第144話
「これは希少な
ニコラスはザクレーロが収集していたであろう
「これは、売却するつもりかい?」
「……何も考えていませんが、とりあえずは売却しないつもりです。それに、先程のヨイチさんとされていた会話ですと、もしかしたら親族の方がいる可能性もゼロではないですから、この
「なるほど……でも、この
「そうですか」
ニコラスは今一度、リゼに冒険者としての規則を教える。
死者から得た武器や防具は、発見した冒険者の物だと。
そして、
「分かったかな?」
「はい」
ニコラスからの説明を聞いても、死者から武器や防具を持ち帰ることはリゼにとって良心の呵責に耐えられない心境だった。
「それを生業にする者も多数いるから、
「はい……でも、アイテムバッグに大事な物を入れておけば、余程のことが無い限り大丈夫ですよね?」
「残念だが、そうとも言いきれないんだ。冒険者を狙う者の中には組織化していて、アイテムバッグの契約解除が出来る組織もあると聞いている」
「えっ!」
リゼはニコラスの言葉に驚く。
誰から聞いたかまでは覚えていないが、契約解除する技術は国から認定された特定の魔術師しか出来ないと思っていた。
簡単にアイテムバッグの中身を取り出せるのであれば、冒険者を狙う犯罪組織がいても納得できる。
「その組織の討伐も、冒険者として受注するクエストの一つになっていることが多いのも事実だね」
「そうなのですね」
リゼは驚きながらも、討伐ということは人間同士の殺し合いがあるということを知る。
「話を戻すけど、もし売却するのであれば王都での売却が良いと思う。オーリスでも売却は可能だが、王都のような適正価格での買取は難しいと思うからね」
王都には多くの
冒険者ギルドにクエストを発注していなければ冒険者たちは直接、道具屋に売却する。
一軒でなく、何件も回る冒険者もいれば、冒険者ギルドから
「売却するにしても、魔法名称や内容は知っておいた方が良いと思います。悪徳な道具屋だと買い叩かれることもありますからね」
「分かりました」
「グレックのお礼という訳ではありませんが、私が
「あっ、はい。御願いします」
リゼは思わず返事をする。
「こっちの書類は冒険者ギルドとして、いずれ調査をしようとも考えているので、こちらで保管させてもらってもいいかな?」
「はい、構いません。その……ついでにお聞きしたいことがあるのですが宜しいでしょうか?」
「はい、なんですか?」
「拳に炎を纏って戦う拳闘士か武闘家って……いますか」
「拳に炎を纏う? 手の平に炎を出すとかじゃなくてかい?」
「はい。武闘家と魔術師が合わさったような感じなんですが……」
「多分だけど、それは武闘家が火系魔法を習得したんじゃないのかな?」
「そんなことが可能なのですか?」
「可能か不可能かと聞かれれば、不可能ではないと思うね。
「……不利ですか?」
「戦闘職の魔法力は、なにで消費するか知っているかい?」
「技です」
「そう、その通り。職業スキルや、本人独自のスキルで発動出来る技が、魔法を使うことで使えなくなる」
リゼはニコラスに言われて納得する。
稀に習得できる職業スキルや、与えられたスキルを成長させて職業にあったスキルを習得できることもある。
何発も打てるような小技から、一発で形成を逆転できるような大技まで様々だ。
小技であれば魔法力を使っても、普通に攻撃した場合に比べて変わりがない。
それであれば、普通に攻撃をした方が楽だと考える。
それに
魔法は魔術師に任せておけばいいからだ。
「魔法にも適性がある。僕も魔術師ではないが自分の魔法適性を知っている」
「そうなんですか?」
「冒険者の誰もが知っているわけではないね。戦闘職であれば、不要だと思っている冒険者も多いからね」
リゼは頷きながらニコラスの話を聞く。
「まぁ、仮に分かったとしても、魔法を使った冒険者はそれほど多くないと思うよ。併用するのであれば、それ相応の武器が必要になるだろうしね。それよりも先程の話だけど、その炎を纏う拳というのは、魔法とは違う印象を受けるね」
「そう……ですか?」
「うん。通常、魔術師が魔法を使う場合、炎や水などが直接、体に触れることは無いんだよ」
「あっ‼」
ニコラスの言葉で、リゼは気付く。
たしかに、火系や水系の魔法を使ったりする場合、体から離れた場所で魔法が発動していた。
それは体に触れると体に損傷を与えるからだ。
「炎を拳に纏えば、火傷どころですまないかも知れないしね」
「そうですね」
