第182話
銀翼館に到着する。
ギルマスらしき男性と受付嬢の服を着ている女性の二人が丁度、銀翼館に入るところだった。
「あれ? リゼじゃない。朝早くにギルマスといい、リゼといい、一体どうしたの?」
驚いた表情のアンジュを見て、リゼはまだクエストを失敗したことを知らないのだと確信する。
「はぁ、はぁ……ギルマスとの話の席に、私も同席していいですか?」
「えっ、別にいいけど……」
あまりの迫力にアンジュは驚きながら、ギルマスの顔を見る。
「俺は構わないぞ」
「あ、ありがとうございます」
ギルマスもリゼと銀翼の関係を知っているので、同席を許可した。
奥からジェイドが「なにごと?」という表情で覗いていた。
アンジュがテーブルに飲み物が置き、自分の椅子に座る。
ギルマスと受付嬢の対面にリゼとアンジュ、ジェイドの三人が座っている。
「それで、ギルマス。朝早くから、一体なんの御用でしたか?」
いつもと変わらぬ口調で話すアンジュを見ながら、リゼは胸が締め付けられる思いだった。
「単刀直入に言おう。銀翼がクエストに失敗した」
「えっ!」
アンジュとジェイドの顔から笑顔が消え、強張った表情へと変わる。
「ラスティア以外の銀翼の冒険者は行方不明だが、ラスティアの証言から、全員死亡したと判断す――」
「嘘よ‼」
ギルマスが説明している途中だったが、アンジュがギルマスの言葉を否定する。
取り乱すアンジュをリゼが必死で落ち着かせる。
ギルマスの隣にいた受付嬢も立ち上がり、アンジュに冷静になるようにとなだめた。
「とりあえず、ギルマスからの話を聞こう。でないと、アリスさんたちの身に何が起きたか分からないでしょう?」
リゼの言葉で、何をすべきかを理解したアンジュは椅子に座る。
隣のジェイドは表情を変えずに、テーブルの一点を見ていた。
アンジュとジェイドの様子を見て、ギルマスが再び話し始める。
「続きだが、ラスティア以外の銀翼の冒険者は全員死亡したと判断する」
「まだ、分からないっス。自分が探しに行くっス」
「そうよ、ジェイドの言う通りよ。アリスお姉様たちが死んだと決まったわけじゃないもの」
到底、受け入れられない言葉にジェイドとアンジュはギルマスに真剣な眼差しを送ると、ギルマスが強くテーブルを叩く。
「現実を受け入れろ。今回、銀翼が行った場所はどこだ? そこで起きた洞窟の崩壊……生きて帰れる確率は皆無だ。それくらい、お前たちなら理解できるだろう!」
ラスティアの証言から、コカトリスが生息していた洞窟は、かなり深かったことや、洞窟自体が脆かったため強力な魔法を使用できなかったことなどの説明を続けた。
「で、でも……可能性があるなら」
「お気持ちは分かりますが、行ったところで二次被害を増やすだけです」
「そうだ……お前たちが無茶をして喜ぶ仲間たちじゃなかっただろう」
受付嬢とギルマスが、ジェイドとアンジュを説得する。
ギルマスの言葉は既に過去形へと変わっていたのは、アンジュとジェイドに現実を受け入れさせようとする意図があった。
ラスティアは記憶喪失だったと言い、昔の記憶が戻ったので冒険者を引退して、自分の領地に戻ると話したそうだ。
名前もラスティアでなく、本名の”エルダ”と今後は名乗るので、冒険者であるラスティアは存在しない。
既に冒険者としての引退届も受理したことや、クエスト失敗の違約金は、冒険者ギルドに預けてあったクラン名義の預り金から補填することなど、ギルマスと受付嬢は淡々と説明を続けた。
気持ちが入るとやりきれないからこそ、受付嬢は感情を出さずに説明するしかなかった。
説明を受けているアンジュとジェイドは、まだ信じられずにいた。
ラスティアから直接話を聞きたいと言うアンジュに、ギルマスは首を横に振る。
