第127話

 オーリスに戻るとリゼはクエスト達成の報告をするため、リアムたちと一緒に冒険者ギルドに向かった。


「お帰りリゼ。後ろの方々たちは?」

「クエストの途中で知り合って、オーリスまで来るとのことでしたから、一緒に戻ってきました」

「そう……」


 見たことのない冒険者だったためレベッカは警戒していた。

 もちろん、他の冒険者も初見の冒険者に対して警戒しているのが、リゼにも感じられた。


「あちらで詳しくお話をお聞き致します」

「分かりました。御手数お掛け致します」


 レベッカは手が空いている受付嬢に、リアムたちを対応するように頼んだ。

 対応しているのは剣士のクリスパーだった。

 クリスパーたちはレベッカに言われた通り、別の受付嬢の所に移動をして話を始めていた。

 すぐに行動しないリアムたちを、クリスパーは叱りながら移動するように促す。

 クリスパーは苦労が絶えないのだろうと、リゼは改めて感じていた。

 リゼはレベッカと話をしながらもリアムたちのことが気になっていたので、横目で少しだけ見ていた。

 クリスパーと受付嬢の会話は、ラウムたちの声で掻き消されて殆ど聞こえない。

 ただ、クリスパーがアイテムバッグから布に包んだ物を取り出して、受付嬢に見せていた。


「はい‼」


 ひと際、大きな声で叫ぶ受付嬢は驚いた表情で、駆け足で奥の部屋に走って行った。

 リゼとレベッカは、その声の大きさに驚きリアムたちの方を見ていると、受付長のクリスティーナが受付嬢と一緒に戻って来て、リアムたちと話し始めた。

 もっとも話をしているのは、クリスパー一人で他の人たちは、クリスパーの後ろで我関せずと言った感じで、好き好きに会話をしている。

 クリスパーは我儘な仲間に、かなり苛立っているのがリゼから見ても分かる。

 それは対面で話を聞いている、クリスティーナたちの方が分かっていた。

 いつもなら叱るクリスティーナも、リアムたちを無視するかのようにクリスパーと話をしている。


「じゃあ、討伐した魔物を見せてくれるかしら?」


 レベッカはリゼに、討伐対象の魔物ニードルシープを見せるように言うと、リゼは戸惑いながら答える。


「はい、でもニードルシープは六匹居ますが、ここで良かったですか?」

「えっ、六匹‼」


 レベッカは一匹、増えても二匹だと思っていた。

 ここで確認した後に解体業者に運んでも貰えばと考えていた。

 リゼの能力を侮っていた自分の考えを改める。

 ニードルシープを六匹も討伐するのは簡単なことではないからだ。

 しかし、ニードルシープを六匹も討伐することが出来たのは、偶然が重なってのことだとは、レベッカが知る由も無かった。


「裏に行きましょうか」

「はい、分かりました」


 私はレベッカと解体場のある扉から外に出ると、六匹のニードルシープをアイテムバッグから取り出した。

 レベッカがニードルシープの数を数え終えると再び、ギルド会館内に戻る。


「失礼します」


 クリスティーナが受付に戻ったレベッカの後ろを通り、階段前でリアムたちを待つ。


「じゃあな、リゼ」


 軽く挨拶をするリアムに、リゼは頭を下げた。

 リアムたちはクリスティーナに案内されて二階へと上がって行った。


「緊急事態ですか?」

「さぁ、どうかな?」


 クリスティーナの行動が普段と違うことに気付いたリゼだったが、それをレベッカが見逃すはずがないとリゼは思っていた。

 守秘義務もあるだろうと思い、リゼはクエスト完了の手続きを終えた。


「そういえば、町の入口に何台も馬車が並んでいましたが、なにかあるんですか?」

「学習院との交流会で、生徒の親たちが子供たちと会うために訪れているのよ」


 レベッカの回答にリゼは血の気が引く。

 学習院に通う兄だけでなく、あの両親とも会う可能性があることは想定外だったからだ。


「リゼ、大丈夫⁈」


 顔色の悪いリゼを見て、レベッカは心配する。


「はい……大丈夫です」


 リゼは精一杯答えた。

 レベッカはリゼの狼狽え方を見て、自分を捨てた両親と再会することを恐れているのだと感じた。

 受付嬢としてでなく、個人的に学習院との交流会の日程をリゼに伝えた。

 レベッカの行為は受付嬢として問題無い。

 日程を伝えることは、守秘義務に反していない。

 レベッカに心配させてはいけないと思いながら、リゼは必死で混乱する思考を戻そうとする。


「ありがとうございます」


 最低限の内容だけは頭に叩き込んだ。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ――学習院との交流会の日が訪れる。

 リゼは悩みながらも町にいた。

 今日から数日は学習院の生徒が、ギルド会館に出入りする。

 ギルド会館に行かなければ、学習院の生徒と顔を合わせることは無い。

 しかし、クエストを受注しなければ生活することが出来ない。

 リゼは、その葛藤の中で藻掻いていたのだ。


 一応、リゼは顔見知りの冒険者や、受付嬢のレベッカから交流会の予定を聞いていた。

 初日は交流会の予定や、冒険者についての簡単な講義を行う。

 二日目は現役冒険者との模擬戦をすることで、冒険者との実力差を実際に感じる。

 ただ、全生徒が模擬戦を行うことは無く、事前に希望者のみが参加する。

 冒険者で生きていこうと思う生徒や、腕試しをして自分の実力を確認したい生徒のみが、基本的に参加する。

 貴族などで戦う必要が無い生徒が敢えて、模擬戦に参加する意味が無いからだ。

 事前に実力は学習院側から情報を得ているので、冒険者側からも大きな事故にならないような冒険者を選ぶ。

 模擬戦に感化されて、その場で模擬戦を申し込む生徒も数人いるらしいが、ギルマスのニコラスや教師は、その際にはその場にいる冒険者をあてがうようだ。

 極稀に有名な冒険者に挑もうとする無茶な生徒もいるらしい。

 最終日の三日目は冒険者数人が同行して、簡単なクエストこなす。

 通年だとスライム討伐が選択される。

 危険度が少なく、多く生息している理由からだ。


 最悪、初日は講義中にギルド会館に出入りをすれば、顔を合わせることは無い。

 ここ数日、いろいろと考えていたが今も結論が出ていない。

 ただ、日を増すごとに悪いことをしていない自分が逃げるような行為をしていることに疑問も感じていた。

 堂々と胸を張って生きていくと、親に捨てられた時に誓ったことを思い出す。

 過去がどうあれ……気持ちで負けたら駄目だ。

 怯まずに堂々としていればいい。

 リゼは母親から譲り受けた髪飾りを見ながら、心に誓う。


「よしっ!」


 うじうじした気分を吹き飛ばすように、気合を入れて部屋を出た。

 


――――――――――――――――――――


リゼの能力値

『体力:三十四』

『魔力:十八』

『力:二十二』

『防御:二十』

『魔法力:十一』

『魔力耐性:十六』

『素早さ:七十六』

『回避:四十三』

『魅力:十七』

『運:四十三』

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