第151話
今までに見たことのない行き交う多くの人々。
活気ある店の数々。
町の中にそびえる大きな壁。
リゼは戸惑いながら足を進める。
(衛兵が多いのは事件の影響かな?)
頻繁に目にする衛兵に戸惑いながらも周囲を見てばかりだと、挙動不審と思われるので平然とした態度をしていた。
銀翼の建物を探そうとするが、王都の広さを舐めていたと、リゼは痛感する。
オーリスの三倍……いや、それ以上の広さがあるからだ。
王都内にも冒険者ギルド会館は三つ、それとは別にギルド本部がある。
商業ギルド会館や生産者ギルド会館は冒険者ギルド会館の隣にあることが多く、建物自体は完全に分かれているそうだ。
(うーん……)
リゼは悩みながら歩き続ける。
近くの露店で肉串を購入して、銀翼の建物や宿屋のことを聞くと、親切に教えてくれた。
銀翼の建物は南地区の大通り沿いにあり、同じ南地区の宿屋の場所も幾つか教えてくれた。
そのなかには聞き覚えのある宿屋の名前もあった。
なによりも自分がいる場所が北地区ということが分かっただけでも有益な情報を得ることが出来たと、リゼは満足する。
リゼは言われた通り、大通りに移動して城の方へと歩くと、途中に各地区への案内看板を発見する。
そこでリゼは数人の人が地図のようなものを見てることに気付く。
王都へ観光に来た人たちは王都の地図を購入しているようだ。
購入しようかとリゼも悩んだが、どれだけ王都に滞在するか分からないこともあり、購入を見送る。
そして南地区の矢印が付いた方向に進路を変えて、再び歩き出した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
(ここかな?)
三階建ての建物の前でリゼは立っていた。
入口らしきところにも銀翼だと分かるものが無い。
二階の窓から旗が
旗の模様は銀色の翼を模しているし、以前にアルベルトたちの防具にも同じような模様があったことを記憶していたなので、リゼは「ここで間違いない」と思っていた。
悩んでいても仕方がないリゼは、思い切って入ることにする。
「すみません」
扉を開けて中に入るが誰も居ない。
開いているということは誰かがいると思い、リゼは少しだけ大きな声でもう一度声を出す。
「すみません‼」
奥の部屋から、物音が聞こえた。
「はい、なんですか?」
リゼと同じくらいの背格好で魔術師の衣装を着ている女性の冒険者が現れた。
「あの……銀翼の方は居ますか?」
「私も銀翼のメンバーですが、なにか?」
女性の冒険者は、不機嫌そうに答える。
「あっ、すみません。アルベルトさんか、アリスさん。御二方とも居なければ、クウガさんは居ますでしょうか?」
「……リーダーたちになにか用ですか?」
「あっ、あのアルベルトさんたちに王都に来たら寄るようにと言われたので……」
「はぁ――」
面倒臭そうにため息をつく。
「居るんですよね。嘘をついてアルベルトさんたちに会いたいっていう冒険者が。うちのクランは団員を募集していませんので、帰って貰えますか!」
大声で強めの言葉をリゼに放ち、すぐのでもリゼを帰そうとする。
「いえ、嘘じゃありません。私、リゼと言います。もし、居るのであれば来たことだけでも伝えて頂けませんか?」
リゼも約束を破りたくない一心から、必死で返す。
「はいはい、伝えておきますから、早く帰ってもらえますか」
「でも……」
厄介払いされているとリゼは分かっていたが、このままでは伝言さえ伝えてもらえないかもしれないと思い、何度も確認する。
「分かったって言っているでしょう‼」
女性冒険者が大きな声で叫ぶと、リゼは小さく「すみませんでした」と言い、帰ろうと体を反転させる。
「アンジュ‼ うるさいわよ、一体、何をやっているの!」
奥からアリスが顔を出す。
(リゼちゃん?)
