酬:全ての能力値(一増加)


 ・投擲で魔物三匹討伐。期限:十日

 ・報酬(力:二増加)


■シークレットクエスト

 ・ヴェルべ村で村民誰かの願いを一つ叶える。期限:五年

 ・報酬:万能能力値(五増加) 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る