第195話

 受付嬢に礼を言い、冒険者ギルド会館から馬車乗り場へと移動する。

 地図を購入するかを悩みながらも、道具屋を通り過ぎる。

 馬車乗り場でバビロニアとレトゥーンへ定期的に往復している馬車を確認する。

 バビロニア行きは昨日、出発したばかりなので九日後。レトゥーン行きは明後日だが、それを逃すと二十日後になる。

 共に空きはあるそうなので、リゼは早いレトゥーン行きを予約する。


 客亭スドールに戻ったリゼは、明後日に王都を出ることを伝えて明日が最後の宿泊だと伝える。

 三日前までに延長の申告をしなければならないので、すでに宿泊延長の申告をしている。

 宿泊料の返却は出来ないことを淡々と説明されるが、リゼも承知していたので反論することなく受け入れる。

 そのまま、自分の部屋に戻り旅立ちの準備をする。

 アイテムバッグから取り出した小太刀を見て、もう謝罪することさえ出来ないことに気付くと、頬に涙が伝っていた。

 そして、何度も後悔と懺悔の感情が押し寄せる。

 時折、銀翼のメンバーに対する感謝の気持ちと、懐かしい感情を思い返す。

 その時、アンジュとジェイドの言葉を思い出す。


「アリスお姉様に怒られましたわ」

「自分も兄貴に殴られたっス」


 自分の姿を見たクウガは、どう思うだろうか。と考える。

 師事する相手をクウガにしたことに後悔は無い。

 その師事すると決めたクウガに恥ずかしくないように生きると決める。

 これは誰に言う訳でも無く、リゼ自身が決めたことで口にすることはない。

 そう、クウガの名誉を地に落とすような、恥ずかしくない弟子になる決意だった。

 涙を拭い、小太刀をアイテムバッグに仕舞う。

 レトゥーンまでの移動期間は長く、その間に立ち寄る大きな町は一ヶ所しかない。

 そのためポーションや、マジックポーション、毒消し草などの消耗品は出来るだけ購入しておくべきだ。

 そして、小太刀の代わりの武器も……。


(刀匠――か)


 以前のクエストを思い出す。

 スキル進化により、クエスト自体が引き継がれなかった。

 しかし、リゼは刀匠の武器に憧れを抱いていた。

 もちろん、自分のような冒険者が刀匠の武器を使う機会などないも知れない。

 ただ、リゼのなかで確信はないが、クエスト自体は消滅してないと思っていた。

 自分のスキルが、そんな簡単にクエスト内容を変更するとは思えなかったからだ。

 リゼは、多くの不安を感じながらも準備を進める。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ――翌日。

 リゼは道具屋に足を運ぶ。

 ポーションとマジックポーション、毒消し草をそれぞれ購入する。


「地図はありますか?」

「はい。王都内の地図、エルドラード王国の地図、世界地図がありますが、御希望でしょうか?」

「世界地図ですが、幾らでしょうか?」

「銀貨三枚からです」

「参考に見せて頂くことは出来ますか?」

「はい」


 店員は奥から世界地図を持って来ると、リゼの前で広げる。

 冒険者ギルドのカウンターで見た地図よりも二回りほど小さく、主要都市の表記しかない。

 続けて広げた地図は大きさこそ同じだが、書かれている内容が大きく違っている。

 主要都市に加えて、小さな町も多く表記されている。

 最後に広げた地図は今までの地図より大きく、冒険者ギルドの地図と同じ大きさだった。

 それに書かれている都市は今までの二つよりも多い。

 ただ、価格は銀貨八枚と倍以上になる。


「この一番高いのを下さい」


 リゼは迷うことなく最後の地図を選択した。


「有難う御座います」


 店員は満面の笑みを返す。

 支払いを終えてリゼは店を出る。

 店を出ると周囲を見渡す。


(気のせい……かな?)