体の向きを変えたリゼの髪が空中に弧を描くように舞う。
その姿からアリスは目の前にいる冒険者がリゼだと思い駆け寄る。
「リっ、リゼちゃん?」
アリスの声に反応したリゼが振り返ると、アリスは満面の笑みでリゼを抱きしめた。
「本当にリゼちゃんだ。なになに、私に会いに王都まで来てくれたの?」
「ち、違いま……いえ、半分正解です」
リゼは王都に来たのは違うが、ここに来たのはアリスたちに会うためなので、否定しようとした言葉を飲み込み、必死で抵抗をしていた。
「ん、もう照れちゃって! 可愛いんだから」
アリスはリゼの言葉を聞かずにリゼを離そうとしない。
「お、お姉様……その子は一体⁈」
目の前の光景が信じられないのか、アンジュと呼ばれた魔術師の顔は引きつっていた。
「私のお気に入り……違ういや、違わなくはないけど、クウガのお気に入りのリゼちゃんよ」
アリスがアンジュにリゼを紹介する。
「クウガ‼ 珍しいお客さんよ!」
大声でアリスが奥の部屋にいるであろうクウガを呼ぶ。
「うるせぇな。なんなんだ、一体……」
面倒臭そうに出てきたクウガだったが、アリスを……正確にはアリスが抱き着いているリゼを見て一瞬、固まっていた。
「リゼ、王都に来たのか?」
「はい」
「そうか」
クウガは嬉しそうに笑うと、アルベルトたちに玄関まで来るように呼びつけた。
玄関にいるリゼを見て、アルベルトも驚いていた。
「約束を守ってくれたようだね」
王都に来たら、クランに顔を出すという約束。
最初はクウガとアリスと交わし、そしてアルベルトとも交わした。
「はい、突然にお邪魔してすみませんでした」
「いいよ、別に。今度のクエストの準備などをしていただけだから」
アルベルトとの会話中も、アリスはリゼを抱いたままだった。
「ここで立ち話もなんだし、奥で話でもしようか?」
「あっ、でも……」
「そんな気を使わなくてもいいわよ。行きましょう、リゼちゃん」
アリスに強引に連れていかれるリゼ。
その様子を殺意を持った視線で見つめるアンジュとリゼは目が合う。
(……どうしよう)
アンジュがアリスの弟子だと思い出す。
そして、アンジュがアリスに心酔していることも……。
「アンジュ。リゼちゃんに飲み物と御菓子用意して頂戴」
「はい、お姉様」
アンジュの気持ちを逆撫でするかのように、アリスはリゼのおもてなしをアンジュに頼んだ。
他の銀翼のメンバーは面白そうにその様子を見ているだけだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
奥の部屋に移動すると、リゼのために散らかっていた物を、アルベルトたちが短時間で片付ける。
「えっと、リゼはアンジュとジェイドは初めてだったよね?」
「はい」
リゼは頷き答える。
「まずはリゼの紹介だね」
アルベルトは銀翼のメンバーにリゼのことを紹介する。
と言っても、アンジュとジェイド以外は何度か会って話をしているので、ただ聞いているだけだった。
自分のことで迷惑を掛けたことをアンジュとジェイドに向かって丁寧に説明をしていた
リゼが自己紹介をすることなく、アルベルトの紹介だけで終わった。
「次はアンジュだね。自己紹介してくれる?」
「はい。冒険者ランクBの中級魔術師……そして、アリスお姉様の唯一無二の弟子にして、アリスお姉様から寵愛を受けているアンジュです」
リゼに敵意丸出しの自己紹介だった。
これにはアルベルトも苦笑いをしていた。
「ジェイドも頼むよ」
「はいっス。自分も冒険者ランクBっス。職業は拳闘士っス。ローガン兄貴から、いろいろと教えて貰っているところっス」
「……ローガンさんとジェイドさんは兄弟なんですか?」
ジェイドの自己紹介を聞いて、ローガンとジェイドを交互に見たリゼが質問をすると、皆が笑い始めた。
「違うっス。尊敬の意味を込めて兄貴と呼んでいるっス」
「俺的にも師匠とか呼ばれるよりも、兄貴のほうがしっくりきたしな」
「そうなんですか」
兄弟でもないのに兄貴と呼び合うことが不思議でしかなかったリゼだったが、納得する素振りだけはする。
「ジェイドとアンジュはメンバーだけど、まだ見習いだね」
アルベルトが口にした”見習い”という言葉にアンジュは不満そうな表情を浮かべる。
大がかりな遠征などに連れていくには実力不足の二人は、メンバーが王都不在の際にクランの対応をしたり、二人でクエストをしたりして腕を磨いているそうだ。
とはいえ、他のクランであれば主力となれるだけの実力は持っている。
アルベルトや他のメンバー全員の意見でもある。
アンジュとジェイドも自分たちのこと大事に育ててくれていることを知っているので、若干の焦りはあるものの日々精進していた。
「リゼさんは、新しいメンバーなんすか?」
「いえ、私は――」
「違うぞ」
リゼが言い終わる前に、クウガがジェイドの質問を否定する。
「あくまで懇意にしているだけだ。リゼの実力は銀翼に入るところまで達していない」
クウガの言葉がリゼの心に突き刺さる。
分かってはいたことだが、自分の実力不足を口にされたからだ。
「あれあれ~。でも、それなりに実力は認めていたじゃない。クウガに一撃入れたしね」
「えっ、クウガさんに‼」
「本当っスか‼」
オプティミスの言葉に、アンジュとジェイドが驚く。
「あのね~、一撃って言ってもゆっくり動いた時の話でしょう。面白可笑しく話をしないでくれる」
「あれ~、そうだっけ?」
オプティミスが話を茶化し始めたので、アリスが訂正をする。
その後もオプティミスが話を茶化し続けたため、この話は終わった。
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■リゼの能力値
『体力:三十五』
『魔力:十八』
『力:二十二』
『防御:二十』
『魔法力:十一』
『魔力耐性:十六』
『敏捷:七十八』
『回避:四十三』
『魅力:十七』
『運:四十三』
『万能能力値:六』
■メインクエスト
・王都にある三星飲食店で十回食事をする。一店一回。期限:十二日
・報酬:魅力(二増加)、運(二増加)
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