第178話

 思っていたよりも簡単にクエストを達成することが出来た。

 これもアンジュとジェイドのおかげだった。

 二人と一緒にいることで、他の冒険者と少し話をするだけでも会話と認定をしてくれた。

 クエスト達成した数分後に、新しいクエストが表示された。

 それは『敬える冒険者への弟子入り。期限:十四日』『報酬(戦術技術の向上、理解力の向上)』

 報酬は魅力だったが、クエスト内容を見た時に頭に浮かんだのはクウガだった。

 逆にクウガ以外に師事できないと考えていた。

 それだけ、自分の中でクウガの存在が大きくなっていたのだと知る。


 今日はアンジュとジェイドから紹介された三人組のパーティーと一緒にクエストをする。

 剣士の”ハリソン”とジェイドは同郷だたっため、以前から知っていたことに加えて、中級魔導師の”ウンリケ”と回復魔術師の”コンラート”はアンジュの学習院時代の同級生だった。

 リゼの職業が盗賊だと知っていたので、一度でいいから一緒にクエストをして欲しいと頼まれていた。

 リゼと親交がないため、仲の良いアンジュとジェイドに仲介を頼んだ。

 アンジュとジェイドも、このパーティーのことは知っているので安心して頼まれて欲しいと、リゼに伝えていた。

 ジェイドが言うには、前衛がハリソンだけなので、魔物討伐に時間を要してしまうため、いろいろな職業の冒険者を試しながら、新しい仲間を探している途中らしい。

 女性はウンリケしかいないので、出来れば女性の冒険者の方が良いそうだ。

 当然、リゼが仲間になることは無いので、一時的な戦力としてクエストに参加することは、三人とも了承済みらしい。

 断る理由もないのでリゼは三人に合流するため、待ち合わせ場所の冒険者ギルド会館へと向かっていた。



「リーダーのコンラートです。無理を言ってすみませんでした」

「いいえ、構いません。お力になれるかは分かりませんので、あまり期待はしないで下さい」


 自分のことを過大評価されても困るので、リゼは謙遜気味に話をする。

 その後、コンラートからハリソンとウンリケを紹介される。


「今回のクエストですが、キラープラントの討伐です。討伐数に制限はありませんが、三体以上となります」

「キラープラントですか……生息地の絞り込みは出来ているんですか?」

「はい。被害状況から、ある程度まで絞り込みが出来ています。ただ、森なので火属性魔法は禁止となっています」


 キラープラントはオーリスにいた時に作業した魔核の仕分けや、魔物図鑑でしか見たことが無い。

 森の中ということであれば、火気厳禁なのも頷ける。

 コンラートからの説明で、ウンリケが使用する魔法は水属性の一種である氷魔法を得意としているので問題無いそうだが、植物系魔物との相性は良くはない。


「では、行きましょうか」

「はい」


 ある程度の説明を受けたリゼは討伐場所へと向かう。

 歩いている途中に、コンラートからジェイドの昔話を聞く。

 村でも正義感の強い子供だったらしく、年上だろうが自分が間違っていると思ったら、立ち向かっていくような子供だったそうだ。

 年齢はコンラートの方が一歳年下になり、いつも自分たちのような弱い子供を守ってくれていたと教えてくれた。

 コンラートの話に触発されたのか、ハリソンとウンリケも学習院時代のアンジュのことを教えてくれた。

 やはり”天才”だったという認識のようだ。

 どこか他人との壁を作っているようで、近付きにくい存在だったと話す。

 今思えば、自分たちや教師たちがアンジュのことを”天才”と特別な存在扱いしていたことが、アンジュにとっては不快だったのかも知れないと昔を振り返っていた。

 しかし、ある日から積極的に声を掛けられるようになったことに、同級生たちは驚いたと笑っていた。

 話し掛けられるのは、冒険者志望だった同級生に多かったので、アンジュが興味本位で聞いているのだと思っていたが、アンジュが冒険者になると知って、話し掛けられた冒険者たちは驚いていたと懐かしむ。


