第149話
――オーリスを出てから五日目になる。
大通りを走っているせいか、魔物や山賊などに襲われることなく、順調に王都へと向かっていた。
リゼ以外の乗客は、小さな娘を連れた親子三人と、男性二人。
しかし離れて座っていたり、言葉を交わすことなどないため、知り合いではないようだ。
親子三人組とは多少話すことはあるが、男性の一人は一緒に食事をしたりするが、多くを語る感じではなく、なにか聞かれたら答えていた。
もう一人の男性は他人との接触を拒んでいるのか、食事は一人で馬車の中で取ったりと、単独行動をしていた。
リゼも「たまたま、同じ馬車に乗っただけ」と積極的に話し掛けることもなかった。
馬車の最後部には、女性冒険者二人が座って背後の警戒をしていた。
中級魔術師の『パニーニ』と、回復魔術師の『マユリカ』だ。
御者の隣で前方と左右を警戒しているのは戦士の『ツインクル』と、重戦士の『オズワルド』の男性二人組だ。
昨日までは、他の馬車と同じだったこともあり、顔見知り同士で夜も騒がしかった。
しかし、今はリゼの乗る馬車は単独で移動をしている。
昨晩も、「今晩からは危険度が増す!」と、ツインクルたちが話をしていた。
その時に世間話から、四人が所属するクランの話になる。
四人は王都のクラン『金狼』の『白狼』というグループに所属しているそうだ。
『金狼』は討伐系クエストのと『銀狼』、運搬護衛系クエストの『白狼』に分かれているそうだ。
昔は銀狼と白狼は別々のクランで、共に『狼』の名が付き王都で活動していたため、クラン同士の争いが耐えなかったそうだ。
それを十年ほど前に金狼の初代リーダーが銀狼と白狼を合併させて『狼牙』というクランを新たに設立した。
しかし、クラン名に色が入っていないため不吉だと、設立後すぐに今の金狼にクラン名を改名したそうだ。
最初こそ、銀狼と白狼の冒険者同士で衝突もあったが、次第にお互いを理解し始めた。
初代リーダーの影響がかなり大きく、その後もお互いの得意だったクエスト分野を生かすことになり、今のような体制になったと、オズワルドが話してくれた。
同じ冒険者ということで、リゼに対して王都に行く目的などを聞かれたが、リゼ自身がスキルクエストで王都に向かっているので、明確な理由が無かった。
このまま、王都に滞在するのか、別の場所に移動しなければならないのか分からない。
リゼは「用事があるので……」と曖昧な回答をする。
話題を変えるために王都のクランのことを聞くことにした。
自慢気に話をしていたオズワルドだったので、話題には尽きないと考えていたし、知っておいて損は無いと思ったからだ。
「強さや影響力などを考えても、有名なクランは三つだな」
オズワルドの言葉に、ツインクルたち三人も頷く。
「一番だと聞かれて誰もが答えるとすれば『天翔旅団』だろう。リーダーのオルビスは、近いうちにランクSになるだろうと噂をされているし、クラン名に色が付いていないのもジンクスを吹き飛ばしたとして有名だ」
「まぁ、そのせいで悪い影響もでたんだけどね」
オズワルドの言葉に付け加えるように、バニーニが口を開いた。
「実力不足にも関わらず天翔旅団に憧れて、クラン名に色を入れないクランが多く出来たのは間違いないわ。でも、今でも存続しているクランは……殆ど残っていないわ」
補足説明をしていたバニーニは、少し悲しそうな表情を浮かべていた。
「確かにそうだな。次に有名なのは俺たちの金狼だ」
嬉しそうにオズワルドが話す。
「あとは……銀翼だな」
物憂そうな表情で話す。
リゼはオズワルドの仕草を見て、銀翼に良い印象を抱いていないのだと感じた。
「銀翼は猫系だからね」
「猫系?」
バニーニが笑いながら発した言葉の意味が分からずに、リゼは反射的に聞き返していた。
「あぁ、猫系クランってことよ。反対に私たちは犬系クランね」
