第155話
「本当にもう!」
銀翼館でラスティアがメンバーに向かって呆れていた。
昨晩のリゼを交えた夕食会でエールを飲み過ぎたササジールとローガンは、二日酔いで頭を押さえていた。
珍しくアルベルトとクウガ、アリスも酒が残っているのか、いつもの覇気が無かった。
「皆さん、水っス」
ジェイドが二日酔いのメンバーに水を配っていた。
アンジュはアリスの介抱をするかのように、アリスの側にいる。
「はぁ、こんな状態だと準備も、ままならないですね。今日の準備は止めにして、リゼさんが到着したら、アンジュとジェイドとの模擬戦をするために移動しましょうか」
「そうだね」
アルベルトが申し訳なさそうに答える。
アリスはリゼと町を散策するつもりだったので、少し残念そうだったが反論する気力は無かった。
アンジュとジェイドにとっても、久しぶりの対人戦になるので気合が入っていた。
「おはようございます」
リゼが挨拶をして銀翼館に顔を出した。
銀翼のメンバーたちは、口々に挨拶を返す。
「リゼさんも来たことですし、移動しますか」
「そうだね」
酒が残っている他のメンバーは頼りにならないのか、この場はラスティアが仕切っていた。
「どこに移動するのですか?」
リゼは移動先を聞いていなかったので、ラスティアに質問をする。
「冒険者ギルド会館の地下にある訓練場でもいいですし、王都から離れた草原でも構いませんが……今の王都の状況だと、王都からクエストもないのに出るのは、あまり良くないですね」
「そうだね。それに昨晩、僕が冒険者ギルド会館に顔を出して、今日一日は地下訓練場を借りたから、地下訓練場でいいよ」
「そう言うことは早く言って下さい」
「ゴメンね。言うのを忘れていたよ」
悩んでいたラスティアが、アルベルトに文句を言うと、アルベルトは自分の非を認めてラスティアに詫びた。
「じゃあ、行こうか」
アルベルトの言葉で座っていたメンバーは立ち上がる。
そして、冒険者ギルド会館の地下訓練場へと移動を開始した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
銀翼館から冒険者ギルド会館への道中や、冒険者ギルド会館内でリゼは注目の的だった。
見慣れない冒険者が銀翼のメンバーと歩いている。
誰もが新しい銀翼のメンバーだと勘違いをする。
なにより、リゼの容姿……いや、髪色が銀色のため、銀翼のマスコットでは無いかという話もされていた。
冒険者ギルド会館内で、アルベルトが地下訓練場の手続きをしている間、人々たちの視線がリゼは自分に向けられていることに気付いていたので、視線を落として無言で立っていた。
「そんなに緊張しなくても、大丈夫ですよ」
リゼの横を歩いているラスティアが、不安そうな表情で歩くリゼに声を掛ける。
「その……私が一緒で迷惑を掛けていないかと思うと――」
「大丈夫ですよ。人は噂好きですから、新しい話題があれば、すぐに興味を無くします」
「そうなんですか?」
「噂なんて、そんなものですよ。下ばかり見ていると、本当に見なくてはいけない景色さえ、見落とすことも考えられます。だから前を向いて、視野を広く持つようにしなさい」
「はい」
リゼが返事をすると、ラスティアは優しく微笑む。
手続きを終えたアルベルトが戻って来たので、リゼたちは奥にある階段を下りて、地下訓練場へと移動する。
地下訓練場はオーリスで学習院との交流戦で使用した会場よりも一回り小さい。
観覧する場所が無く、砂がまかれている地面と周囲にある腰辺りまでしかない木の柵。
リゼの感覚では、もっと小さく感じていた。
王都を守る外壁にも使用されている”魔法障壁”が戦う場所の周囲に張られている。
どんな魔法を使用しても外部への影響はないし、物理攻撃の影響も外部へは軽減される。
クラン内で実力を確認するために戦ったりすることに使われることが多い。
稀にクラン同士の揉め事があった際は、ここで戦うこともあるが殆どは話し合いで解決される。
武力行使に出ても、お互いにメリットが無いからだ。
「アリスとリゼは準備しろ」
危ないと判断したら、途中で止められるように、クウガとアルベルト、アリスの三人が魔法障壁内に入って待機する。
「私はいつでも大丈夫です」
自分の背丈くらいある杖を華麗に回しながらアンジュは答える。
「私も……大丈夫です」
リゼもアンジュに続くように小さく答えた。
「両者、中央へ」
アルベルトが審判も兼ねて、二人を訓練場中央へと誘導する。
