第152話

「それで、リゼは拠点は王都に移すのか?」

「いいえ、そういう訳ではありません」

「どこか行くところがあるってことか?」

「いいえ、何も決めていません」


 自分のスキルであるクエストに行き先を決められていることは話せないリゼは、適当に話を合わせるしかなかった。


「そうか、俺たちは五日後にはクエストで王都を立つから、それまでだったら相手をしてやれるぞ?」

「有難う御座います。でも、大丈夫です」

「そうか」


 申し出を断られたクウガは、少し残念そうな表情を浮かべる。


「それで、リゼちゃんはどこの宿屋に泊っているの?」


 クウガとの話を終えたタイミングで、アリスが話し掛けてきた。

 隣にいるアンジュはリゼを睨んでいた。


「まだ、決まっていません。これから宿屋を探すところです」

「えっ、そうなの⁈ じゃあ、ここに泊って行けばいいじゃない」

「お姉様‼」


 アリスのいい加減な発言に激怒するアンジュ。


「ここはクランのメンバーだけの場所です‼」

「分かっているわよ。冗談よ」


 憤慨するアンジュに戸惑いながら、アリスは答えた。


「リゼ。このあと、一緒に食事でもどうだい?」

「……いいえ、そこまでは」

「もう、リゼちゃん。遠慮しなくていいわよ。アルベルトが奢ってくれるから、一緒に行きましょう」

「……分かりました」


 断り切れないと判断したリゼは、アルベルトの申し出を受けることにした。

 そして、アルベルトたちから王都の情報を得られればとも考えていた。


「ありがとう。ジェイド、悪いがブオノまで行って、今晩の予約をしてきてくれるかい」

「了解っス。リゼさん入れて、十一名っスね」

「うん。予約出来なかったら、ギュゼルかゴッソでもいいから」

「了解っス。じゃぁ、ひとっ走り行ってくるっス」

「ありがとう」


 ジェイドは勢いよく飛び出していった。


「ブオノもギュゼルにゴッソ、どれも王都の三星飲食店だから美味しいわよ」

「……三星飲食店ですか! 他にも幾つかあるんですか?」

「そうね――って、リゼちゃん美味しい物食べたいの?」

「い……はい」


 リゼは出かけた言葉を言い直した。


「そう言うことなら、明日から私が案内してあげるわ」

「お姉様‼」


 リゼばかりを可愛がるアリスに、アンジュは怒りを隠せないでいた。


「もちろん、アンジュも一緒よ」


 アリスの言葉にアンジュの顔がにやける。


「そうだ、アンジュ! 夕食までの間、リゼちゃんに王都を案内してあげてくれる?」

「えっ、私がですか!」

「信頼できるアンジュだから頼めるのよ」

「もう、お姉様ったら」


 アリスの言葉にアンジュは満面の笑みを浮かべた。


「し、仕方ないですわね」


 満更でもない様子のアンジュはリゼを連れて、王都観光へと繰り出した。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「アンジュさん。忙しいのに、すみません」

