第194話

 目の前に新たなクエストが表示された。

 『メインクエスト発生』、『サブクエスト発生』、『シークレットクエスト発生』と一気に三つ表示された。

 初めてのことに驚き、体を反射的に起こして、クエスト内容を確認する。 

 メインクエスト『ラバンニアル共和国に入国。期限:九十日』『報酬(敏捷:二増加)』。

 サブクエスト『レトゥーンで三泊。期限:三年』『報酬(魅力:三増加)』。

 シークレットクエスト『ヴェルべ村で村民誰かの願いを一つ叶える。期限:五年』『報酬(万能能力値:五増加)』


 全てが王都から離れるクエストだと気付く。

 先程までの会話で個人の力を上げるために、強制的に王都から移動させるのでは?  

 メインクエストのラバンニアル共和国は迷宮都市バビロニアのある国だ。

 いずれは行きたいと思っていたバビロニアに行けるかも知れないことに、少しだけ興奮していることに気付く。

 だが、サブクエストのレトゥーンという聞きなれない言葉。

 地名なのか町なのか、それとも村なのかさえ分からない。

 それにシークレットクエストのヴェルべ村も聞いたことが無い。 

 地図をひたすら見て、レトゥーンとヴェルべ村の文字が書かれていないかを探す。


「あれ? そんなに地図を見て気になった所でもあったっスか?」


 ジェイドが戻ってくると、穴が空くように地図を見ているリゼに驚き声を掛けた。

 すると、すぐ後からアンジュも部屋に戻って来た。


「レトゥーンって聞いたことある?」


 リゼは二人に質問をする。


「レトゥーンっすか? 聞いたこと無いっスね」


 ジェイドは即答するが、アンジュは聞いたことがあるのか思い出そうとしていた。


「……たしか、レトゥーン領があったはずよ。その町の名前じゃなかったかしら。そのレトゥーンに気になるものでも?」


 地図を見ながら、場所も知らないレトゥーンのことを聞いたリゼに、アンジュは疑問を持つ。

 ただ、リゼの表情から何かを隠して質問したようには思えない。

 アンジュは深く追及することを止める。


「そう、ありがとう。私は迷宮都市バビロニアに行こうと思う」


 ラバンニアル共和国に入国ということは、バビロニアに行くべきだと、メインクエストが表示された時にリゼは決めていた。

 それよりも、サブクエストとシークレットクエストの行き先を知る必要があると思うので、情報収集のため冒険者ギルドに寄ろうと決める。


「いいっスね。バビロニアの迷宮ダンジョンだったら修行にもなるっスね」

「たしかにそうね。いい所に目を付けたわね」


 バビロニアの迷宮ダンジョンには、修行の場として訪れる多くの冒険者がいる。

 ラバンニアル共和国の国益大半を占めているため、国をあげてバビロニアを支援しているので、治安も安定している。

 そのため、バビロニアには商人たちも集まり賑わっている。


「ジェイドは王都に残るのよね」

「そうっスね。ジョエリオさんが王都に戻って来てから考えるっス」

「そう、分かったわ。私は用意出来次第、王都を離れるつもりだけど、リゼはどうする?」


 リゼの行き先が決まったことで、話は自然と王都を離れる内容へと切り替わる。


「私は身軽だから、すぐにでも王都を出ることが出来るから、明日には出発しようと思う」

「明日って、早いわね」

「そうっスね」


 あまりに早い決断にアンジュとジェイドは驚いていた。

 しかし、リゼにとってはごく当たり前のことだったので、二人の表情を不思議そうに見ていた。


「じゃあ、二代目銀翼の活動は、この時を以って個々の活動に専念すること。そして、二年後の建国祭に再び集まりましょう」

「そうっスね。二人とも自分を驚かせるような姿になっていて下さいよ」

「ジェイドもね」


 二人の顔は笑顔だった。

 そして、ジェイドが目も前に手を出すと、その手に反応するようにジェイドの手に自分の手を重ねる。


「ほら、リゼも」


 戸惑うリゼにアンジュが手を出すように促すと、リゼは急いでアンジュの上に手を重ねた。

 二代目銀翼を胸に刻み、二年後に二人が驚くような強さで戻って来ることを誓う。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 銀翼館を出るとリゼは冒険者ギルドへと向かう。