「道具の使用は禁止。僕とクウガ、アリスの誰かが危ないと判断したら、すぐに止めるから」
「はい」
「分かりました」
注意事項などをアルベルトから聞いて、了承したことをアンジュとリゼは伝える。
リゼとアンジュは、お互いに距離を取る為、少し離れる。
そして、アルベルトの掛け声で、リゼとアンジュの戦いが始まった。
リゼは様子を見るため、自分から仕掛けることはしなかった。
一方のアンジュは開始早々、リゼが距離を詰めて来ると思っていたので拍子抜けをしていたが、すぐに気持ちを切り替えて、魔法詠唱を唱える。
短い魔法詠唱を唱え終えたアンジュは視線先のリゼに向けて叫んだ。
「
アンジュが右手をリゼの方に向けると、礫のような炎が何発もリゼに放たれた。
リゼは冷静に”フレイムバレット”を回避する。
(へぇ~、あれを全部避けるんだ。盗賊だけあって敏捷は、かなり高いようね)
リゼの動きに感心していたアンジュ。
アンジュの放った”フレイムバレット”を回避終える。
リゼはアンジュを見ると、既に次の魔法を放とうと魔法詠唱を終えるところだった。
「囲め”フレイムサークル”」
アンジュが魔法名を言い終えると、リゼの周囲を囲うように火柱が上がり壁へと変化した。
(……どうしよう、逃げ場がない。アンジュさんが次の魔法攻撃を仕掛けてくれば、私の負けだ)
何も出来ずに、このまま負けてしまうことに情けなくなるリゼだったが、「まだ、負けていない」と考えを改めて反撃するチャンスを伺う。
(魔法詠唱を唱えられないように、攻撃をすれば!)
炎の壁に視界が遮られている間にステータスを開き、万能能力値:六を全部”敏捷”に振る。
自分の周囲にある炎の壁”フレイムサークル”は、足止めをする魔法なので、持続時間は長くない。
(攻撃力が大きい魔法を仕掛けてくるはず)
”フレイムサークル”の魔法が消えて、次の魔法攻撃が繰り出される前、リゼは一気にアンジュとの距離を詰めようと考える。
(呆気ないわね。私の買いかぶりだったようね)
アンジュは魔法詠唱を唱えながら考えていた。
魔法師は近接攻撃に弱い。
だからこそ、リゼの職業が盗賊なのでアンジュも距離を詰められると考えて対策をしていた。
しかし、リゼは距離を詰めるどころか、自分が有利になる距離で様子を見ていた。
この機を逃さないとアンジュは一気に勝負を決めようとしていたのだ。
アンジュはリゼの上空を指差す。
指の先には大きな炎の塊が浮かんでいた。
「爆ぜよ”フレイムバースト”‼」
アンジュが指を下に下ろすと、炎の塊はリゼ目掛けて落下してきた。
その様子にアリスとアルベルトが身構える。
しかし、クウガだけは助けようとする体制を取らずにいた。
炎の壁から一瞬だけ見えたリゼの目が諦めていないと感じたからだ。
リゼに”フレイムバースト”が直撃する前に、”フレイムサークル”が消える。
消えたと同時にリゼは全力でアンジュとの距離を詰める。
(えっ、この早さは何よ!)
焦るアンジュの表情を見て、リゼは次の魔法攻撃が無いと確信してアンジュに小太刀を当てようと考える。
(手前で止めればいいんだ)
リゼは何度も自分に言い聞かせて、後退するアンジュに小太刀を突きつけようとした。
「残念だったわね。貫け”ファイアニードル”」
アンジュが勝利を確信したように笑うと、攻撃態勢に入っていたリゼの足元から炎の針が無数飛び出して、リゼの体を貫いた。
リゼは熱さと痛みで意識を失い、その場に倒れるようとするリゼをアルベルトが抱えた。
「勝者はアンジュだね」
アルベルトがアンジュの名を口にすると、アンジュは嬉しそうだった。
「アリス御姉様。私の戦いぶりは、どうでしたか?」
アンジュはアリスの所へと嬉しそうに走って行く。
「いい戦いだったわよ」
アリスはアンジュを褒める。
「考察は後でね」
「はい、アリスお姉様」
褒められてにやけるアンジュはアリスの横で、ラスティアがリゼの治療をする様子を見ていた。
――――――――――――――――――――
■リゼの能力値
『体力:三十五』
『魔力:十八』
『力:二十二』
『防御:二十』
『魔法力:十一』
『魔力耐性:十六』
『敏捷:八十四』(六増加)
『回避:四十三』
『魅力:十七』
『運:四十三』
『万能能力値:零』(六減少)
■メインクエスト
・王都にある三星飲食店で十回食事をする。一店一回。期限:十二日
・報酬:魅力(二増加)、運(二増加)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます