第224話

 冒険者ギルド会館前を通ると、いつも以上に人が多いことに気付く。

 例のクエストの影響だろう。

 楽しそうに話す冒険者。

 そのなかで新しい防具に身を包んでいる冒険者たちがいた。

 その姿が皮肉にも、このクエスト発注することになった冒険者パーティーと重なり、死なないようにと願う。


 宿までの帰り道、エンヴィーと出会う。

 話の流れ的に、迷宮ダンジョン探索のクエストになる。

 だが、エンヴィーはクエスト不参加だった。

 この町に来たのは迷宮ダンジョンでの活動ではなかったからだ。

 前にも聞いていたので、別に不思議なことでは無かったし、それぞれ事情があるので、リゼも深くは聞かなかった。

 リゼもクエスト不参加だと聞くと、エンヴィーは驚いていた。

 この町の冒険者ほとんどが参加すると噂になっていたからだ。

 もちろん、そのなかに迷宮ダンジョンにいる冒険者は除外されている。


「でも、逆に考えれば余計な冒険者がいないので、魔物は倒し放題ってことよね」

「たしかに、そうですね」


 相槌を打つが、それはエンヴィーのような実力がある冒険者の話だ。

 所詮、六階層止まりの自分が討伐できる魔物など知れている。


「もう少し、自分に自信を持ちなさい」


 リゼが悩んでいるように見えたのか、エンヴィーが励ましてくれた。

 小石を拾いおもむろに人気のないほうに投げる。


「諦めるのは簡単だからね」


 笑うエンヴィーと別れる。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ――迷宮ダンジョン探索のクエスト当日。