 レトゥーンとヴェルべ村についての情報を得るためだった。

 冒険者ギルド会館に貼ってある大きな地図を見ながら情報を探す。

 だが、大きな地図からレトゥーンとヴェルべ村を探し出すのは困難な作業だった。

 気付くと地図を眺めて一時間以上経っていた。


「どうかされましたか?」


 直立不動で地図を見上げているリゼが困っているのだと感じた受付嬢が声を掛けてきた。

 先程、ギルマスと一緒に銀翼館へ来た受付嬢だった。


「探している場所があるのですが……」

「町などの名前は分かっていますか?」

「はい」

「であれば、受付で調べることが出来ますので、どうぞ」


 受付嬢に言われるまま、リゼは受付へと移動する。

 カウンターの下から何冊かの本を取り出すと、小さな地図と一緒にカウンターの上に置く。


「探している場所は、何処になりますか?」


 受付嬢はリゼに質問をする。


「ヴェルべ村です」

「ヴェルべ村ですか? ……少々お待ちください」


 カウンター上の本から一冊選ぶと本を開く。

 指でなぞり、頁をめくり始めた。


「ありました。ドクアエール領にある村で、この世界で一番高いと言われているソラボンチ山の麓にあります。王都からですと、かなり距離がありますが観光地でもないので、訪れる人も少ないですね」


 カウンター上の地図でヴェルべ村の場所を指差す。

 王都からの距離を確認しようと比較出来場所を探すと、オーリスの文字を発見する。

 長さ的には倍以上あるので、移動時間も同様だ。

 同時に同じくらいの場所にバビロニアの文字を発見する。

 丁度、三角形を描くような位置関係だった。

 それよりも問題は、訪れる人が少ないということだった。

 定期運航の馬車も出ていない可能性もあるし、商人が立ち寄る場所でも無い。

 近くの大都市まで馬車で移動して、そこから徒歩での移動になる。


 冒険者の事情を聞かないのは当たり前だが、受付嬢は銀翼に入ったばかりのリゼが、自分も聞いたことのないような村の場所を聞くことに違和感を感じていた。


「それと、レトゥーンの場所も教えて頂けますか」

「レトゥーンですか!」


 受付嬢は驚きの表情を浮かべる。

 その表情にリゼも驚く。


「なにか、レトゥーンに用事でも――」


 思わず聞き開けそうとしたことに気付いた受付嬢は、言葉を飲み込んだ。


「すみません。レトゥーン領の領主が居る町レトゥーンで宜しいですか?」

「はい」


 とりあえず、情報を得られるのであれば何でも良いと思い返事をする。

 ヴェルべ村よりも知名度があるのか、本を開くことなく地図で場所を指差す。

 エルドラード王国とラバンニアル共和国の国境付近にある。

 王都からバビロニアへ行くより少し遠回りしなくてはならない。

 ただ、レトゥーン名産である果物”レトゥーリアン”を買い求め商人が訪れるため、定期的に馬車が出ているので、ヴェルべ村よりも行きやすいと教えてくれた。


「ありがとうございます。この地図は購入出来るのですか?」

「申し訳御座いません。こちらは冒険者ギルド所持の地図になります。販売等は致しておりません」

「そうですか……」


 道具屋でも今、見ているような詳細な情報が入った地図は売っていなかった。

 銀翼館にあった大きな地図も特注で、自分たちで書き足していた。

 仮に購入できたとしても高価な物だとリゼは思い諦めるが、場所だけは忘れないようにと、頭に入れる。



――――――――――――――――――――


■リゼの能力値

 『体力:三十六』

 『魔力:三十』

 『力:二十二』

 『防御:二十』

 『魔法力:二十一』

 『魔力耐性:十六』

 『敏捷:八十四』

 『回避:四十三』

 『魅力:二十一』

 『運:四十八』

 『万能能力値:零』

 

■メインクエスト

 ・ラバンニアル共和国に入国。期限:九十日

 ・報酬:敏捷(二増加)


■サブクエスト

 ・レトゥーンで三泊。期限:三年

 ・報酬:魅力(三増加)


■シークレットクエスト

 ・ヴェルべ村で村民誰かの願いを一つ叶える。期限:五年

 ・報酬:万能能力値(五増加)

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