第150話
「そろそろ、王都に着くぞ」
馬車の後方を確認していたオズワルドが、安堵の表情を浮かべながらリゼたちに教える。
それはリゼたち乗客も同じだった。
オーリスを旅立って、十六日目になっていた。
物資を途中で確保するため、何度も町や村に寄ったり、安全な場所で野営をするため、早めに移動を止めたりしていた。
定期的な運航をしているルートなので、問題らしい問題はなかった。
ただし、乗客たちは何もすることが無いので、どうやって暇を潰すかを考えることに時間を要していた。
リゼはひたすら外の様子を見て、冒険者になってからの反省点や、これからすべきことなどを自分なりに整理をしていた。
しかし、漠然とした目標さえリゼにはなかった。
その日をどうにか生きる!
いままで、そのことで精一杯だったからだ。
一人で生きていくといくのは、目標であってないようなものだ。
冒険者であれば、有名になるや、クランを設立するなど多くの夢があるはずだ。
リゼも長い時間考えることがあったことで、今後の自分を思い描くことが出来なかった。
自分のスキルの通りに行動することは、自分の意志に反しているとさえ考えるようになっていた。
しかし、クエスト失敗による罰則を考えると、拒否することは出来ない。
とりあえず、銀翼のクランを訪ねることにする。
クウガたちはクエストで不在かも知れないが、口約束ではあるが約束は交わした。
それを破るわけにはいかないと、リゼは考える。
そして、格安な宿を確保して、王都にある図書館で知識を深めることにする。
宿屋についてはツインクルたちから情報を聞いているので問題無い。
幸いにも通貨に余裕があるので、格安な宿に泊まれば数日は冒険者ギルドからクエストを受注しなくても生活は可能だ。
冒険者ギルドへは必要になった時に、様子見がてら行けばよいとリゼは思っていた。
その時、道端に生えている黄色い花に目を奪われる。
どこにでもある一般的な花だ。
その花は、唯一心を許すことが出来たフィーネが自分の髪色と同じで好きだと言った花だ。
自分がチャーチルと戦った後、キンダル家が領地より追放されたことは聞いていた。
(フィーネ、元気かな?)
黄色い花を見ながら、フィーネを思い出し心配する。
リゼは冒険者になった自分とフィーネが再会することは無いだろうと考えていた。
父親や義母から解放されたフィーネが幸せな人生を送ることを願っていた。
「……変ね?」
「そうね」
護衛をしていたパニーニが険しい顔で呟くと、マユリカも同意する。
「事件でもあったのかしら?」
王都内で凶悪な事件などが発生すると、王都への出入りに厳重体制が敷かれる。
パニーニとマユリカは、このような状況を何度も経験しているので、すぐに気付いたようだ。
馬車の中にいたリゼも、外が騒がしくなっていることに気付く。
小窓から見ていた景色も止まる。
「着いたわよ」
パニーニがリゼたちを安心させるかのように声を掛ける。
「でも王都内に入るのには時間が掛かりそうね」
入り口には多くの馬車が並んでいた。
なにかしら異常事態が起こっているのは間違いないだろう。
「どうしたの?」
パニーニが単独行動を続けていた乗客の男性に声を掛ける。
「あっちに知り合いを見つけたから、知り合いと合流する。別に問題は無いだろう?」
「そうね」
男性はリゼの前を通り奥から自分の荷物を手に取ると、そのまま馬車を下りて歩いていった。
「一時間程待つようだな」
男と入れ替わるようにツインクルが顔を出す。
周囲にいた顔見知りの冒険者や商人から状況を聞いて回っていたようだ。
「俺たちの地区にいた受付嬢のイデオラは知っているだろう?」
「えぇ、勿論よ。あのいけ好かない受付嬢でしょう」
「そのイデオラが一昨日の夜に殺されたそうだ」
「えっ‼……でも、たしかに恨みは買っていそうだったわね」
イデオラは冒険者ギルドに所属する受付嬢だったが、父親が貴族ということもあり、積極的に仕事はせず、同僚の受付嬢たちからも疎まれていた。
有名な冒険者には媚を売り、強引に担当を自分に変えさせようと工作したり、有名でない冒険者には邪険な態度で接していた。
受付長やギルマスからも何度も注意を受けるが、改善する様子も無かった。
父親の権力を盾にしていたイデオラだったが、冒険者ギルドは権力に屈することは無い。
しかし、イデオラには通じず、その後も改善される様子が無いため、冒険者ギルドはイデオラに対して最終勧告をする。
最終勧告を受けたイデオラは捨て台詞を吐き、業務時間内にも掛からわず、その場から去って行ったそうだ。
そして、その夜に殺害された――。
貴族の父親は悲しみ怒るが、イデオラを良く思っていなかったのは冒険者だけでなかった。
町の人々たちにも横柄な態度をとっていたようで、同情的な言葉は無く、喜ぶ声さえあった。
