第180話

 二体目のキラープラントを発見する。

 まだ、キラープラントの攻撃範囲内に入っていないのか、捕食態勢を保ったままだ。


「行きます」

「おう、任せてくれ」


 ハリソンは自慢の剣を天に突き立てた。

 リゼはキラープラントに走って行く。

 ウンリケも既に魔法を発動する準備を始めた。

 一気に加速するリゼは一瞬で、キラープラントの懐に入る。

 あまりの早さにキラープラントもリゼの存在に気付くのが遅れる。

 攻撃をする前に”シャドウバインド”を発動させる。


「ウンリケさん、今です!」

「ほぉ~~~」


 始めて見る”シャドウバインド”に興奮しながら、”フローズン”を発動させた。

 細かな氷がキラープラントに発射されると身動きできないキラープラントは”シャドウバインド”ごと凍らされていく。

 反撃しようにも低温となった体は上手く動かせない。

 完全に凍る前に、リゼとハリソンはキラープラントの体を刻んでいく。

 あっという間にキラープラントの討伐が完了した。

 ハリソンがそのまま、魔核を取り出そうとするが、凍ったキラープラントの体が固いため、ウンリケに文句を言う。

 しかし、ウンリケはリゼの魔法に興味があるようで、ハリソンの文句など耳に入っていなかった。


 その後、三体目のキラープラントも同じような攻撃で簡単に討伐することが出来た。

 調子に乗ったウンリケが、もう少しだけ倒そうと言い始めたが、敢えて危険を冒す必要もないので、帰り道に出会えば仕方ないということで、少しだけ遠回りして帰ることになる。