「月白兎のアントニーさんとも同級生ですよね?」

「えぇ、そうよ。アントニーとも面識があったのね。護衛の任務ばかりであまり王都に居ないから、学習院を卒業してから会ったのは数回だけどね」

「アントニー?」


 学習院でもクラスが分かれていたりするので、剣士のハリソンはアントニーのことを知らなかった。

 逆にクラスが違っていても、アンジュのことは知れ渡っていることを印象付けた。


「そろそろ森に入るけど、もう一度作戦を確認しておこう」


 二時間程歩いて、森に入る手前の安全な場所で作戦などを再確認する。

 基本的には、リゼとハリソンで攻撃をして、補助的にウンリケが魔法攻撃をする。

 敵を引き付ける役をリゼはかって出ていた。

 アンジュとジェイドからは「攻撃力などを考えてもハリソンよりもリゼの方が強いだろう」と、事前に聞いていた。


「途中に出会った魔物は、どうしますか?」

「出来るだけ体力は温存したいから、回避する方向で」

「分かりました」


 キラープラントと出会う前に魔物と会いたくないと、コンラートの顔に出ていた。

 森に入ると、コンラートの願いは無惨にも打ち砕かれた。

 ホーンラビットの集団と鉢合わせしてしまったのだ。その数、十匹以上。

 ハリソンが咄嗟に剣を抜いたことで、ホーンラビットも戦闘態勢に入っていた。


「わ、悪い」


 自分が剣を抜かなければ、ホーンラビットも逃走するかも知れなかったと感じたアリソンは剣を構えながら、申し訳なさそうに謝る。


「もう、遅いわよ」


 ウンリケも杖を前に出して、ホーンラビットから視線を外さないようにしていた。


「コンラートさん。戦ってもいいんですよね?」

「そうですね。こうなった以上、戦闘は避けられませんから」

「分かりました」


 リゼはコンラートから言質を取ると、一気に走り出してホーンラビットとの距離を縮める。

 素早いホーンラビットだったが、リゼの早さに対応するには遅かった。

 一匹、二匹、三匹と、リゼは小太刀でホーンラビットを倒していく。

 あまりの早さに、剣を構えていたハリソンはリゼの戦う姿を呆然と見ていた。

 それは後方にいたコンラートやウンリケも同じだった。

 リゼの他にも盗賊の冒険者と何度かパーティーを組んだことがある。

 しかし、他の前衛職も含めて、初めて衝撃を受ける戦い方だった。

 リゼに恐れて逃走を始めるホーンラビットたちだったが、混乱していたのか一矢報いようとしたのか、一匹のホーンラビットがハリソンに向かって行った。

 気付いたリゼだったが、ホーンラビットは既にハリソンの目の前まで迫っていた。

 ハリソンは慌てる様子も無く、向かって来たホーンラビットに剣を突き刺した。

 残っていたホーンラビット数匹を慎重に倒す。


「ハリソンさん、すみませんでした」


 ハリソンの所に戻ると、リゼはハリソンたちに頭を下げて謝罪する。


「いやいや、こっちこそ何も出来ずに……すみませんでした」


 リゼに釣られてか、なぜか敬語で答えるハリソンにコンラートとウンリケは笑う。


「リゼも別に謝ることないわよ」

「そうだよ、仲間だからね。それに敬語は不要で頼むね。俺たちが笑い死にしちゃうから」

「そうそう」


 コンラートとウンリケは、ハリソンの顔を見ると恥ずかしいのか、顔を赤らめていた。

 その後、仲間内での敬語禁止令が発動された。 



――――――――――――――――――――


■リゼの能力値

 『体力:三十六』

 『魔力:三十』

 『力:二十二』

 『防御:二十』

 『魔法力:二十一』

 『魔力耐性:十六』

 『敏捷:八十四』

 『回避:四十三』

 『魅力:二十一』(二増加)

 『運:四十八』(三増加)

 『万能能力値:零』


■メインクエスト

 ・敬える冒険者への弟子入り。期限:十四日

 ・報酬:戦術技術の向上、理解力の向上

■シークレットクエスト

 ・? 期限:?

 ・報酬:?

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