第123話
アリアーヌとティアーヌの二人に、少しだけ話をすることが出来た。
「その……双子だから、先程のような危険な芸が出来るんですか?」
「双子だからというより、死ぬほど練習したからね。まぁ、信頼関係が姉妹だから他人よりは強いかも知れないわね」
「そうよ。今でこそ、この芸になっているけど、小さい頃は何でもやっていたわ」
「出来ないことは切り捨てて、出来ること――得意なことを伸ばした結果ね」
「得意なことで苦手な部分を上回ればいいだけですしね」
得意なことを伸ばす。
苦手なことは切り捨てる。
リゼはアリアーヌとティアーヌの言葉に感化される。
「人間は完璧じゃないですから、どこかで諦める必要もあると思いますよ」
「そうね。私たちは親に捨てられたけど、それを不幸とは思っていないの。なぜなら、そのおかげでこの仲間たちと出会うことが出来たから」
「そうね。育ての親でもある団長は、本当の父親……いえ、それ以上の存在ですしね」
彼女らは双子と言うだけで、親から売られたそうだ。
土地によっては、双子を不吉な前兆だと言われて捨てられることがある。
当然、迷信だが古くからのしきたりを、今も信じている所も存在する。
しかし、彼女たちは自分たちの境遇を恨まず、受け入れて今を生きていた。
アリアーヌとティアーヌは学習院に通っていないというリゼも、自分たちと似た境遇だと思い話をしていた。
人生の先輩として、少しでも先を照らす道標のなればという思いだった。
「自分が思っている以上に、自分は強いわ。それを乗り越えれば、スキルは応えてくれるわ」
「そうね。限界を決めるのは自分ですしね。自分の考えた限界なんてものは結局、逃げの口実ですしね」
命を懸けた芸を披露してくれたアリアーヌとティアーヌの二人の言葉には重みがあった。
そしてリゼは、自分がまだまだ甘い考えなのだと思い知る。
「ありがとうございました」
「いえいえ、私たちも久しぶりに団員意外と話が出来て楽しかったですわ」
「機会があれば、見に来て下さい」
「はい」
リゼは御世話になったアリアーヌとティアーヌの……バーナム曲芸団の芸を見に来ようと思った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌朝、町の声で目を覚ます。
(なんだろう。騒がしいな)
リゼは窓から町の風景を見る。
いつもなら、殆ど人の往来が無いはずなのに、今日に限っては多くの人たちの姿を見ることが出来る。
(何かあったのかな?)
バーナム曲芸団を見るために、朝から行列が出来ているようだった。
午前と午後の二回だが、既に今日と明日の分は満席になっており、明後日も残り数席になっていた。
目を覚ましたばかりのリゼは、そのことを知らずにいつも通りの朝を過ごしていた。
日課の瞑想を行う。
雑念を振り払っていた。
上手くいけば数秒で出来るが、調子が悪いと何分も掛かる。
今日は調子が悪いのか、いろいろと考えてしまう。
やはり、新しい小太刀を試したい気持ちが抑えきれないからだろう――。
「おはようございます」
「おはようございます、リゼさん」
兎の宿の看板娘ニコルに挨拶をする。
「朝から町が騒がしいけど、なにか事件でもあったんですか?」
「事件といえば事件ですが、町に来ているバーナム曲芸団を見ようと、町の人たちが大騒ぎしているんですよ。他のお客さんも席を取ると言って、朝早くから出て行っていますしね」
「そんなに人気なんですか?」
「そうですよ。今回の滞在は三日間らしいですが、今日中に席は全て売れるんじゃないですかね」
リゼは予想以上の人気に驚く。
「なかには熱狂的な人たちは、全ての公演を見るようですしね」
「そうなんですか」
アリアーヌとティアーヌと約束をしたわけでは無いが昨日は公演を見に行こうと思っていたので、リゼは朝食を取らずにバーナム曲芸団の入場券を取るために急いだ。
(凄い人だ……)
川原に列が出来ていた。
最後部が何処なのかさえ分からない。