 迷宮ダンジョン前に多くの冒険者が溢れかえっていた。

 一応、冒険者ギルド先導の元、クエスト参加者は邪魔のいならないように集まっていた。

 リゼは参加しないので、気にせず迷宮ダンジョンへと向かおうとすると、大声で叫んでいるのが聞こえる。

 声に主はハセゼラだった。

 自分たちもクエストに参加させろと言っているようだ。


「俺はアルカントラ法国で騎士団長をしていたんだぞ。俺の言うことを聞かなければ、アルカントラ法国に言って、バビロニアへの支援を断ち切ることだって可能なんだぞ」


 普通に考えて、アルカントラ法国の騎士団長が、バビロニアで冒険者をしていることが不自然だ。

 それにそれが本当だったとしても、既に退団している騎士団長に、そのような権限があるとは思えない。


「どうぞ、好きにして下さい」


 当然、冒険者ギルドも引くことない態度で対応する。

 その態度が気に入らなかったハセゼラは、さらに大きな声で脅し文句を口にする。


「いいか、俺は騎士団長時代にリリア聖国の邪教徒どもを千人以上殺している。お前たちも、そうなりたくないだろう」


 脅し文句としては最低だった。

 アルカントラ法国とリリア聖国は確かに崇拝する女神が異なることから対立している国だ。

 しかし、明らかに虚言だと分かる言葉に、誰も信じようとしなかった。

 冒険者ギルド側も馬鹿馬鹿しくなり、まとも相手をしていない。

 怒りの矛先は、仲間の弱そうな二人に向けられたが、罵倒する言葉が理不尽な極まりなかった。

 リゼは正義感をかざすつもりはなかったが、罵倒される二人の姿を見て耐えきれなくなり仲介に入る。


「なんだ、お前は?」

「周りの人たちも迷惑しています」

「俺たちパーティーの問題だろう?」


 睨みつけるハセゼラに臆することなく睨み返すリゼ。

 力で押さえつけようと拳を振り上げるハセゼラだったが、後ろから現れたジャンロードの押さえつけられる。


「お前、五月蠅いんだよ。なんなら、俺が相手をしてやるぞ」


 ジャンロードの迫力に押されるハセゼラ。

 他の冒険者たちもジャンロードを後押しする。


「ちっ、行くぞ」


 自分たちが不利だと感じたハセゼラたちは、そそくさと逃げようとする。


「あなたたちは行かなくていいと思うよ」


 リゼがハセゼラの後を追う二人を引き止める。


「で、でも……」


 なにか事情があるかも知れないが、これ以上はハセゼラのパーティーにいても良いことは無いと思っていた。


「お前、なに勝手なことしてんだ‼」


 リゼに対しては強く出るハセゼラだったが、すぐに周囲から軽蔑の眼差しが自分たちに向けられていることを知る。


「パーティーに入るも抜けるも冒険者の自由だろう? お前たちはどうしたいんだ?」


 虐げられていた冒険者二人にジャンロードが怒りの籠った言葉で問い掛ける。


「パーティーを抜けます」


 二人は揃って言葉を口にする。


「ふざけるな‼」


 叫ぶハセゼラ。


「だから、冒険者の自由だろうが! そうだろう、そこの冒険者ギルドの職員さんよ」

「はい、その通りです」

「くそっ……お前らは解雇だ」


 ジャンロードの言葉が後押しとなり、冒険者二人は自由の身となった。


「大丈夫?」


 リゼが優しい言葉を掛けると、二人は泣き崩れる。

 いままで、ハセゼラとその仲間たちに脅されて、酷い目に遭っていたことを告白する。

 既にハセゼラたちは気まずくなって、この場にはいない。

 優しい言葉で近付き、パーティーに入ったが最後、酷い扱いだったが抜けることさえ出来ないでいた。

 相談できる冒険者もいなかったので、耐えるしか無かったようだ。

 だが、冒険者ギルドの職員がいる前で、はっきりとパーティー脱退が確認されたので、これ以上はハセゼラたちに怯えることは無いだろう。


「こんな時になんだけど、良かったら私とパーティーを組んでみない?」


 自分自身、どうして言ったのか分からない。

 自然と出た言葉だった。


「あっ! その、御試しでって言うか……」


 すぐに正気に戻り、焦って誤魔化す。


「おうおう、面白れぇな。こいつは、それなりに強いぞ」


 ジャンロードが揶揄うように会話に参加してきた。


「とりあえず、自己紹介をしてからってことだな……くそっ、呼ばれたか」


 仲間に呼ばれたジャンロードは悔しそうに、リゼたちと別れ仲間の元へと戻って行った。


「私はリゼ。職業は盗賊」


 リゼは自己紹介をする。レベルを言おうとしたが自分のレベルを正直に言うか、過小に言うかを考えていなかったので、言わなかった。

 過剰に言うことは最初から考えていなかった。


「私はシャルルです。職業は……回復魔術師です」

「僕はレティオール。一応、剣士です」


 二人とも弱々しい声で自信なさげに応える。


「私も強くはないけど……考えてみてくれるかな?」

「はい、ありがとうございます」

「宿は、どこ? そこまで送るよ」


 二人は顔を見合わせて決まずそうに答える。


「宿はありません。軒先で雨風凌いでいたので……」

「えっ‼」


 リゼは驚きのあまり声が出る。

 レティオールは恐る恐る話し始めた。

 今まで迷宮ダンジョンで得た通貨のほとんどはハセゼラたちが持って行き、二人はわずかな銅貨だけで腹を満たしていた。

 当然、宿泊代など捻出することが出来るわけもなく、ハセゼラの宿泊する宿の近くで人目につかないよう野宿をしていた。

 近くにいた冒険者たちの耳にも入り、ハセゼラたちの悪評は一気に広まることとなる。



――――――――――――――――――――


■リゼの能力値

 『体力:三十六』

 『魔力:三十』

 『力:二十三』

 『防御:二十』

 『魔法力:二十一』

 『魔力耐性:十六』

 『敏捷:八十六』

 『回避:四十三』

 『魅力:二十四』

 『運:四十八』

 『万能能力値:零』

 

■メインクエスト

 ・迷宮ダンジョンで未討伐の魔物討伐(討伐種類:三十)。期限:三十日

 ・報酬:転職ステータス値向上


■サブクエスト

 ・瀕死の重傷を負う。期限:三年

 ・報酬:全ての能力値(一増加)


■シークレットクエスト

 ・ヴェルべ村で村民誰かの願いを一つ叶える。期限:五年

 ・報酬:万能能力値(五増加) 

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