第153話

「だから、いらないって」

「でもそういう訳には……」


 スクンフトに支払った情報料について、リゼとアンジュは押し問答を続けていた。

 アンジュ的には貧乏人のリゼから貰うことは出来ないし、貰ったことをアリスに知られれば軽蔑されかねないので、絶対に貰う訳にはいかなかった。

 リゼも自分のために通貨を支払ったことをしっているので、申し訳ない気持ちもあり支払うことを曲げるつもりはなかった。

 リゼとアンジュは自覚が無いが、頑固者だったのだ。

 結局、案内を任されたアンジュなので、これも案内のうちだということで無理やりリゼを納得させた。

 文句や苦情は、戻ってからアリスに言うという条件付きでだ。


「あの銀翼館って……」


 リゼはスクンフトが発した”銀翼館”という言葉について、アンジュに質問をする。


「あぁ、私たちの所有している建物を街の人たちは、銀翼館って呼んでいるのよ」

「そうなんですね」


 銀翼館という響きが良いと思い今後、自分も使う機会があれば使おうとリゼが思う。

 アンジュは王都の地区について説明をする。

 一番治安の悪いのは西地区になる。

 一般的にいうスラム街にあたる地区で、無法者などが多く集まる地区だ。

 世に出ていないだけで、日常的に事件が発生して何人もが死んでいると教えてくれた。

 冒険者ギルド会館は存在しているが、商業ギルドや生産者ギルドのギルド会館は西地区にはない。

 何故なら西地区で商売する者は商業ギルドに属さずに闇で商売している者が多いからだ。

 冒険者ギルドにあるクエストも西地区の清掃などが多い。

 そもそもクエストを受注する冒険者が少ないため、ギルドとして機能していない。

 用事が無ければ近付かない方が良いと、アンジュはリゼに忠告する。


 反対に治安が良いのは北地区と東地区になる。

 北地区は衛兵などが訓練する場所が多く点在している。

 荷物運搬や定期運航の馬車もこの地区で管理されている。

 生産者なども多く滞在しているが、観光す場所も少ない地区だ。

 リゼが最初に下りた場所も北地区だった。


 東地区は高級な物を扱っている地区だけあって、建物や物価の価格も他の地区と比べて格段に上だ。

 東地区に住居を構えることは、一種のステータスにもなっている。

 その反面、事業などで失敗したりすれば維持できないので、速攻で退去することになる。

 スクンフトに教えて貰った各地区の四つの宿屋だが、東地区の宿屋は南地区の三倍以上の宿泊代になる。

 反対に西地区は南地区の三分の二程度で泊まることが出来る。

 南地区は冒険者が多く集まる地区で、他の地区に比べてクエストも多く、宿屋や飲食店も多い。

 総合的なことを踏まえて、アンジュはリゼに南地区の客亭スドールを勧めた。

 リゼもアンジュに従うつもりだった。


「ここよ」


 青い大きな建物の前でアンジュが立ち止まる。

 目の前の建物が客亭スドールだとリゼにも分かる。

 大きな看板が目に入ったからだ。

 アンジュが扉を開けると、リゼの知っている宿とは雰囲気が違っていた。

 数脚の椅子と、四個ほど設置された机。

 冒険者ギルドのようなカウンターがあり、カウンターには受付の人が笑顔で迎えてくれていた。


「いらっしゃいませ」


 受付にいた二人が声を合わせる。


「一人部屋だけど空いている?」

「少々、御待ち下さい――はい、今日明日であれば、二階が空いております。それ以降ですと、四階になりますがどうされますか?」

「四階か……」


 四階と聞いてアンジュの表情が曇る。

 一番安い部屋は二階になる。

 次に三階、四階と値段が上がる。

 四階に泊まる宿泊代であれば、別の宿屋を探した方が安くなることがあるからだ。


「ちなみに二階の部屋が空くのはいつからなの?」

「そうですね……五日後になりますが確定ではありません」

「料金表を見せて貰える?」

「はい、こちらになります」


 料金表を渡されたアンジュは、リゼに見せる。


(えっ!)


 料金表の宿泊代を見て、リゼは驚いていた。


(素泊まり一泊で、銀貨四枚! しかも、四階だと銀貨五枚って!)