 宿を出てから誰かにつけられている気がした。

 気のせいかと思いながら道具店まで来た。

 誰かにつけまわされるような覚えがない。

 自分の思いとは別に恨みを買うことがあるオーリスでの出来事に思い出す。

 そのまま、保存食の干し肉や、日持ちの良い食料を少しだけ買い足す。


「そのまま、聞いてくれ」


 店先で隣にいた冒険者から小声で話し掛けられる。


「動くな」


 思わず振り向こうとするリゼに向かって再度、言葉をぶつける。

 リゼは大人しく、隣の冒険者に従う。


「俺は金狼のウォーリーという者だ。お前、さっきから誰かにつけられているな」

「……確信はありませんが、そんな気はしています」

「そうか。振り返ったら、すぐに右へ行け。そして、一本目の路地を右に入れ。その間に、俺がお前につけている奴を引き止めておいてやる」

「どうして?」

「コウガさんに言われているしな」

「そうですか。有難う御座います」


 リゼはウォーリーの言葉を信じて、礼を言って言われた通りに走る。

 路地を曲がり、少し走るとリゼは足を止めた。


「よぉ」


 そこには見たことのある冒険者が立っていた。


「本当に言った通りだな」


 背後からウォーリーが笑いながら歩いて来た。


「どういうことですか?」


 リゼは目の前の男とウォーリーを交互に見る。


「俺はお前のせいで順風満帆なはずの人生が狂わされたんだよ」

「どういうことですか?」


 目の前の男は金狼を除名させられたテルテ—ドだった。

 しかし、リゼはテルテ—ドが金狼を除名させられたことや、その原因が自分にあることなど知らない。


「ふざけやがって‼」


 悪びれることのないリゼの態度にテルテ—ドは怒り心頭だった。


「テルテ—ド。お前、もしかして相手にされていないんじゃないのか?」


 笑いながら静かにリゼに詰め寄るウォーリーを不気味に感じていた。


「悪いな。俺は金狼じゃないんだよ」


 そう言って笑うウォーリーの笑みは、今までの笑みと違い不気味さを増していた。


「おい、テルテ—ド。本当に、こいつを殺れば約束の報酬は貰えるんだろうな」

「当り前だ」

「必ず守れよ」


 ウォーリーは一気にリゼとの距離を詰める。

 咄嗟にリゼも臨戦態勢を取ろうと、後退りすると背後からテルテ—ドが斬りかかってきた。

 細い路地での前後からの攻撃だったが、リゼは驚くほど冷静なことに気付く。

 リゼは”シャドウステップ”を使い、影を使い壁を駆け上る。


「な、なに!」


 壁を駆け上るリゼに驚くウォーリーとテルテ—ド。

 そして、ドッペルゲンガーを発動させて一対一での戦いに変える。


「な、なんだよ、これ‼」


 見たことのない魔法に怯えるウォーリー。


「お、おい。こんなの聞いていないぞ」


 リゼはテルテ—ドに”シャドウバインド”を使い動きを止める。

 影の棘で体を巻き付かれたテルテ—ドを見て、ウォーリーは腰を抜かして完全に戦意を失っていた。


「くそっ、なんだこれ‼」


 必死でシャドウバインドを外そうとするが、テルテ—ドは体の自由を奪われたままだ。

 ウォーリーも地面に尻をつけたまま、近付くドッペルゲンガーに恐れをなしたのか、後退りをする。

 今まで経験したことのない恐怖がウォーリーを押しつぶす。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ」


 起き上がることなく野犬のように四つん這いで逃走するウォーリー。

 いきなり大通りに出たため、悲鳴が上がり大騒ぎになる。

 テルテ—ドを拘束していたシャドウバインドも効力を失う。


「くそっ!」


 騒ぎが大きくなったことがマズいと思ったのか、テルテ—ドもその場から姿を消す。

 リゼも騒ぎに巻き込まれるのは面倒だったのでシャドウステップを使い、建物の壁を上り屋根伝いに人気の無い所まで移動をする。



――――――――――――――――――――



■リゼの能力値

 『体力:三十六』

 『魔力:三十』

 『力:二十二』

 『防御:二十』

 『魔法力:二十一』

 『魔力耐性:十六』

 『敏捷:八十四』

 『回避:四十三』

 『魅力:二十一』

 『運:四十八』

 『万能能力値:零』

 

■メインクエスト

 ・ラバンニアル共和国に入国。期限:九十日

 ・報酬:敏捷(二増加)


■サブクエスト

 ・レトゥーンで三泊。期限:三年

 ・報酬:魅力(三増加)


■シークレットクエスト

 ・ヴェルべ村で村民誰かの願いを一つ叶える。期限:五年

 ・報酬:万能能力値(五増加)

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