リゼは自分の見間違いだったのかと記憶を遡るが、あの衝撃的な光景を間違えるわけがない。
ニコラスもリゼが嘘を言っているとは思っていないので、勘違いか何かだろうと考えていた。
部屋の扉を叩く音がして、クリスティーナの声がする。
ニコラスが返事をすると、クリスティーナとレベッカが入室して、ニコラスの隣に座った。
「この度のクエストご苦労様でした。こちらが達成報酬となります」
リゼの目の前に出された通貨は白金貨五枚と、金貨三枚に銀貨八枚だった。
「えっ!」
思わず声を上げるリゼ。
「計算間違いではありませんか?」
「いいえ、商業ギルドからの買取金額を基に適正な報酬になります」
「で、でも……」
あまりの報酬に戸惑うリゼだったが、クリスティーナが説明を始めた。
近年、オーリスキノコの人気は高まっていること。
そして、年代物のオーリスキノコの希少価値も同様に高く、年代に比例して味も上がる為、飲食店はもちろん貴族の間でも人気がある。
その結果、オーリスキノコ自体が高騰することとなった。
リゼの採取したオーリスキノコには、それだけの価値があるということだった。
「冒険者ギルドとしても、嬉しい限りです」
「そんな……運が良かっただけです」
「運を味方することも冒険者にとっては、重要なことです」
謙遜するリゼにニコラスが微笑みながら話す。
「別途、書類の件で報酬を支払いますので、明日にでも来て頂けますか?」
「はい……」
追加して報酬を貰うことが申し訳ない気持ちだった。
「あっ!」
「どうしました」
突然、大声をあげるリゼに驚くニコラスたち。
「す、すみません。この魔石も買い取っていただけますか」
リゼは慌ててアイテムバッグから、リトルワームの魔石を取り出す。
「リトルワームですか! リゼが討伐したのですか?」
「いいえ、違います。タイダイさんという商人の護衛をしていた人たちが討伐をしたのですが、魔石はいらないと言うので、私が貰いました。この魔石を売却した通貨でお酒を奢ることになっています」
「その護衛していた人たちは冒険者なのに、魔石が要らないと?」
「冒険者では無くて、旅をしているだけだと言っていました。先程の話の人たちです」
「炎を使う武闘家のことですか?」
「はい、そうです」
冒険者でない者がリトルワームを討伐したことが、信じられないニコラスだったが、リゼが嘘を言っても得をするようなことでもないと考える。
タイダイという名の商人を口にしたことも真実を語っているには十分だったからだ。
「レベッカ。魔石の買取分を持って来てくれるかな」
「はい、ギルマス」
レベッカが駆け足で部屋を出て行った。
「リゼ。これはグレックの分です」
レベッカが居なくなるのを確認すると、ニコラスはリゼに白金貨二枚を渡そうとする。
「こ、こんなに頂けません」
「グレックの装備品は、それなりに高いものだよ。それに私……私たちからの礼も含んでいる。どうか貰って欲しい」
「リゼさん。私からもお願いします」
ニコラスとクリスティーナが頭を下げる。
この白金貨二枚に込められたニコラスとクリスティーナの思いを深く受け止めながら、リゼは白金貨を受け取った。
戻って来たレベッカからリトルワームの魔石買取金額分の通貨を受け取ると、今日の話は終えたので、リゼはクリスティーナ、レベッカと共に、ギルド会館の一階へと移動する。
一階では既に、リゼが年代物のオーリスキノコを採取した話で持ちきりだった。
冒険者全員がリゼを称えているわけではない。
自分より格下だと思っていたリゼが、自分よりも功績を上げることを面白く思わない冒険者もいる。
妬みや嫉妬から、「運が良い」「不正をしている」などと陰口を叩かれることになる。
リゼ自身も、そのことをよく知っているので、出来るだけ目立たないようにとしてきたつもりだった。
そして、この日から数日の間、リゼは”キノコ採り名人リゼ”という変な二つ名で呼ばれることを、リゼはまだ知らない――。
――――――――――――――――――――
■リゼの能力値
『体力:三十五』
『魔力:十八』
『力:二十二』
『防御:二十』
『魔法力:十一』
『魔力耐性:十六』
『素早さ:七十八』
『回避:四十三』
『魅力:十七』
『運:四十三』
『万能能力値:三』
■メインクエスト
・王都へ移動。期限:一年
・報酬:万能能力値(三増加)
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