そのせいか、犯人の繋がる有効な情報が、なかなか集まらないでいた。
数か月前にも同様に町の女性が殺害される事件もあり、未だ犯人が捕まっていない。
連続殺人の線も消えていないことから、王都への出入りには厳戒態勢を敷いているそうだ。
門番である衛兵が王都に出入りする全ての人に対して、真偽が判明する水晶に触れるようにしている。
犯罪歴を聞かれるため、犯罪歴があると水晶が発光する。
水晶が発光すると別室に連れていかれ、犯罪歴について事細かに尋問される。
犯罪歴によっては、王都に入ることを拒否されることもある。
重犯罪を犯せば収容される。
収容される場所も、犯した犯罪により異なる。
「どうかしたか?」
ツインクルから話を聞いていると、同乗していた男性が動揺していた。
「……もしかして、犯罪歴があるのか?」
ツインクルが質問する前にパニーニとマユリカが、男性とリゼ、親子三人の間に移動していた。
リゼは不穏な空気に気付かず、ツインクルの話を聞いていたことに自分の未熟さに痛感していた。
「ぼ、僕は……たしかに犯罪を犯したことがあります。しかし、それは五年以上前です。それからは真面目に生活をしています」
自ら犯罪歴を認めた男性は『ドルイド』と言い、王都に入れない可能性があることに驚き怯えていた。
危害を加えるような行動を起こす様子も無いが、パニーニとマユリカは場所を移動せずに不測の事態に対応出来るように陣取ったままだった。
そして順番待ちしていたリゼたちの番になる。
リゼたちは荷馬車から降ろされる。
それぞれ、個室に案内される。
個室には衛兵が三人立っており、水晶に触れるように言われるが、リゼの格好を見た衛兵が「冒険者か?」と尋ねる。
リゼが冒険者プレートを見せると納得していた。
水晶にリゼが触れるが発光することなかった。
馬車に戻ると思っていたリゼだったが、そのまま王都に入る方に案内される。
『メインクエスト達成』『報酬(万能能力値:三増加)』と目の前に表示がされる。
知らぬ間に王都に足を踏み入れていたのだと、リゼは自分の足を自然と視線を変えていた。
そして目の前の表示が変わる。
『メインクエスト発生(+)』『王都にある三星飲食店で十回食事をする。一店一回とする。期限:十二日』『報酬:魅力(二増加)、運(二増加)』
(えっ!)
クエスト内容にリゼは驚く。
今までとは内容が異なっていたからだ。
三星飲食店とは、商業ギルドなどがお勧めする高級飲食店のことを差す。
下は一星となるが、全ての飲食店が評価されるわけではなく、一星認定されても店の売り上げが上がると言われている。
選定には色々な基準があるそうだが、明確にされてはいない。
一部に賄賂や贔屓店などが選定される噂もあるが、商業ギルドはその噂を真っ向から否定している。
公平に選定しているからか、選定は三年に一度される。
三星飲食店から一星飲食店に格下げされることも珍しくはない。
庶民が通う食堂などは選定される店には入っていない。
星が欲しければ、商業ギルドの『星組合』に加入をして、店に『星連合加盟店』の札を表示させておく必要があるからだ。
星連合に加入するにも通貨が必要となるので、一般的な食堂や飲食店は加入をしていないことの方が多い。
星組合加盟店で食事をすることは、飲食代が普通よりも、かなり高額になる。
王都までの道中で、ツインクルたちが教えてくれたので間違いないと、リゼはため息をつく。
早くもリゼが立てていた王都での計画が音を立てて崩れたのだった。
三ツ星飲食店の情報御無いため、情報収集する必要がある。
一日三食を三星飲食店で四日で終わる。
リゼは単純計算で考えていたが、星連合加盟店の多くは昼からしか営業をしていないことをリゼは知らない。
ドルイドは水晶に触れる前、「自分が前科者だ」と衛兵に伝える。
犯罪を犯した状況や、その後のことを話すが、衛兵はドルイドの言葉に耳を傾けることなく、早く水晶に触れるようドルイドに伝える。
恐る恐る水晶に触れるドルイドだったが一縷の願いも虚しく、水晶は発光していた。
そして項垂れるドルイドは、王都にも前科者は存在する。
別の場所から王都に来る自分が、王都に入れないかも知れない不平等さに苛立っていた。
そんなドルイドのそのまま別室へと連れていかれた――。
――――――――――――――――――――
■リゼの能力値
『体力:三十五』
『魔力:十八』
『力:二十二』
『防御:二十』
『魔法力:十一』
『魔力耐性:十六』
『敏捷:七十八』
『回避:四十三』
『魅力:十七』
『運:四十三』
『万能能力値:六』(三増加)
■メインクエスト
・王都にある三星飲食店で十回食事をする。一店一回。期限:十二日
・報酬:魅力(二増加)、運(二増加)
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