第179話
幸いにもホーンラビット以降は魔物との戦闘は無く、キラープラントを発見する。
明らかに違和感のある植物なので、森の中に居ても存在感を消せていない。
人間からの視点なので、魔物や動物には同じに見えているからこそ、捕食できるのだと思いながら、リゼは目の前のキラープラントを眺めていた。
大きさ的には大木なので、簡単に倒すことが出来ない。
火属性の魔法が使えれば簡単に倒せるのに……という思いだった。
「これを三体とは骨が折れるね」
コンラートがため息をつく。
「それだけ倒し甲斐があるってことだろう」
言い終わると同時にハリソンが突進する。
リゼも後に続くが、すぐにハリソンを追い抜いてしまう。
だが、ハリソンと視線が合うと意思疎通が出来たのか、そのままキラープラントを攻撃する。
リゼの攻撃でキラープラントは攻撃されたことに気付き、小枝を発射させて反撃に出た。
次に、地面から根を突き出して突進してくるハリソンを止めようとしている。
多重攻撃に怯みながらも、ハリソンが足を止めることは無かった。
その間にリゼは枝を出来るだけ切り、ハリソンが攻撃をしやすいようにする。
小太刀のリゼと違い、両刃剣のハリソンの方が一撃でキラープラントに与えるダメージが大きい。
枝を斬られても、急激に発達して斬られた枝を再生する。
だが、主となる幹は再生することが出来ない。
枝をリゼが、幹をハリソンが、と攻撃する箇所を決めていた。
闇雲に攻撃するわけでなく、攻撃対象を決めて攻撃をすることを事前に決めておく。
アンジュとジェイドとは、事前の決め事は無く、お互いに目の前の敵を倒すだけだった。
共通の敵を倒す時は、ジェイド主体なのが普通だった。
今回のように明確な作戦を立てて、討伐に挑むことがリゼにとっては新鮮に感じる。
ホーンラビットとの戦いを見たコンラートが提案した作戦だった。
最初は左右からリゼとハリソンが攻撃をして、その隙にウンリケが魔法でキラープラントを凍らせて動きを鈍らせる予定だったが、コンラートの提案にハリソンやウンリケも気になった点などを言いながら、意見を交わす。
事前に決めていた作戦からの変更だったが、問題無く対応出来たことに、リゼも胸を撫でおろした。
「凄いですね。その剣」
リゼはハリソンの武器を褒める。
「まぁな。俺の自慢の武器だ」
照れくさそうに武器をリゼに見せる。
「大金をつぎ込んで作ってもらった武器だ」
嬉しそうに笑みを浮かべる。
よほど、自分の武器を褒められたのが嬉しかったようだ。
その後も永遠と、武器について話すハリソンをウンリケとコンラートが無理やり止めた。
キラープラント同士は、近くで群生しない。
ターゲットに警戒される恐れがあるので、ある程度の距離を保っている。
その生態は分かっていないが、一キロ以上離れていることが冒険者たちの共通認識だった。
キラープラントの死体から魔核を取り出すと、すぐさま次のキラープラントを探すために移動する。
移動中、リゼは魔法を使った攻撃にしようかと悩んでいた。
使わなくてもキラープラントの討伐は可能だが、魔法を使えば今よりも簡単に討伐が出来るかも知れない。
ただ、気になるのは魔法を使うことに嫌悪感を抱く冒険者がいるということだった。
聞けば魔法を使うことを疑われるに決まっている。
だからと言って、仲間を危険に晒すような真似をしていいのか? リゼは葛藤していた。
「どうしたの?」
悩んでいるリゼに気付いたのか、ウンリケが声を掛けてきた。
「ちょっと……その」
リゼは言おうかと悩んだが、嫌悪感を抱かれれば仕方がないと思いながら、相談することを決めた。
「効率上げるために、魔法使ってもいいですか?」
「魔法?」
ウンリケが首を傾げるが、すぐにリゼの言葉の意味を理解する。
「盗賊なのに魔法が使えるの!」
興奮気味に話すウンリケは、リゼの瞳を覗き込むように顔を近付けた。
