第225話

 迷宮ダンジョンの探索クエストに冒険者を送り込むと、迷宮ダンジョンに入らないギルド職員は冒険者ギルド会館へと戻って行った。

 町に戻るとハセゼラたちと遭遇することに怯えるシャルルとレティオールたちを保護するかのように、一緒に町まで戻ってくれた。

 冒険者ギルド会館近くの飲食店よりも、人気の少ない所が良いと言うので、リゼは食料や飲み物を買いがてら、宿泊している宿に誘う。

 移動する時も、どこか怯える二人だったが町中で襲ってくるようなことはない。

 それこそ、バビロニアから追放されるからだ。

 微笑みの宿に到着すると、空き部屋があるかを確認する。

 言い方は悪いが流行っていない宿なので、空き部屋は幾つかあった。


「随分と歩かせちゃってゴメンね。改めて、自己紹介するね」


 打ち解けやすいようにと、リゼは自分がエルドラード王国にあるオーリスという町から王都に行き、そしてバビロニアに来たことを話す。

 まだ怯えているシャルルを庇うかのように、レティオールが話し始めた。

 二人ともアルカントラ法国の出身で学院を卒業して、冒険者になったそうだ。

 学院と言うのはエルドラード王国で言う学習院のことだが、アルカントラ法国では十歳になると”成人の儀”を終えると、国民全員が二年間は学院で生活をするそうだ。

 リゼのような孤児院出身の者はいない。

 

 女神ユキノを信仰することと、この世界でのアルカントラ法国の存在などを教えられる。

 他にはスキルに応じた授業が細分化されていて、それぞれが自分にあった授業を選択出来るそうだった。

 なにより子供は国の宝という思想があるため、国からの待遇も手厚い。

 魔法職であれば初級魔法のなかから、自分にあった属性のブック魔法書一冊と杖が提供される。

 他にも前衛職であれば汎用性の武器と防具が提供される。

 当然、生産職にも手厚い援助があるため、アルカントラ法国で暮らしたいと思う者が多い。

 世界的に女神ユキノが信仰されている理由の一つだ。

 レティオールとシャルルは幼馴染で誕生日も近かったので、レティオールが学院に入った数か月後にシャルルが入学してきた。

 シャルルのスキルは特別だったのか、学院でも特別講師が任命されるほどで、将来はアルカントラ法国で高い役職に就けると期待されていた。

 リゼもそうだが、レティオールとシャルルも自分のスキルを口にしていない。

 アルカントラ法国でもスキルは口外するべきではないと教えられていたからだ。

 しかし、周囲の期待を裏切るかのように、シャルルの能力が突然、落ち始める。

 そして特別講師も外されて、一般の生徒に交じって授業を受けることとなる。

 そこでもシャルルは上手く魔法が仕えず、一気に落ちこぼれの烙印を押されてしまった。

 レティオールは、そんなシャルルを放っておけずに、二人で冒険者になりバビロニアに来た。

 バビロニアに到着すると、同郷だと優しくしてくれたハセゼラたちに気を許して、パーティーに加入したそうだ。

 だが加入すると、今までの態度が嘘だったことが分かったが、抜けることも出来ない状態だったと辛そうに話してくれた。


「リゼさんは、どうして助けてくれたんですか?」

「私も助けてもらったことがあるから――」


 リゼは自分が孤児院という特殊な環境から冒険者になったこと。

 そして、お世話になった先輩冒険者に助けてもらったことを、自分がしていると正直に話す。


「嫌だったら、別に断ってくれてもいいから」


 リゼは決して無理に誘おうとしなかった。

 二人の気持ちが一番大事だと知っていたからだ。


「その……レベルとか聞かないんですか?」

「レベルが強さを証明する一つだとは思うけど、人の強さって、そんな簡単に計れるものじゃないと思っているから。それにほら、嘘を言ったって分からないし……あっ、それと私の方が年下だから、リゼでいいよ」


 レティオールとシャルルはリゼが年下だと知り驚く。

 見た目で年下だと思っていたが、自分たち以上にしっかりしていたため、同い年か年上だと勘違いしていた。


「でしたら僕たちのほうが年上ですが、呼び捨てでお願いします」

「えっ、でも……」

「別に構わないよね?」

「うん」


 レティオールがシャルルに同意を求めた。


「その……僕たちは本当に強くありません。それでも大丈夫ですか?」

「うん。私だって、強くないから」


 自分に自信のない冒険者三人がパーティーを結成した。

 分け前は完全に三等分、使用するスクロール魔法巻物やポーションなども三人で負担することで合意する。

 問題はレティオールとシャルルが通貨を持っていないことだった。

 しばらくはリゼが負担をして、少しずつ返却して貰うことで納得してもらった。

 宿も、この微笑みの宿にした。

 今までリゼが宿泊していた部屋にはレティオールが泊まる。

 少しでも安く済ませるために、リゼとシャルルは二人部屋へと移動した。

 そのうち、余裕が出てこれば一人部屋に戻ればいい。

 とりあえず、場所を二人部屋に変えて話を続けることにした。

 誘ったのがリゼなので、リーダーはリゼになる。

 それなりに砕けた口調で話そうと、少し無理をしながら二人に緊張を解こうとする。


「二人は何階層まで行けたの?」

「……十三階層です」

「凄いね。私なんて六階層で引き返してきちゃった」

「……凄くなんかありません。むしろ、単独ソロで六階層まで行けるほうが凄いです」


 レティオールは前衛で盾役を主に任されていたが、体のいい囮だった。

 その回復をしていたのがシャルル。

 二人でも半人前以下の冒険者だと罵られ続けた。

 ハセゼラたちは意図的に「自分たちは役立たずで、お荷物だ」と、いうことを意識させようとしていたからだ。

 最初こそ否定する冒険者たちも毎日毎日、同じことを言われて戦闘でも活躍できないことで、自然と納得してしまう。

 それがハセゼラたちの思惑だとも知らずに――。


 暗い顔の二人に気付いたリゼは、明日から迷宮ダンジョンに入る話に変える。

 まず最初に資金集めと、三人の連携を確認するため、無理をせずに四階層までと決める。


「あ、あの……」


 シャルルは「自分の回復魔法に期待をしないで欲しい」と遠慮がちに発言する。


「うん。お互いに出来ることを一生懸命しよう」


 リゼは否定も肯定もしなかった。

 その姿は冒険者になったばかりの自分を見ているようだった。

 クウガやアリスは、そんな自分にも優しくしてくれたのだと、恩が返せないことが悔しかった。

 一通りの話を終えた三人は、明朝から迷宮ダンジョンに入るため、今夜は解散することにした。



――――――――――――――――――――


■リゼの能力値

 『体力:三十六』

 『魔力:三十』

 『力:二十三』

 『防御:二十』

 『魔法力:二十一』

 『魔力耐性:十六』

 『敏捷:八十六』

 『回避:四十三』

 『魅力:二十四』

 『運:四十八』

 『万能能力値:零』

 

■メインクエスト

 ・迷宮ダンジョンで未討伐の魔物討伐(討伐種類:三十)。期限:三十日

 ・報酬:転職ステータス値向上


■サブクエスト

 ・瀕死の重傷を負う。期限:三年

 ・報酬:全ての能力値(一増加)


■シークレットクエスト

 ・ヴェルべ村で村民誰かの願いを一つ叶える。期限:五年

 ・報酬:万能能力値(五増加) 

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