リゼは最後尾を探しながら歩く。
「すみません。バーナム曲芸団の入場券の列でしょうか?」
リゼは思い切って声を掛ける。
「はい、そうです。と言っても、購入できるか分かりませんけどね」
答える男性は苦笑していた。
自分でも購入出来るか分からない列に並んでいることを、受け入れたくないようだった。
「ありがとうございます」
リゼは男性の後ろに並ぶ。
数分すると、リゼも新たに来た別の男性から声を掛けられる。
それは先程、リゼが質問した「バーナム曲芸団の入場券の列か?」だった。
次々とリゼの後ろにも列ができる。
列に並んでいると、一度に変える入場券は二回までで最高四席らしい。
別日にも講演したい見たい人は再度、列に並び直す必要があったらしい。
このバーナム曲芸団の入場券を購入出来なかった人に売買する人もいるらしい。
その場合、今の販売価格の二倍から三倍で購入する必要があるらしい。
こういった曲芸団について回り、こういったことで生活している人たちもいることをリゼは知った。
人気の曲芸団であれば、必ず売れる。
曲芸団側も売らない理由がないので、分かっていても売らざるをえない。
列に並んだだけで、いろいろな情報が耳に入ってきた。
次に公演する都市や町や、昨年とは違う演目がなんだとかだ。
熱狂的な人たちがいるとニコルが言っていた理由を実感する。
「おいおい、横から入ってくるなよ」
「あぁ! 何言っているんだ。少し列から離れて戻っただけだろうが!」
「嘘つくな! 最初から、お前なんていなかっただろうが!」
前の方で、大声をあげている。
どうやら列の横入りによる喧嘩のようだ。
並んでいた人の仲間が入ったことで、順番を守らないということで喧嘩になっているようだった。
当然、見回っている衛兵たちの目に止まり、事情を聞かれていた。
列を守らないその人たちは、衛兵に連行されていった。
「ざまあみやがれ」
周りから拍手が上がっていた。
連れてかれた人たちは、入場券を高額で再販売するグループの人たちだったらしい。
バーナム曲芸団は興行するために領主への挨拶を必ずする。
円滑に興行をするためだ。
その際に、衛兵に協力を依頼することがある。
治安のいい領地であれば、興行に来てくれる回数も増える。
そうなれば領民たちも喜び、領地が活性化する。
それを一部の者たちの横暴を許せば、領民たちの不満は爆発する。
それは曲芸団でなく、衛兵や領主へと矛先が変わるのだ。
このオーリスの領主カプラスは、不正を許さないので治安を守らないということで、強制連行させることにしたようだ。
しかし、入場券の再売買では罪にならないので、連行して話を聞くだけだ。
そこで逆らうようであれば、罪を重ねることになるのでカプラスの思い通りになる。
しかし、彼らもいろりろな土地で同じような経験をしているので、逆らうことはしない。
この土地で収入が少し減っても、別の土地で稼げばいいと思っているからだ。
少しずつだが前に進んでいたが、暫くすると全く進まなくなった。
そして――。
「申し訳御座いません。オーリス公演の入場券は全て完売致しました」
リゼの並んでいる遥か前で、完売を伝える声が響く。
「やっぱり駄目だったか。寝坊さえしなければ……」
前に並んでいた男性は悔しそうだった。
しかし大半の人たちは、購入できないことを想定したのか「仕方ない」という表情で、列から早々に去って行った。
リゼも購入できなかったことで、アリアーヌとティアーヌに申し訳ない気持ちになる。
最終日、オーリスを去る際に挨拶だけはしておこうと思い、列を離れる。
――――――――――――――――――――
リゼの能力値
『体力:三十四』
『魔力:十八』
『力:二十二』
『防御:二十』
『魔法力:十一』
『魔力耐性:十六』
『素早さ:六十六』
『回避:四十三』
『魅力:十七』
『運:四十三』
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