「ウンリケ、落ち着きなって」
ハリソンは「いつものことだ」と言わんばかりに、苦笑いしていた。
「リゼ、ごめんね。ウンリケは魔法のことになると見境が無くなるから」
「はぁ……」
「この情熱が頭に回れば、私も王都魔法研究所に入れたかもしれないのに」
ウンリケは一人芝居のように悔しがる。
「ようするに馬鹿だったってことだけだろう」
「ハリソン、うるさい‼」
「実際そうだろう。上級学習院にも進級できなかったんだから」
「うぅ~~~」
ウンリケはハリソンに反論できないのか、恨めしそうに睨んでいた。
「まぁまぁ、二人とも落ち着いて。話を戻そう……っで、リゼは盗賊だけど魔法も使えるってことだったよね」
「はい。魔法職で無い職業が魔法を使うことを嫌う冒険者がいることは知っています。ですから、事前に聞いておこうと思いましたが、嫌なら使うつもりはありません」
「ははは、確かにそういう冒険者がいることは事実だね。でも僕たちは気にしていないよ。どちらかと言えば肯定的なほうかな」
「そうよ。魔法は人類の神秘よ。まだ見ぬ世界があるのよ」
目を輝かせながら熱弁するウンリケに、ハリソンとコンラートは慣れているとはいえ、若干の恐怖を感じる。
「いずれは、魔法技術が発展しているフォークオリア法国に行くのが夢なの」
「そ、そうですか」
今のリゼにとって、フォークオリア報国の印象は良くない。
以前の襲撃が頭に残っているからだ。
だが、魔法師にとっては人気で、一度は行ってみたい国のようだ。
フォークオリア法国に行けば、魔法師として強くなれると巷で囁かれるいるからだろう。
「それで何属性の魔法なの⁈」
目を見開いて質問してくるウンリケに、リゼの恐怖が増す。
「闇属性です」
「闇属性‼」
さらに目を大きく開いて、声をあげて驚くウンリケの姿に、リゼも驚いていた。
「そ、それは又、珍しい魔法をお持ちで。えへ、えへへへ」
口調まで変わり口角をあげるウンリケは、明らかに変だとリゼは気付く。
「はいはい、ウンリケ。いい加減にしないと、リゼが怖がっているよ」
「あっ! ゴメンね。珍しい魔法だったから、我を忘れて興奮しちゃった」
「そうですか」
以前に冒険者から異常な魔法好きを”魔法オタク”と呼び、武器に異常な執着を持つ冒険者を”武器フェチ”と呼んでいる。
ウンリケは魔法オタクだった。
そして、ハリソンは隠れ武器フェチだった。
コンラートがリゼの魔法について、議論に戻す。
リゼはコンラートたちが危険に晒すことは、自分の本意で無いと伝える。
「全然、いいよ。むしろ、使ってくれた方が……ぐふふふ」
「俺も問題ない」
「僕もいいですが、戦闘前に使う魔法を教えて貰えると有難いですね」
嬉しそうな表情で承諾するウンリケに続いて、ハリソンとコンラートの了承してくれた。
が、リゼにはコンラートの質問に答えなくてはならなかった。
「シャドウバインドです」
「シャドウバインド?」
「シャ、シャ、シャ、シャドウバインド‼」
首を傾げるハリソンとコンラートとは違い、興奮したウンリケは目が血走り鼻息が荒かった。
「は、始めて見る魔法」
一人で盛り上がっていた。
その姿にリゼはもちろんだが、同じパーティーのコンラートとハリソンも引いていた……。
――――――――――――――――――――
■リゼの能力値
『体力:三十六』
『魔力:三十』
『力:二十二』
『防御:二十』
『魔法力:二十一』
『魔力耐性:十六』
『敏捷:八十四』
『回避:四十三』
『魅力:二十一』
『運:四十八』
『万能能力値:零』
■メインクエスト
・敬える冒険者への弟子入り。期限:十四日
・報酬:戦術技術の向上、理解力の向上
■シークレットクエスト
・? 期限:?
・報酬:?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます