第158話
――王都に来て四日が経った。
王都に来たばかりの冒険者が銀翼のメンバーと仲が良いこと。
しかも夜な夜な、三星飲食店で食事をしていることが噂になり始めていた。
実は銀翼に料理担当だとか、冒険者を引退した時のことを考えて飲食店の準備をしているなそ信憑性のない噂ばかりだった。
今日はアリスとアンジュに三星飲食店での食事や、王都のお気に入りの店などを案内して貰う日だ。
忙しいと思いアリスやアンジュとの接触を避けていたリゼだったが、アンジュがアリスたちの準備が整ったので、今日は自由行動になるとのことで誘われた。
リセが同意しないと、自分もアリスとの自由行動が出来ないので、アンジュはリゼに断ることが出来ないような説得をして同意を得た。
「お待たせ、リゼちゃん」
待ち合わせ場所に現れたアリスに、アンジュは寄り添うように隣にいた。
「私も今、来たところです」
リゼも挨拶を返す。
「どこか行きたいところ……三星飲食店だったわよね」
「はい」
「じゃあ、行ったことのない店の方がいいわね」
「はい、出来れば……ですが」
「大丈夫よ。私に任せておきなさい」
アリスはリゼに入った店を聞くと、なかなか行き辛いような三星飲食店を選定する。
近くにある店などにも寄っていくと一瞬で、今日の予定を決定した。
「じゃあ、行きましょうか」
「はい」
アリスの後を追うように歩き始めるリゼ。
「リゼは、なんで三星飲食店での食事に拘っているの?」
アンジュがリゼに質問をする。
リゼも「自分のスキルでクエスト達成を目指している」とは、口に出来ない。
「いつ食べられるか分からないので、今のうちに食べておこうと思って……」
無難な回答をして、アンジュの質問を回避しようとした。
「へぇ~、そうなんだ。三星飲食店なんて、王都にいれば食べる機会は幾らでもあるわよ」
「そうなんですね」
リゼはクエストでなければ、自分から進んで三星飲食店には足を運ばないと思っていた。
「明日、王都を出立するんですよね?」
「えぇ、そうよ」
リゼは話題を変えた。
「討伐場所まで五日くらいだから状況次第だけど、早ければ十五日もすれば王都に戻って来ると思うわよ」
「難しい……危険なクエストなんですか?」
「そんなことは無いわよ。何度か指名クエストを貰っている領主からの紹介なんだけど――」
アリスは今回のクエスト内容を教えてくれた。
紹介された領主の山にあるに洞窟に、コカトリスの
しかも、出産間近なので気が立っていて、近くの町や村に被害が出ているそうだ。
地元の冒険者などが討伐に向かったが、未だに討伐出来ないでいた。
領主は紹介された領主に面識のある銀翼を紹介した。
それが、今回の指名された理由だった。
しかし、王都を拠点に活動している銀翼に頼ることをよく思わない冒険者もいた。
領主も領地内で活動する冒険者たちと争うつもりはないので、最後にもう一度だけ討伐をする決断をしたので、当初よりも予定が遅れていた。
王都内には案内役の冒険者が滞在しているので直接、討伐場所までの移動となる。
「アリスお姉様たちでしたら、瞬殺ですわ」
アリスの返答に、アンジュが茶化すように発言をする。
「まぁ、出来るだけ傷をつけないでの討伐を希望されているから、ちょっと面倒臭いかしらね。まぁ、卵を産んでからの討伐なので、案外時間が掛かるかも知れないわね」
コカトリスの肉や皮、羽根などは貴重な素材だ。
ましてや、コカトリスの卵であれば、欲しい商人は山ほどいる。
領主としても、コカトリスの素材で一儲けしようと考えているのだろう。
ただ魔物を討伐すれば良いという訳でなく、それ以上の要求を求められている。
追加報酬があるとはいえ、危険と秤にかけて戦闘中に状況判断をする必要があるのだと、リゼはアリスの話を聞いていた。
「素材に傷をつけないことが前提だと、魔術師である私やササ爺は活躍できないから、サポートに徹するって感じね」
大型魔物の場合、広範囲での魔法攻撃でダメージを与えていく。