「ラスティアは怪我が治り次第、自分の領地に戻るそうだ。今から王都を出発しても間に合わないだろう」
リゼは二人の狼狽ぶりを初めて見たが、自分だけでも冷静になろうと何度も自分に言い聞かせていた。
「クランの条件は知っているな?」
突然のギルマスの言葉に、アンジュとジェイドは戸惑う。
「冒険者三人以上がクラン設立の条件だ。もちろん、活動出来る冒険者という前提だ」
この言葉を聞いてリゼにアンジュ、ジェイドの三人はギルマスの言おうとしている意図が分かった。
アンジュとジェイドしかいない銀翼はクランを維持する条件を満たしていない。
「猶予は五日だ。それまでに――」
「私が銀翼に入ります。そうすれば、三人になりますので問題ありませんよね」
ギルマスの話している途中だったが、リゼの口から言葉が出てきた。
考える前に発した言葉なのは、リゼ自身がよく分かっていた。
「それは、そうだがそれを決めるのはアンジュとジェイドの二人だろう」
「はい、そうです」
ギルマスと受付嬢は困惑しながら、リゼを見ていた。
リゼは立ち上がり、アンジュとジェイドに頭を下げて頼む。
「実力的に銀翼に入れる冒険者でないことは、私自身が良く分かっている。銀翼にふさわしい冒険者がいれば、すぐにでも私を脱退させてくれればいい。でも、その間だけ……数合わせでもいいので……銀翼を無くさないために、私を銀翼に入れてください」
自分が銀翼にふさわしいとは思っていない。
ただ、クウガたちが生きていると信じているアンジュとジェイドに、クウガたちの戻る場所を残してあげたいと気持ちだけだった。
アンジュとジェイドからの返答は無いまま、リゼは不安な気持ちのまま頭を上げる。
目の前には泣きじゃくるアンジュと、上を向いて涙を必死でこらえているジェイドの姿があった。
「ありがとう……ありがとう、リゼ」
絞りだすような声でアンジュはリゼに礼を言う。
「分かった。クランは存続とする」
ギルマスと受付嬢の表情も和らぐ。
アンジュとジェイドが落ち着くのを待ち、説明を再開した。
アルベルトたちの冒険者登録は五年間休止となる。
その間に生存が確認されて冒険者ギルドで依頼を受ければ、休止は解除される。
逆に言えば、五年間音沙汰がなければ、死亡したと冒険者ギルドが判断したということだ。
以降、生きていることが分かったとしても、冒険者ランクは冒険者ギルドとの面談で、どのランクから再スタートするかが決まる。
余程の理由が無い限りは、同ランクでの再スタートはない。
「辛いだろうが、これからも頑張ってくれ」
ギルマスは最後に励ましの言葉を口にして、銀翼館を去っていった。
銀翼館にいるアンジュとジェイドは、夢であって欲しいと思っているのか席から動こうとせずにいたので、リゼが扉まで行こうとした。
「俺たちの見送りは結構だ。それよりも――」
ギルマスはアンジュとジェイドに視線を送る。
それは「近くにいてやれ」と言いているように思えた。
「分かりました。わざわざ、御足労頂き有難う御座いました」
銀翼の冒険者として、初めての仕事。
説明に足を運んでくれたギルマスと受付嬢に、礼節を軽んじないような態度で接した。
――――――――――――――――――――
■リゼの能力値
『体力:三十六』
『魔力:三十』
『力:二十二』
『防御:二十』
『魔法力:二十一』
『魔力耐性:十六』
『敏捷:八十四』
『回避:四十三』
『魅力:二十一』
『運:四十八』
『万能能力値:零』
■メインクエスト
・敬える冒険者への弟子入り。期限:十四日
・報酬:戦術技術の向上、理解力の向上
■シークレットクエスト
・? 期限:?
・報酬:?
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