 オーリスで泊まっていた兎の宿の二倍も宿泊代……しかも食事無し。

 リゼの脳裏に「王都の冒険者ギルド報酬は一体いくらなのか?」と疑問が浮かんだ。

 王都と地方では報酬の金額が違うという概念が、リゼには無かったからだ。


「どうされますか?」

「二階で御願いします。二階が空いたらすぐに移動したいと思いますので、御願い出来ますか?」


 リゼは何回も宿屋を移動することよりも、同じ宿屋での生活を選択する。

 アンジュは即決したリゼに驚いていたが、自分が口を挟む問題では無いので静観することにした。


「はい、かしこまりました。何泊されますか?」

「十泊で御願いします」

「十泊ですね。延長する場合は三日前までにお願いします。それ以降は無効になりますので注意して下さい」

「はい、分かりました」

「詳しいことはこちらをお読みください。冒険者の方であれば、冒険者プレートを拝拝見しても宜しいでしょうか?」


 リゼは受付の人に冒険者プレートを見せる。


「冒険者会ランクBのリゼ様ですね」


 宿泊者の名前を記入していた。

 その間、リゼは宿泊する際の規約を呼んでいた。

 特に注意することは無く、外出する際は部屋の鍵を必ず受付に返すことと、先程言われた延長する際の期日だけを守れば良いと、リゼは三階ほど心の中で繰り返した。



「次は冒険者ギルド会館でいい?」

「はい、御願いします」


 客亭スドールを出たリゼとアンジュは冒険者ギルド会館へと向かう。

 歩いていると、何人かの冒険者や商売人からアンジュは声を掛けられていた。

 見知らぬ冒険者のリゼに誰もが興味を持っていた。

 銀翼のメンバーであるアンジュが王都の案内をしているので、銀翼の新しいメンバーか、アンジュの友人なのかなどを、短い間で同じような質問を何度もされていた。

 その間、リゼは言葉を発せずに頷いたりするだけだった。

 それは冒険者ギルド会館に到着しても変わらなかった。

 リゼの容姿から、銀翼のマスコットと勘違いされたが、アンジュが全力で否定をしていた。

 リゼが「可愛い」などの誉め言葉を掛けられるたびに、アンジュは必要以上に否定をする。

 アンジュのリゼへの嫉妬心だった。

 声を掛けて来る人々の気持ちと、愛しく尊敬をしてやまないアリスとを重ねてしまっていたのだ。


 リゼは改めてギルド会館を見渡す。

 とても大きく、クエストボードも”討伐”、”調査”、”採取”、”その他”と別れていた。

 クエストボードには紙が残っていたので、一番貼ってある枚数が少ない討伐のクエストボードで、クエスト内容を確認してみる。


(報酬が銀貨十二枚……でも、この魔物って)


 報酬は高いが、その分難易度も高かった。


(あれ?)


 リゼの目が一枚のクエスト用紙で止まる。


(種類を問わずスライム三十匹以上で上限が六十匹か。達成報酬は……)


 討伐したスライムによって報酬が異なるようだった。

 スライムで銅貨五枚、ポイズンスライムで銀貨一枚とスライムごとの報酬が記載されていた。


(オーリスより報酬が安い‼)


 最初に討伐クエストをした時には、スライム三匹で銀貨九枚だった。

 しかし、これは期限が三日もあり討伐場所も遠かったからだ。

 王都の場合は、王都付近でスライム討伐が出来る。

 そのため報酬も安くなっていたのだ。

 他のクエストも期限が短く、報酬もオーリスに比べて低い。


(これだと生活が出来ないんじゃ……)


 リゼは宿泊代と食事代などを頭の中で計算するが、どうしても生活をするだけ通貨を稼ぐことが出来ないことを知る。

 これには王都の冒険者ギルド状況が関係していた。

 緊急時を除き、王都から近い場所だと、優先的に王都の冒険者ギルドから発注される。

 数日間受注する冒険者がいなかった場合、他の地域にクエストが回る。

 理由は一つ。冒険者の数の違いだ。

 町の冒険者の数と王都の冒険者の数とではかなり差がある為、町の冒険者ギルドににクエストを回しても、なかなか受注されずに王都に戻って来る事がある。

 そのため、まずは王都近隣のクエストであれば、王都でクエストを発注する仕組みになっていた。

 それにリゼには酷な話だが、単独ソロの冒険者は王都ではいないに等しい。

 それは町以上に王都では数や強さが幅を利かせているからだ。

 クランや、顔見知りになったパーティーへの指名クエストが発注されるクエストの三割を超える。

 依頼主にしてみれば、新しい冒険者よりも知った冒険者の方が多少高くても信頼できるからだ。

 リゼは今後、王都の洗礼を受けることになる。

 アンジュもリゼが王都を拠点に生活するのであれば、どこかのクランかパーティーに所属すると思っていた。

 当たり前のことだったと思っていたアンジュだったので、リゼに説明をすることは無かった。



――――――――――――――――――――


■リゼの能力値

 『体力:三十五』

 『魔力:十八』

 『力:二十二』

 『防御:二十』

 『魔法力:十一』

 『魔力耐性:十六』

 『敏捷:七十八』

 『回避:四十三』

 『魅力:十七』

 『運:四十三』

 『万能能力値:六』


■メインクエスト

 ・王都にある三星飲食店で十回食事をする。一店一回。期限:十二日

 ・報酬:魅力(二増加)、運(二増加)

 

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