第186話

「……仲間が悪かったな」

「いいえ、無理を言っているのは私ですから」


 コウガが来るまで間を繋ぐ言葉が見つからなかったアンバーが、テルテードの無礼を謝罪する。

 しかし、リゼは気にする様子でも無かった。

 リゼの視線は稽古場の入口を、ずっと見ていた。


 しばらくすると、コウガとマリックが入って来た。

 遠くにいてもコウガから殺気が漂って来ていることが伝わる。


「待たせたな」

「いいえ」

「用件は……って、昨日と同じか?」

「はい。訂正して下さるまで、何度でも伺わさせて頂きます」

「ふ~ん、なるほどね。取り敢えず、テルテードが悪かったな。クランのリーダーとして、その件は謝罪させてもらう」

「いいえ、かまいません」

「まぁ、テルテードには後で、俺からきちんと言って聞かせるってことで勘弁してくれ」

「はい」


 リゼは本来の目的から外れて話をするコウガに苛立ちを覚えていた。


「訂正して貰えますか」


 強めの言葉をコウガにぶつける。


「俺を倒したらクウガを馬鹿にしたことや、銀翼を侮辱した言葉全て撤回したうえで謝ってやるよ」

「有難う御座います」


 コウガが言い終わると同時に距離を詰める。

 コウガの隣にいたマリックも同時に戦闘から巻き込まれないように、コウガから離れる。


「ほう。小太刀を鞘に納めたまま攻撃してくるか。俺を殺すんじゃないのか?」

「訂正をしてもらうことが目的です」

「そうだったな」


 リゼの攻撃を簡単にかわす。

 かわす。かわす。ただ、かわすだけだった。

 まるでテルテードは自信の行いを詫びるかのように手を出さずにいた。

 しかし、リゼは揶揄われていると思い、怒りを増していた。

 武器を出さず、無手のまま余裕で対応するコウガに実力で敵わないと分かりながらも、攻め続けるしか無かった。

 一定期間耐えていたコウガが攻撃に転じた。

 だが、たった一発の拳を殴られただけで、リゼは勢いよく飛ばされて地面に叩きつけられた。

 コウガは追撃する気がないのか、その場から動かない。

 立ち上がったリゼは迷うことなくコウガに向かって行き、一撃で跳ね返される。

 その後も倒されては立ち上がり、倒されるの繰り返しだった。

 最後は気力体力ともに尽きたのか、リゼは立ち上がったと同時に気を失い、その場で崩れ落ちた。


「マリック。こいつの宿は分かっているな」

「もちろん」

「誰かに宿まで届けさせろ」

「了解、アンバー。一度、戦った仲だし行ってくれるか?」

「えぇ、構いません。客亭スドールでしたよね?」

「その通り」

「分かりました」


 アンバーはリゼを背負うと、仲間の冒険者を一人呼ぶと、二人で客亭スドールへ向かう。


「思ったよりも粘ったんじゃない?」

「粘り強いのは銀翼の特徴だろう?」


 笑って話すコウガに釣られて、マリックも笑う。


「それよりも次の問題だな」

「テルテード……か」


 面倒臭さと怒りが混じった表情で話すコウガを、じっと見つめるマリック。



 アンバーたちが金狼郭に戻ると、金狼郭にいる冒険者たちは、既に大広間に集められていた。

 部屋に入ったアンバーたちは、部屋の空気が重いことを感じ取りながら、空いている場所に座る。


「とりあえず、揃ったようだし始めようか」


 マリックがコウガに、テルテードへの尋問を始めるように言葉を繋いだ。


「そうだな。始めるか……で、どうしてこうなった」


 コウガは最初にテルテードの言い分を聞く。


「俺はクランのために……コウガさんを馬鹿にした銀翼のあいつを懲らしめただけです」


 必死で自分の正当性を訴えた。

 いや、テルテードは自分の行動が悪いと思っていない口調だった。


「テルテード。お前、これで何回目だ?」

「何回目って……」


 テルテ—ドは下を向き、言葉を詰まらせた。


「三回目だ。前の時に言ったよな。次は無いって」


 言葉を発しないテルテ—ドに苛立つように、コウガがテルテ—ドが答えるはずだった言葉を口にする。


「それは……でも、今回はクランのことを――」

「おい!」


 コウガがテルテードの言葉を遮るように怒鳴った。


「クランのためだと言えば、なんでも許されると思っているのか? 周りを見てみろ」


 テルテードは周囲の仲間たちを見ると、誰もが自分に厳しい目を向けていることに気付く。

 クラン内の実力で一目置かれるほど強くはない。

 にもかかわらず、態度が大きく仲間を敬う気持ちも欠ける言動を繰り返す。

 コウガやマリックなどの実力がある冒険者には、媚び諂っていた。

 それでいて、些細なことで他の冒険者と度々問題を起こす。

 テルテードを良く思っていないクランの冒険者も多かった。


「テルテ—ド。天翔旅団のオルビスが金狼の悪口を言っていた。今から行って喧嘩売って来い」

「えっ、なにを言っているんですか。俺がオルビスに敵うわけないでしょう」

「そうか。じゃあ、オルビスがリゼのように門の前にいても、お前は殴りかからなかったのか?」

「そ、それは……」

「お前はリゼが自分より格下だと思ったから、殴りかかったんだろう。なにがクランのためだ。ふざけた戯言を言うのも、いいかげんにしろ」


 殺気が籠った話し方に、その場にいた誰もが言葉を発することが出来なかった。

 同時にテルテ—ドの対して、コウガと同じことを思っていた。


「テルテ—ド。今、この時をもって金狼から除名とする」

「そ、それは!」


 金狼という看板で好き放題してきたテルテ—ドにとって、その看板がなくなるということは、今までのようには振る舞えない……いいや、守ってくれたクランが無くなったら、他の冒険者からの報復が必ずある。

 因果応報、自業自得だ。


「話は以上だ。マリック、悪いが冒険者ギルドへ報告してくれ」

「まぁ、それは俺の仕事だし、きちんと処理しておくよ」


 場を和ませるように、軽い口調で答えるマリック。


「まぁ、待って下さい‼」

「おい、こいつを連れ出せ」


 必死で懇願するテルテ—ドだったが、マリックが一蹴する。


 すぐにテルテ—ドが、金狼から追放されたことが冒険者たちに伝わる。

 いち冒険者となったテルテ—ドを仲間として迎えるパーティーやクランは少ない。

 ましてや、金狼を追放されたという事実は、それだけクランに迷惑を掛ける問題の多い冒険者ということを証明していたからだ。



――――――――――――――――――――


■リゼの能力値

 『体力:三十六』

 『魔力:三十』

 『力:二十二』

 『防御:二十』

 『魔法力:二十一』

 『魔力耐性:十六』

 『敏捷:八十四』

 『回避:四十三』

 『魅力:二十一』

 『運:四十八』

 『万能能力値:零』


■メインクエスト

 ・敬える冒険者への弟子入り。期限:十四日

 ・報酬:戦術技術の向上、理解力の向上

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