第162話

「有難う御座いました」


 三星飲食店巡りを終えたリゼは、アリスとアンジュに礼を言う。

 二人のおかげで今日だけで、多くの店を回ることが出来た。

 

(あと、二つ)


 思っていた以上に早く終わるかと思うと、リゼは嬉しかった。


「じゃあね、リゼちゃん」

「はい、お気をつけて」


 リゼを宿まで送ると、アリスとアンジュはリゼと別れた。


 宿で一人になると、リゼはアンバーとの戦いを思い出す。

 そして、又も人を傷付けられなかったことに情けなくなる。


(どうしたら……)


 解決方法が分からない。

 いや、分からないのであれば二足歩行の魔物を倒せばいい。

 何度も考えていることだった。


 アンバーとの戦いの疲れが溜まっていたのか、知らず知らずのうちにリゼは眠ってしまっていた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 翌朝、リゼは銀翼館に向かっていた。

 銀翼のメンバーがクエストに出立する日だからだ。

 世話になっているので、見送りくらいはすべきだと思っていた。


 銀翼館に向かう途中、対面から銀翼のメンバーが歩いて来た。

 すでに用意を終えていたようだ。

 向こうもリゼに気付いたようで、アリスが手を振っていた。

 その横にいたアンジュの視線にも、リゼは気付いていた。

 リゼは挨拶をして、一緒に門まで向かうことになる。

 昨日のお礼をもう一度、アリスとアンジュに言うと、アリスは笑顔を返す。

 アンジュの視線は相変わらずだった。

 銀翼のメンバー全員揃っていることに気付き、会話や雰囲気から本当に仲が良いのだと感じていた。

 そして、それだけ仲間として信頼しているのだと。

 自分には……。

 リゼ自身が他人との関係を気薄にしている。

 だが、羨ましい感情もあることに気付かない振りをしていた。



「気を付けて」

「ありがとう、リゼちゃん」


 心配する必要はないと思いながらも、リゼは言葉を口にしていた。

 とても難易度の高いクエストに向かうとは思えない陽気な表情で、銀翼のメンバーたちは出立して行った。

 リゼとアンジュ、ジェイドの三人は姿が見えなくなるまで、その場から動かなかった。


「リゼさん。今日の予定は、どんな感じっスか?」

「クエストを受注しようかと思っています」


 ジェイドの質問にリゼが答える。


「そうっすか。自分と特訓しないっスか?」

「特訓ですか?」

「そうっス」


 ジェイドからの予期せぬ誘いに戸惑うリゼだったが、断る気は無かった。

 自分が今よりも強くなれるのであれば、藁にも縋る気持ちだったからだ。


「宜しくお願いします」


 リゼはジェイドに頭を下げる。


「そんな畏まらなくても大丈夫っスよ。アンジュも暇だから付き合う?」

「失礼ね。私は忙しいのよ……でも、あなたたち二人だけだと心配だから、私が同行してあげてもいいわよ」

「アンジュも参加ってことで‼」

「ジェイド、私の話を聞いていたの!」


 ジェイドの言葉で、アンジュが一方的にジェイドに向かって文句を言っている。

 リゼは呆然と、その様子を見ているしかなかった。


「特訓って、何やるのよ?」

「リゼさんに自分を攻撃して貰うっス」

「はぁ?」


 ジェイドの返事に、アンジュは眉を顰めた。


「リゼさんは人を傷つけたことが無いから、攻撃を躊躇うんだと思うんすよ」


 ジェイドは自分なりにリゼの分析を話し始めた。

 そして、自分自身も最初の頃、同じような経験があり銀翼に入る前に、ローガンから同じように指導を受けたことを話した。


「それって……」

「そうっス。自分が一方的に殴られるっス」


 ジェイドは笑顔で話すが、ジェイドとローガンの話を以前に聞いていたアンジュは顔をしかめる。


「とりあえず、王都内だと面倒なので、王都から出て人気の無い場所で移動するっス」


 陽気なジェイドに、アンジュとリゼは着いていく。

 歩きながらアンジュがリゼに小声で「ジェイドは馬鹿だから、気を付けて」と忠告をしてくれた。

 しかし、リゼはジェイドは自分の気持ちに正直に生きている”素直な冒険者”という印象だった。

 街でも何人かの冒険者と挨拶を交わすジェイドとアンジュ。

 挨拶をしながらも視線を向けられていることに、リゼは気付いていた。

 銀翼のメンバーと行動を共にしていることで、リゼに興味を持っている冒険者が日に日に増えていることに、リゼも少しだけ気付き始めていた。


「あれあれ、銀翼の補欠二人組じゃないの」


 大人数で歩いていた冒険者の一人がジェイドたちに揶揄うように話し掛ける。


「これはこれは、強い冒険者に尻尾を振って御機嫌を取っている金狼のテルテードじゃない」

「はぁ‼」


 アンジュも負けじと喧嘩口調でテルテードに突っ掛かる。


「やめろ、馬鹿‼」


 後ろの冒険者がテルテードの頭を思いっきり叩く。


「アンジュにジェイド。うちの馬鹿が迷惑かけてすまない」

「馬鹿ってことは無いでしょう‼ 酷いですよ、マリックさん」


 明らかに他の冒険者とは違う雰囲気を出していた。


「いえいえ、テルテード如き相手にしていませんので、お気になさらずに」

「なんだっ‼」


 アンジュの言葉に怒ったテルテードだったが、言い終わる前にマリックの鉄拳で口を塞がれた。


「ふーん、君がリゼか」


 マリックの視線はアンジュの後ろにいたリゼに向けられていた。


「ちょっと試させてもらうね」


 言い終わると同時に殺気がリゼに向けられた。

 リゼはすぐに戦闘態勢になる。

 それはジェイドとアンジュも同様だった。


「なるほど、良い反応だね。うちのクランでも、ここまで即座に反応できる者は多くない」


 満足そうに一人で納得するマリック。

 後ろにいる金狼のメンバーたちは、ただ見ているだけだった。


「冗談が過ぎるんではありませんか?」


 殺気を向けられたアンジュが、マリックに詰め寄る。


「ゴメンね。噂の冒険者の実力が見たかっただけで他意はないよ。僕は川原でアンバーとの戦いを見られなかったからね」


 さっきとはうって変わって笑顔で話すマリックに、アンジュは不快感を感じながらも引き下がる。


「うちの連中にも、喧嘩するなとは言ってあるので安心していいよ」


 これはアンバーが負けたことで、今まで以上に銀翼やリゼに対して、ちょっかいを出す冒険者が増えることを危惧した金狼の措置なのだと、リゼたちは理解した。

 しかし、クウガがコウガに頼んだことも関係しているとは、リゼたちはもちろん、金狼のメンバーも知る由は無かった。

 去って行く金狼のメンバーたちを無視して、アンジュは歩き始めた。

 王都ではクラン同士のいざこざも日常茶飯事なのだと、改めて気付く。



――――――――――――――――――――


■リゼの能力値

 『体力:三十五』

 『魔力:十八』

 『力:二十二』

 『防御:二十』

 『魔法力:十一』

 『魔力耐性:十六』

 『敏捷:八十四』

 『回避:四十三』

 『魅力:十七』

 『運:四十三』

 『万能能力値:零』


■メインクエスト

 ・王都にある三星飲食店で十回食事をする。一店一回。期限:十二日

 ・報酬:魅力(二増加)、運(二増加)

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