 ウンリケはリゼに魔法のことを質問したり、自論を聞かせていた。

 リゼにとっても貴重な話なので、真剣に耳を傾けていたことが、ウンリケの熱量を上げる結果となり、ウンリケの言葉が止まることは無かった。


「止まれ‼」


 戦闘を歩いていたハリソンが手を広げて、足を止めた。


「どうしたの? ……って」


 ウンリケが目の前の魔物に気付く。


「あれって……」

「あぁ、多分スタンプラントだろう。攻撃が当たれば一定時間、その部分が硬直する。動けなくなれば捕食される厄介な相手だ」

「気付かれていますか?」

「いいや、まだ大丈夫だ……このまま、戻って迂回するぞ」


 ハリソンの言葉に従い、慎重に後退する。

 安全な場所まで移動出来ると、ハリソンたちは呼吸を止めていたのか、一気に息を吐きだした。


「はぁ~、気付くの遅かったら危なかったな」

「本当ですよ。ウンリケが遠回りしたいと言わなければ……」

「私のせい? ……たしかに、そうね。ゴメン」

「冗談ですよ」


 緊迫した雰囲気が一気に緩む。

 実際、スタンプラントを討伐出来る確率は、このパーティーだと六割程度になる。

 しかし前衛のハリソンやリゼをスタンされれば、一気に攻撃力が落ちる。

 それは後衛のウンリケやコンラートがスタンされたとしても、回復が出来なくなったり、遠距離からの攻撃が出来なくなる。

 パーティーが不利になることは同じだ。

 勝てる確率が少ないのであれば、回避するのが冒険者として当たり前のことだ。

 無理をしないパーティーこそが、生存率を上げる。

 つまり優秀なパーティーだと思われている。


 スタンプラントと出会ってからは、他の上位種と出会う可能性もあるので慎重に行動をすることとなる。

 ただ、この地域にスタンプラントが生息していることは報告されていない。

 何も知らない冒険者がスタンプラントの犠牲になることもあるので、早く戻る必要があった。

 最短距離を警戒しながら移動して王都へと戻る。


 まず、クエストであるキラープラント討伐の報告をしてから、スタンプラントを発見したことを話す。

 詳しい場所などは分からないが、歩いた経路からおおよその位置を導き出す。

 ただ、他の場所にもいる可能性があるので、いずれ大人数での討伐クエストが発注されるのだと、コンラートがリゼたちに話していた。

 こうしたクエストでの報告こそが、日々の冒険者たちを救っていた。

 忘れずにホーンラビットを討伐した報酬も貰う。


 報酬は均等に四等分に分けて解散かと思ったが、ウンリケが慰労も兼ねて四人で食事をすることになった。

 道中と同じで話の中心はウンリケだった。

 それにハリソンが話を繋いだり反論したりして喧嘩のような雰囲気になると、コンラートが仲介していた。


「リゼは銀翼にはじゃないんだよね?」

「うん」

「入る予定は?」

「今の所、銀翼に限らず、クランに入る予定は無いかな」

「へぇ~、パーティーならいいってこと?」

「こら‼ リゼとは今回だけだとアンジュにも言われただろう」

「だって、この人材を逃すのは勿体ないよ」

「それは僕だってリゼのような冒険者と、今回限りってのか寂しいけど……約束は約束だよ」

「その……私としては機会があれば、別にいいですよ」

「本当‼」


 ウンリケは立ち上がると、リゼの両手を掴み上下に振って喜びを表現する。


「無理しなくてもいいから」


 喚起するウンリケとは逆に、リゼに気を使わせたことを申し訳なさそうな表情を浮かべるコンラート。

 コンラートとハリソンは同じことを思っていた。

 いずれ、リゼは銀翼に入るということだ。

 実力的にも申し分ないと思うし、戦い方次第では非常に重宝されることは間違いない。

 正直、リゼがパーティーに入ってくれるなら、喜んで迎え入れるつもりだ。

 同時に、将来性のあるリゼを自分たちのパーティーに止めておくことが良いのかとも考えていた。

 自分たちの実力が他の冒険者と比べて吐出していないこと。

 だからクランという形態を取らずにパーティーで活動している。

 長く冒険者を続けたいと思っている三人だが、強くなりたいことを諦めているわけではない。

 成長を諦めたら、他の冒険者から置いていかれることを知っている。

 だが、ハリソンとウンリケとなら一緒に成長して行けると信じていた。

 仲間とは背中を預けられる冒険者でないと駄目だと思っていた。

 それはパーティーだからという訳でなく、クランでも同じだ。

 戦ううえで背中を任せられないような信頼関係では、いずれ崩壊するとコンラートは考えていた。

 長く冒険者を続けるうえで、どうしても譲れないことでもあった。


「せっかく、リゼも俺たちに敬語を使わなくなったのに残念だな」

「完全では無いですが……」


 人見知りを直さないと、初対面や顔見知り程度の相手に対して、呼び捨てで名を呼んだ入りすることは横柄な態度だと誤解されるのでは? と、リゼは危惧していた。

 実際、戦闘に意識が向いている時は、自分でも敬語を使っていなかったかさえ覚えていない。


「それよりもアンデュスのこと、聞いたか?」

「なにそれ? アンデュスって、あの天才発明家のアンデュスのこと」


 ハリソンが話題を変える。


「そうそう、そのアンデュス。なんでもフォークオリア法国よりも先に通信魔法を実用レベルでの使用に成功したって噂だ」

「実用レベルって、言っても私たち冒険者には関係ないでしょう?」

「まぁ、ギルドは業務をスムーズに行えるから、すぐにでも採用する方向になるでしょうね」

「それを言ったら、金に物を言わせて貴族なども購入するだろう」

「それはどうですかね。通信魔法がどのような形で実用化されたにもよるでしょう。アイテムバッグのようであれば、私たちでもいずれは使用出来るかも知れませんが、使用する魔道具が大きければ、動かせないということですからね」

「たしかに。まぁ、遠方の人間と連絡とること自体が、そうそうないからな」

「えぇ~、そんなことないよ。故郷の友人や、両親たちの声が聞けるかも知れないじゃない」

「ウンリケの言うとおりですね。でも逆に犯罪の連絡網にも使用されると考えられるので、簡単には入手できないでしょうね」

「なるほどね~。もう難しい話は止めようよ」


 完全に酔っぱらっているウンリケは、少しだけ呂律の回っていなかった。



――――――――――――――――――――


■リゼの能力値

 『体力:三十六』

 『魔力:三十』

 『力:二十二』

 『防御:二十』

 『魔法力:二十一』

 『魔力耐性:十六』

 『敏捷:八十四』

 『回避:四十三』

 『魅力:二十一』

 『運:四十八』

 『万能能力値:零』


■メインクエスト

 ・敬える冒険者への弟子入り。期限:十四日

 ・報酬:戦術技術の向上、理解力の向上

■シークレットクエスト

 ・? 期限:?

 ・報酬:?

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