第187話

 ――翌朝。

 先日のテルテ—ド同様に、門を開けた冒険者が驚き、声をあげる。

 門の前にリゼが静かに立っていたからだ。

 朝の鍛錬をするために歩いていたマリックとアンバーに、昨日同様に報告をする。


「まさか、今日も来るとは」


 コウガを起こすのが面倒臭いと思いながら、頭を掻く。


「マリックさん。なんで笑顔なんですか?」

「ん? ……そうか、笑っていたか」


 マリックは自分でも気づかないうちに笑っていたことに気付く。


「ちょっと、コウガを起こして来るわ」

「分かりました。俺はリゼを稽古場に案内します」

「頼んだぞ」


 昨日と同じ行動を取ることになったマリックとアンバー。

 声を掛けずに部屋へと入り、蹴りを入れてコウガを起こす。


「いってぇな」


 痛みで起きたコウガは、明らかに不機嫌だった。


「お客さんだ」

「客?」


 身に覚えのない来客に眉をひそめる。

 思い当たる節が無いのか、多すぎて分からないのか一向に言葉が返ってこない。


「……リゼだ」


 このままでは埒が明かない思ったマリックは答えを口にする。


「はぁ⁈ 昨日、あれだけボロボロだっただろう」

「俺も直接見ていないから分からないが、ボロボロの姿だろうな。だが、お前に早く会いたいのか、朝一番で来ていたんだぞ」

「はぁ~面倒だな」

「そう言いながら、嬉しそうだな。モテる男は大変だな」


 先程、アンバーに言われたことを思い出して、同じような言葉でコウガを揶揄う。


「そうだな。期待に応えるしかないか」


 起き上がると首を鳴らして、体を軽く動かす。

 コウガの顔が笑顔になってることに、マリックは気付くが自分も同じように笑っている自覚は無かった。


 稽古場に到着する。

 想像通りのボロボロ姿のリゼが無言で立っていた。

 コウガはリゼから目を逸らさずに、ゆっくりと足を進める。

 昨日のコウガとの戦いを見ていた冒険者たちは、リゼの無謀な行動が理解できなかった。

 格上の相手に負けると分かっていて、戦いを挑むなど命が惜しい冒険者が取る行動じゃないからだ。

 リゼのことを、頭がおかしい冒険者だと思うようになっていた。


「昨日の今日とはな」


 大声で肩を回しながら登場するコウガをリゼは直視して、足を止める。


「それで俺に用事って……まぁ、昨日のことだよな」

「はい。コウガさんを倒すために、ここに来ました」


 リゼの言葉に笑みを返すと、向かって来いと手招きをする。

 一呼吸おいたあと、リゼはコウガへの攻撃を開始する。

 疲労もあり、リゼの攻撃に昨日のような精細さはなかった。

 昨日と違うのは初めからリゼへの攻撃をかわさずに、無手でのリゼに拳を叩き入れる。

 泥臭くも、ただひたすらに向かって行くリゼ。

 武器を使うまでもない……つまり、手を抜かれていることをリゼは分かっていた。 

 手を抜くなら抜いてもらってもいい。

 倒して、発言を撤回してくれればいいだけだ。


「弱すぎるな。あながち、俺の言ったことも間違っちゃいないだろう」

「私は弱いです。それは認めます」

「ほぉ、自らを弱いと言うか」


 必死で攻撃をするリゼを笑いながら反撃するコウガ。

 一撃に一言を交わす。


「もう、銀翼は終わりだろう」

「終わりじゃありません。私たちが銀翼を終わらせたりしません‼」

「口だけなら、何とでも言えるよな!」


 今日一番の力で殴られたリゼは転がった。


「必ず私たちが……私たち三人が、銀翼は素晴らしいクランだと証明させてみせます」


 フラフラに立ち上がりながらも、しっかりとした口調でコウガに反論していた。

 言葉からリゼからの意志の強さが伝わる。

 だが、意思の強さだけでコウガを倒すことは出来ない。

 その後も、攻撃をまともに当てることも出来ずに殴り飛ばされる。


「やっと、気を失ったか……」


 起き上がってこないリゼを見て、コウガは戦闘態勢を解く。


「おい、アンバー」

「分かってます。きちんと送り届けますよ」


 アンバーはコウガの意図を汲み取ると、昨日と同じ仲間と二人でリゼを客亭スドールへと運ぶことになった。

 その道中で仲間の冒険者”ジムット”がアンバーに問い掛ける。


「しかし、こいつはなんなんだ?」

「冒険者だろう?」

「そう言うことを聞いているわけじゃない。コウガさんに喧嘩を売るって、正気の沙汰じゃないだろう」

「まぁ、普通じゃないよな」

「そうだろう。昨日のコウガさんの話じゃないけど、天翔旅団に喧嘩売る話は、あながち外れていたわけじゃないしな」

「俺も同じことを思っていた。金狼を馬鹿にされた時、自分も同じ行動が出来るかと言えば……天翔旅団相手には出来ないだろう」

「当り前だ。俺だって無理だ……そう考えると、こいつって凄いよな」

「あぁ、凄い冒険者だよ」


 アンバーは背負っているリゼを羨ましそうに見ていた。

 途中で何人かの冒険者に会い、歩きながら会話をする。

 昨日と同じで話に脚色をするわけでなく、真実をそのまま伝えた。

 クラン同士の争いでなく、リゼが冒険者個人としてコウガに戦いを挑んでいること。

 そして、昨日に続いて今日もボロボロにされて負けたこと。

 当然、リゼがコウガに戦う理由も、コウガがクウガを銀翼を馬鹿にしたことが発端になっていることも伝えてある。

 これはマリックが町で聞かれたら、真実を話すように言われていた。

 コウガが銀翼を侮辱する発言をしたことは、冒険者の多くは知っていた。

 そして、リゼが銀翼に入ったことを、多くの冒険者に知られていることも。

 ボロボロになりながらも、コウガに向かって行くリゼを笑っていた冒険者もいた。

 クランの名誉のために戦うことに一定の理解はあったが、名誉を守るために戦うことを良しとしない冒険者も多い。

 死んでしまったら意味が無いからだ。


 ただ、アンバーとジムットは話をした冒険者が、リゼのことを馬鹿にしたり嘲笑う姿に不快感を示していた。

 リゼとコウガの戦いを見ていない冒険者が、リゼを笑う資格など無いと思いながらも、反論すれば金狼の冒険者がリゼに肩入れしたと捉えられる。

 それは二人の本意では無いし、間違った情報が伝わることは避けなければならない。

 嬉しそうに話す冒険者に適当な相槌を打ち別れる。

 去って行く冒険者の後姿を見ながら、昨日に続いて今晩も酒場で、コウガとリゼのことは酒の肴になるだろうと思いながら見続ける。


「さぁ、リゼを送り届けて俺たちも早く戻ろう」

「そうですね」


 金狼郭でも酒場同様に、コウガとリゼの戦いで酒を飲んでいるのだろうと思うと、羨ましく思い、話の輪に入りたいと思い足早にリゼを送り届ける。



――――――――――――――――――――


■リゼの能力値

 『体力:三十六』

 『魔力:三十』

 『力:二十二』

 『防御:二十』

 『魔法力:二十一』

 『魔力耐性:十六』

 『敏捷:八十四』

 『回避:四十三』

 『魅力:二十一』

 『運:四十八』

 『万能能力値:零』


■メインクエスト

 ・敬える冒険者への弟子入り。期限:十四日

 ・報酬:戦術技術の向上、理解力の向上

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