第157話
「どうなるだろうね」
「さぁな」
アルベルトが独り言のように話すと、隣にいたクウガも同じような感じで答えた。
「もし、リゼちゃんが無茶してゴブリンやオークの討伐したら、どうするのよ!」
後ろにいたアリスがリゼのことで、どうでもいいよな会話をしていた二人に憤慨していた。
「冒険者は自己責任だ。これから、どうするかを決めるのは俺たちじゃない、リゼ自身だ」
クウガはリゼを突き放すような発言をする。
「そうだけど……そうだ、アンジュ!」
正論を口にするクウガに口ごもるアリスだったが、なにか思いついたのか隣にいたアンジュの顔を見る。
「なんですか、アリスお姉様」
「私たちが王都に居ない間、リゼちゃんが困っていたら助けてあげてね」
「……なんでですか」
自分以外のことを可愛がるアリスに、アンジュは不機嫌になる。
「知り合いが誰もいない王都での活動は不安だろうし、アンジュほど信頼できる優秀な冒険者だったら、私も安心できるしね」
「もう、アリスお姉様ったら」
信頼できる優秀な冒険者と言われて、嬉しさが止まらないアンジュ。
「このアンジュに、お任せ下さい。リゼの安全は銀翼の留守を預かる私とジェイドがお約束致します」
「俺もっスか!」
突然、名前を出されたジェイドは驚いていたが、ローガンに肩を叩かれる。
ローガンの顔を見ると、ジェイドは黙って頷いた。
「あんまり、リゼに干渉するなよ。悪目立ちして、リゼの立場が悪くなるからな」
「そうだね、クウガの言うとおりだ」
「大丈夫です、任せといて下さい」
「そうっスよ」
クウガとアルベルトの心配をよそに、アンジュとジェイドは誇らしげに答えた。
ともに尊敬する冒険者から任されたという意識が強かったからだ。
アンジュはアリスが、ジェイドはローガンがほぼ同時期に銀翼に連れて来た。
だから、どちらが先輩だということが無い。
リゼはギルドメンバーではないが、後輩のような感じだった。
銀翼館に残っている間も、アンジュとジェイドの二人はギルドでの仕事に加えて、自分たちでクエストも受注している。
決して暇な時間などないのだ。
二人とも尊敬する冒険者に少しでも近付きたいと、日々精進していた。
結果を残せなければ、それまでにどれだけ努力をしても意味が無いことを知っている。
王都でも名が知れている冒険者の二人だったが、自分で考えるにも限界があった。
アリスとローガンは、二人がリゼの世話をすることで新しい発見をして、さらに成長できるだろうと考えていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「これくらいかな」
王都に来て三日が経った。
リゼはケアリル草の採取クエストをしていた。
三星飲食店で食事をしたのは、二回。
夕食は必ず三星飲食店で取るように決めていた。
昼から営業している店も何店かあったが、クエストを受注していると、三星飲食店で昼食を食べるのは難しいことに気付いた。
もう一つの悩みが食事の値段が高いことだ。
リゼの感覚からすれば、三星飲食店の一食分で二日から三日は暮らせる。
美味しさについても、リゼには値段相当とは感じられない。
高級食材を使用しているから高いのだと思いながら、食事をしていたのだ。
無駄に通貨を使わなければいけないことに、リゼは深いため息をつかずにはいられなかった。
アリスと町の散策なども予定していたが、クエストの準備に追われて忙しいだろうと思ったリゼは、アリスや銀翼のメンバーに迷惑をかけると感じて、出来るだけ銀翼館には近寄らないようにしていた。
(逃げているのかな?)
立ち上がり空を見上げて考える。
ついこの間まで、討伐クエストを待ち望んでいた。
オーリスでは討伐クエストを受注するのも難しかったが、ここ王都では多くの討伐クエストがある。
当然、選り好みしなければ討伐クエストを受注できないようなことは無い。
だが、リゼはクエストボードから採取クエストだけを受注していた。
採取クエストを受注したからと言って、馬鹿にする冒険者は殆どいない。
誰もが採取クエストの重要性を知っていたからだ。
王都に来たばかりの冒険者のなかには、採取クエストを馬鹿にする発言をする冒険者もいる。
しかし、そういった冒険者は他の冒険者たちから嫌悪感を抱かれることとなる。
地区により冒険者ギルドの特色があるので、そういった冒険者たちは自然と同じような冒険者が集まる地区へと移動していく。
(人型の魔物か……)
二足歩行する魔物のことを”人型”と呼ぶ。
リゼは魔物図鑑で見た人型の魔物を思い出しながら、王都へと戻る道を歩き始めた。
(ゴブリンにオーク、コボルト……)
その時、草むらから物音が聞こえた。
すぐに振り返り、小太刀に手を当てる。
緊張した時間が続く――。
草むらから、野兎が飛び出してきた。
(兎か……)
リゼは安心して緊張を解こうとするが、野兎に違和感を感じていた。
目は血走り、口からは泡のようなものが見える。
(……毒に侵されている⁈)
リゼは素早く戦闘態勢をとった。
野兎が間違えて毒草を口にすることは殆どないので、罠の食べ物を口にしたか……いや、野兎を食料として捕獲するのであれば、毒の入った食べ物を罠に仕掛けることは無い。
他の動物からの攻撃……しかも外傷はない。
(あっ!)
リゼは風向きを確認して、この場から立ち去らなければ、自分も野兎と同じ毒に侵されると気付き、風上を確認しながら足早に、その場を立ち去った。
立ち去る途中で冒険者パーティーとすれ違う。
リゼは軽く頭を下げて挨拶をして、そのまま立ち去ろうとする。
「ちょっと、いいか?」
冒険者の一人がリゼに声を掛ける。
リゼも無視は出来ないと足を止めて、冒険者たちの方を向く。
四人とも始めて見る冒険者たちだった。
「この先から来たってことは、ゾリラーテルを見ていないか?」
「ゾリラーテルですか?」
ゾリラーテルとは一メートルにも満たない体長の魔物だが、とても凶暴で毛と尾を逆立て威嚇したり、肛門腺から臭い液体を敵の顔めがけて発射することや、死んだふりをして寄っていいたところを攻撃したりするなどの姑息な攻撃もする。
リゼの走って来た方向から遭遇していないかを聞いたようだった。
「ゾリラーテルには遭遇していませんが、毒に侵されていたような野兎はいました。私は危険を感じて、その場から立ち去ったところです」
リゼは自分の状況や、野兎の特徴などを冒険者たちに教える。
「間違いなくゾリラーテルだな」
「えぇ、麓近くまで来ているという報告は本当のようね」
彼らはゾリラーテルの調査と討伐のクエストをしている最中だと教えてくれる。
リゼに礼を言って、彼らはリゼが野兎を発見した場所へと向かって行った。
ゾリラーテルが持っている毒の性質を知っているからか、特に警戒する様子も無かったことにリゼは驚いていた。
自分の知らないことがあることを痛感したリゼは、知識を得る必要があると改めて感じていた。
――――――――――――――――――――
■リゼの能力値
『体力:三十五』
『魔力:十八』
『力:二十二』
『防御:二十』
『魔法力:十一』
『魔力耐性:十六』
『敏捷:八十四』
『回避:四十三』
『魅力:十七』
『運:四十三』
『万能能力値:零』
■メインクエスト
・王都にある三星飲食店で十回食事をする。一店一回。期限:十二日
・報酬:魅力(二増加)、運(二増加)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます