第111話
リゼの質問にデイモンドは、快く応えていた。
デイモンドの中にあった蟠りが、すこしずつ解けていった。
リゼも又、今まで疑問に思っていたこと、冒険者として知りたいことを聞ける機会だと思い、思いつく質問を全てしていた。
これが、顔見知りの冒険者だったら、逆に恥ずかしくなり聞けなかっただろうと、リゼはデイモンドに質問をしながら思う。
「その……デイモンドさんもランクAを目指していたんですか?」
話の流れから、リゼはデイモンドに聞きづらい質問をした。
「リゼは……ランクAを目指すのか?」
「はい」
リゼは即答した。
「そうか……俺もランクAを目指していた。というよりも、有名になって俺の名が世界に轟くような冒険者になりたかったんだがな」
昔の夢と現実との差に、デイモンドは右足を見ながら苦笑いをする。
「どうして、冒険者の大多数がランクBなのか――リゼは分かるか?」
「簡単にランクAになれないからですよね」
「その通りだ。しかし、ランクBでも実力差が大きく開いているとは思わないか?」
「……はい。確かに、一括りにランクBとするのには、実力の差が開いていると思います」
「だろうな。――昔はランクBになるにも難しかったと聞いている。しかし、貴族の連中が学習院卒業をランクBの冒険者同等としたことで、冒険者ランクのバランスが崩壊してしまったんだ」
「それは、私も聞いたことがあるな」
ヴェロニカが話に加わる。
昔は、学習院を卒業してもランクDだった。
冒険者ランクとしては、最低ランクになる。
つまり、学習院を卒業しても最低ランクから始めるのが当たり前だった。
しかし、貴族たちは自分の子供が野蛮な冒険者と同じ扱いを受けることを、良く思っていなかった。
ランクDからランクC、そしてランクCからランクBへの昇格を徐々に緩くしていった。
その結果、ランクDからランクBまで短期間で昇格できるようになってしまう。
しかし、それでも腑に落ちない貴族たちは、別の方法を取ることにした。
学習院自体を、冒険者よりに変更するということだった。
そもそも学習院とは、貴族の子供同士の繋がりや、派閥などを確認することだった。
貴族の子供以外も学習院にはいたが、貴族に媚びる者が多かった。
貴族たちは資金提供という名目で、学習院への影響力を徐々に強めていく。
そして、学習院卒業間近の生徒と、ランクBの冒険者とで模擬戦を行い、学習院で学べばランクBの冒険者にも劣らないことを証明することにした。
その時代は冒険者ギルドも腐敗していたので、貴族のいいなりに近かった。
相手の冒険者は、貴族の息の掛かった者になり、通貨で買収をしているので簿王権者が模擬戦で勝利をすることは無く、学習院の優秀さを見せつけるだけの場となった。
その結果、学習院を卒業すればランクBの冒険者となり、冒険者といえばランクBという一般認識が広まってしまう事態となった。
名誉を重んじる貴族たちは、ランクAへの昇格も考えていたが、ランクAになれば自分たちの力以上の権力によって、危険なクエストをする可能性もある。
危険を冒してまで、自分の子供たちをランクAにする必要がないと考えたため、ランクAへの昇格は厳しい条件のままとなっていた。
その後、数代前の国王がギルドと貴族の癒着により、魔物討伐も滞ってしまい国政にも影響がでる事態となり憤慨する。
その時、学習院とギルドへの癒着が大きかった貴族たちは処分されることになる。
それから徐々にギルドも正常化していき、貴族からの干渉は無くなっていったが、一度変えられたシステムを、再度変更することは難しく現在に至る。
「そうだったんですか」
リゼは話を聞きながら複雑な気持ちだった。
貴族のしたことは許せない行為だったが、そのおかげでランクBまで短期間で昇格できた。
「ランクAは特別な存在だ。ランクAがあるからこそ、腐らずに日々精進している冒険者も多い。そこだけが唯一の救いだ」
デイモンドは右足を何度か、さすりながら遠い目で語った。
「リゼはまだ、若い。冒険者以外の職業も選択肢に入れてもいいと思うがな」
「いいえ、私は冒険者で生きていくつもりです」
「……即答か。なら、オーリスに一ヶ所だけある
「おい、デイモンド‼」
「いずれは挑むことになる。ランクAを目指すのであれば、
今、リゼたちがいるオーリスは”エルガレム王国”の領地になる。
ラバンニアル共和国は隣の国になるが、この世界では冒険者ギルドは、ギルド組合という独立した組織の所属だ。
各国により、ギルドの形態は少し変わる。
そのため、冒険者の資格を持っていても、各国での審査が必要となる。
エルガレム王国はラバンニアル共和国よりも大きな国だが、冒険者たちが多く集まり、日々迷宮のクエストをしているため、冒険者の質では世界でも一、二を争うレベルだった。
エルガレム王国から、迷宮都市バビロニアへ行く冒険者もいるが、挫折して戻ってくる者や、
しかし、ランクAを目指す冒険者は必ずといっていいほど、ラバンニアル共和国の迷宮都市バビロニアを訪れているという噂が広まっている。
そのため、毎年迷宮都市バビロニアを目指す冒険者が減ることは無かった。
リゼも迷宮都市バビロニアのことは、聞いたことがあった。
しかし、今の自分の実力から考えても、他国に行くという選択肢はなかった。
せいぜい、王都に行く程度だったからだ。
以前にアイリにも、
「例えば、オーリスを出るとしたら王都に向かうべきですか?」
「そうだな――エルガレム王国内ということで、いいか?」
「はい」
デイモンドは少し考えていた。
リゼは、この質問ができることに感謝していた。
世話になっているオーリスの冒険者に聞けば、裏切り行為にも感じていたからだ。
今、銀翼のメンバーが居たら、同じ質問をしていたかも知れないだろう。
「敢えて言うなら、産業都市アンデュスだな」
「……産業都市?」
「あぁ、この国だけでなく、世界の最新情報が行き交う所だ。そこで情報を得ながら、その時の状況にあった場所に向かえば良いだろう」
「最新情報……そこで名匠の情報も得られますか?」
「名匠か――。それは難しいだろうな」
「そうですか……」
リゼはクエスト『名匠による武器の製作』に焦っていた。
情報を得れば得るほど、名匠に武器の制作はおろか、会うことさえ難しいことを痛感していたからだ。
期限の五年という月日は、あっという間に過ぎてしまうことを恐れていた。
「名匠の作った武器や防具に憧れる気持ちは、良く分かるが……長く冒険者を続けたいのであれば、高い理想や目標は諦めた方がいい」
理想を追ったところで、虚しい現実が待っていることを誰よりも知っているデイモンドだからこそ、言葉に重みがあった。
リゼはデイモンドから聞けるだけの情報は全て聞き出すつもりだったのか、いろいろと質問を繰り返す。
デイモンドも、こういった状況が久しぶりだったのか、次第に打ち解けていった――。
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