「別に忙しくないわよ」


 アンジュはリゼが、どうやってアリスに取り入ったのか気になっていた。

 自分でもあんなに抱きつかれたことは無い。

 もしかして、自分の知らない間にリゼと只ならぬ関係になっていたのでは? とリゼに対して不信感を抱いていた。


「しかし、アンジュさん凄いですね」

「なにがよ」

「だって銀翼のメンバーで、あんな美人で凄い冒険者であるアリスさんのお弟子さんなんて、余程優秀でないお弟子さんになれませんよね?」

「そ、そんなこと」


 自分が優秀だと言われたことよりも、アリスのことを美人で凄い冒険者と言ったことをアンジュは自分のことのように照れていた。


「銀翼は少数精鋭のクランだと聞いています。私と同じランクBとはいえ、実力は全然違うんですよね」


 リゼはお世辞でなく本心で反していたが、実力差があることに劣等感を抱いていた。

 劣等感を抱くこと自体が間違っていると分かっていても、強い冒険者に憧れる気持ちまでは嘘をつけなかった。


「ま、まぁ、それなりには強いわよ」


 褒められて悪い気がしないアンジュは、リゼへの考えを改め始めていた。


「それと、私のことはアンジュでいいわよ」

「えっ、でも……」

「私も貴女のことをリゼと呼ぶから」


 呼び捨てに慣れていないリゼは戸惑っていたが、アンジュの強引ともいえる言葉に従うことにした。


「それでリゼは何を見たいの?」

「……王都で一番安い宿屋はどこですか?」

「一番安い宿屋?」

「はい」


 アンジュは聞き間違いかと思い聞き返すが、リゼからは同じ言葉しか返ってこなかった。


「そんなに通貨が無いの?」

「はい。出来る限り支出は押さえたいので……駄目でしょうか?」


 リゼの言葉にアンジュは戸惑っていた。

 ミルキーチーターの防具に身を包まれていたので、それなりに裕福な冒険者だと思っていた。

 先程、全力でアリスがリゼをクランの建物で宿泊させたいと言った言葉に反発したことに思い出した。


「冒険者になって数ヶ月ですので、まだ蓄えもあまりないので……」

「……冒険者になって数ヶ月? って、お姉様たちとは、どうやって知り合ったのよ」


 王都を拠点にしている冒険者ですら、銀翼のメンバーと話をした冒険者は少ない。


「孤児部屋にいた時にクウガさんに話を聞かせて頂いて、その後に銀翼のメンバーの方ともお話をさせて頂きました」

「えっ、リゼって孤児部屋出身なの?」

「はい」


 アルベルトがリゼを紹介する時には、孤児部屋出身ということや、出会いのことなどは全て端折られていた。

 王都を追放された自分のファンが勘違いをして、リゼを襲ったことで迷惑を掛けたということを重点的に話していたからだ。

 リゼはアンジュに自分が銀翼のメンバーに世話になった話をしながら歩いていた。


(……孤児部屋出身って、堂々と言えるなんて)


 普通、孤児部屋出身というのは恥ずかしいと名乗らない場合が多い。

 アンジュは堂々と名乗る冒険者を数人しか知らない。

 そのうちの二人がアルベルトとクウガだ。

 以前にクウガが「なにも恥じることが無い。過去も含めての俺だ!」と言っていたのを覚えている。

 クウガのお気に入りと言ったアリスの言葉に納得をするアンジェは、自分でも気づかず笑っていた。


「アンジュ……さん」


 言葉が返ってこないアンジュを不安に思い、リゼが声を掛ける。


「あっ、ごめん。って、アンジュでいいから」

「すみません」

「別に謝らなくていいわよ」


 アンジュはリゼに対して、ヤキモチを抱いていた自分が恥ずかしくなっていた。


「それで、地区はどこがいいの?」

「安ければどこの地区でもいいです」

「……そう」


 場所よりも宿泊代に拘るリゼに対して、アンジュは呆気に取られていた。

 それだけ通貨を使いたくない……つまり、貧乏だと思ったからだ。


「そうね――」


 アンジュは幾つかの宿屋の名を上げる。

 しかし、アンジュ自身がクランの建物で生活をしているので、かなり昔の情報になる。


「ちょっと、寄り道してもいい?」

「はい」


 アンジュは歩きながら、店などの教えてくれる。


「久しぶり」

「アンジュじゃないか。久しぶりだな、今日はどうしたんだい」


 アンジュが足を止めて、路上に座っていた男性に声を掛けると、男性も返答していた。

 男性は”スクンフト”という情報屋のようだった。

 情報屋と言っても、町のガイドなどもするので王都に関することを人一倍知っているだけだ。


「安い宿屋を教えてくれる?」

「どの地区だい?」

「全地区で」

「ほぉ~、それは珍しいね。そうだね、この南地区だと”客亭スドール”、北地区だと”アゴールの宿”、東地区は”ビストン館”、西地区の”宿舎ザフィー”だね。防犯や利便性なども考えるとビストン館だが、格安と言っても、他の地区と比べるとね……おすすめは客亭スドールか、アゴールの宿の二択だね。銀翼館から出るのかい?」

「私じゃないわよ。この子よ」


 アンジュがリゼに視線を送ると、スクンフトも納得する。


「そう言うことかい。どうやら、王都に来たばかりのようだね。銀翼の新しいメンバーかい?」

「違うわよ。うちのリーダーたちがクエスト先で迷惑を掛けたらしいのよ」

「アルベルトたちがかい?」


 スクンフトは興味深くリゼを見ていた。


「変な詮索しないでよね」 

「そんなつもりじゃないんだけど、職業病かな。お嬢さんも、何か困ったことがあれば俺を訪ねて来な」

「ちゃっかり営業まで……」


 アンジュはスクンフトに銅貨を数枚渡していた。

 リゼがこれが情報料金だと思いながら、後でアンジュに返そうと渡した通貨の枚数を見ていた。


――――――――――――――――――――


■リゼの能力値

 『体力:三十五』

 『魔力:十八』

 『力:二十二』

 『防御:二十』

 『魔法力:十一』

 『魔力耐性:十六』

 『敏捷:七十八』

 『回避:四十三』

 『魅力:十七』

 『運:四十三』

 『万能能力値:六』


■メインクエスト

 ・王都にある三星飲食店で十回食事をする。一店一回。期限:十二日

 ・報酬:魅力(二増加)、運(二増加)

 

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