しかし、肉体への損傷も激しい。
その分、肉弾戦であれば必要最低限での攻撃も可能だ。
動き回る魔物に、必要最低限の単発で狙った場所に魔法攻撃を当てることは、上級魔術師でも至難の業だ。
「まぁ、ローガンやミランが、その分張り切っているけどね」
アリスは笑って話を終えた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「どう、美味しかった?」
「はい、ありがとうございます」
アリスは「出来るだけ多くの三星飲食店を巡りたい」という、リゼの要望通りに三星飲食店を五店はしごして、軽食やデザートなどをメインに食べていたので、程よい満腹感で満たされていた。
アリスとの食事が余程嬉しかったのか、アンジュは上機嫌だった。
リゼに対しても、他人行儀なことを嫌い、何度も敬称をつけない呼び名で呼ぶように注意をする。
「アンジュが、リゼちゃんの王都で最初の友達なのかな?」
「友達かは分かりませんが、仲良くなったという意味では最初の人です」
「友達よ!」
アリスの言葉に戸惑いながら答えたリゼだったが、アンジュから訂正された。
友達という概念がリゼには分からなかった。
母親と暮らした村でも、村の子供たちと仲良く遊んだ記憶は無い。
ましてや、父親との生活では――。
唯一、心を許していた使用人は友人というよりも姉妹のような感じだった。
理由のない暴力に、意味のない嫌がらせ……同じ境遇を共に過ごしただけ……。
リゼが友達について考えていると、人だかりが出来ていた。
そして、人だかりの向こうから大きな声が聞こえてくる。
「あの馬鹿……」
聞き覚えのある声に頭を抱えるアリス。
隣にいたアンジュも苦笑いしていた。
「ちょっと、ゴメンね」
アリスは人混みをかき分けながら、声のする方へと進んでいく。
アンジュとリゼもアリスの後に続く。
見ていた人々も近付けないのか、声の主たちから距離を取っていた。
「クウガさん!」
声の主はクウガだった。
そのクウガと対面するように立っている男性がいる。
その風貌からも、一介の冒険者ではないことをリゼは感じ取っていた。
「クウガにコウガ、いい加減にしなさい。町の人たちが迷惑しているでしょう‼」
アリスが怒りながら二人に近づいていく。
「おぉ、アリス‼ 相変わらず、今日も綺麗だね」
アリスの登場に鼻の下を伸ばすコウガ。
その言葉を聞くと同時に、アンジュがアリスとコウガの間に立って、コウガを睨んでいた。
「アンジュ。そんなに睨むなって」
いつものことなのか、睨むアンジュを気にする様子もなく冗談口調で話す。
「そんなことより、道の真ん中で何をしているのよ‼」
「いや、それはだな――」
クウガとコウガがアリスへ説明を始めるが、お互いが相手の方が悪いという言い分だった。
「アンジュさん。あのコウガっていう冒険者は有名なんですか?」
リゼはコウガについてアンジュに尋ねる。
「コウガは金狼っていうクランのリーダーよ。クウガさんとは似た者同士なのか、顔を合わせれば喧嘩ばかりしているのよ。それに、こともあろうかアリスお姉様を口説く不届き者よ!」
話す口調が徐々に強くなっていく。
「あっ、それと私を呼ぶときはアンジュよ」
付け加えるように、リゼに自分の呼び方を注意する。
「あっ、はい。すみません」
「別に謝らなくてもいいわよ」
咄嗟に謝罪するリゼに悪いと思ったのか、アンジュは笑顔を返す。
――――――――――――――――――――
■リゼの能力値
『体力:三十五』
『魔力:十八』
『力:二十二』
『防御:二十』
『魔法力:十一』
『魔力耐性:十六』
『敏捷:八十四』
『回避:四十三』
『魅力:十七』
『運:四十三』
『万能能力値:零』
■メインクエスト
・王都にある三星飲食店で十回食事をする。一店一回。期限:十二日
・報酬:魅力(二増加)、運(二増加)
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