金狼や天翔旅団のようにカリスマリーダーの元に、縦割りできちんと統率されているクランのことを俗に『犬系クラン』と言う。
反対にクランのメンバーが好き好きに、言い方を変えればリーダー不在でも勝手に活動する自由気ままなクランのことを『猫系クラン』と呼んでいる。
銀翼はリーダーのアルベルトの指示よりも自由に行動をしていることから猫系クランと認知されているようだった。
「リゼさんは銀翼と交流がありますよね」
今まで聞かれたことしか答えていなかった寡黙な男性が、リゼと銀翼の関係を口にした。
その言葉に反応するかのように白狼の冒険者四人がリゼの顔を見る。
「……一応」
肯定とも否定とも取られないような回答をする。
「もしかして、銀翼に入るために王都に行くのか?」
ツインクルが、興味津々な目でリゼを見つめながら質問をする。
「いいえ、違います。銀翼に入るために王都に行くわけではありません」
リゼは全力で否定をする。
曖昧な回答をすれば、銀翼に迷惑が掛かると思ったからだ。
あまりにも全否定するリゼを見て、ツインクルは驚いていた。
「まぁ、そうだよな。銀翼は誰でも入れるクランじゃないからこそ、少数精鋭だと王都でも有名だしな」
ツインクルも納得した様子だった。
その後もツインクルとオズワルドは、王都の冒険者情報をいろいろと教えてくれた。
白狼の四人はリゼが銀翼と関係があると分かっても、冒険者としての実力は未知数だと思っていた。
仮に金狼に誘っても、戦力にはならなければ誘った自分たちの責任にもなるので、誘うようなことはしなかった。
「……魔物か?」
楽しく話をしていたツインクルの表情が一変する。
ツインクル同様に、なにかを感じた白狼の四人はすぐに火を消して、戦闘態勢をとっていた。
一瞬で状況が変わったことに怯える親子三人と男性。
リゼも戦闘態勢を取る。
ツインクルの指示のもと、リゼたちは御者と一緒に馬車へと戻る。
馬車では残っていた男性が既に寝転んでいたが、走り込んできたリゼたちに驚き、起き上がった。
出来るだけ馬車の奥に詰めてもらい、リゼも馬車から下りて、出入り口付近で小太刀を構えていた。
姿を見せたのは『オーク』だった。
集団で行動するオークなので、姿を発見した段階で数十匹との戦闘になることもある。
「オークだ‼」
ツインクルの言葉に反応して、馬車の奥にいた御者が飛び出して、馬車を出発させようとしていた。
馬車に乗ろうと走ってくる白狼の四人。
リゼも馬車が出発すると思い、馬車に飛び乗る。
オズワルドとマユリカが馬車に乗ると同時に、馬車が大きく揺れて走り出した。
「間一髪ってとこだな」
オークと戦闘して勝てる可能性もあるが、リゼたち乗客へ被害が出たり、馬を殺されたりすれば王都に行くのに時間が掛かってしまう。
護衛のクエストには、無事に乗客を王都に送り届けることが第一優先とされているので、無駄な戦闘は避けるに越したことは無い。
オークの存在に気付くのが、少しでも遅れていれば戦闘になっていただろうと、オズワルドが後方を気にしながら話してくれた。
馬の移動速さにオークが付いて来れることもないので、リゼたちはオークから無事逃走することが出来た。
リゼは白狼たちの咄嗟の判断は経験からくるものなのだと感心しながら、クエスト達成するにも、いろいろな方法があるのだと改めて考えさせられた。
――――――――――――――――――――
■リゼの能力値
『体力:三十五』
『魔力:十八』
『力:二十二』
『防御:二十』
『魔法力:十一』
『魔力耐性:十六』
『素早さ:七十八』
『回避:四十三』
『魅力:十七』
『運:四十三』
『万能能力値:三』
■メインクエスト
・王都へ移動。期限:一年
・報酬:万能能力値(三増加)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます