第105話

「待った?」

「いいえ」


 リゼはコファイと待ち合わせをして、オーリス図書館へと向かった。

 オーリス図書館は、リゼが想像していたのよりも小さな建物だった。

 入館すると、冒険者の証であるプレートを受付に見せる。

 本物かの確認をして、問題無いと判断されたので入館を許可された。

 オーリス図書館は二階建てで、一階は歴史に関する書籍や生産系の書籍が並んでいるそうだ。

 冒険者関係の書籍は二階にあるそうなので、コファイは二階へ移動しようとする。


「私は一階で本を探してみます」

「そう……じゃあ、時間が来たら受付に集合で」

「はい」


 コファイと別れたリゼは、急いで名匠についての書籍がないかを探す。

 武器や防具の歴史や製造方法などの書籍が多く、リゼの読みたい書籍は見つからないまま、時間だけが経過していく。

 リゼの目が本棚の一角で止まった。

 そこには”名匠の歴史”、”名匠カシムとスミスのアイテム一覧”。

 名匠というタイトルが入っている書籍だった。

 リゼは”名匠カシムとスミスのアイテム一覧”を手に取る。

 カシムとスミスが製作したアイテムが載っていた。

 二人ともドワーフの国”ドヴォルグ”でアイテム製造を行っていると書かれている。

 尚、二人の作ったアイテムは国外に出されることが、殆どないため高額で取引される。


 最後まで読み終えたリゼは落胆する。

 ドワーフの国”ドヴォルグ”は入国することが、とても難しいことは知っていた。

 冒険者では入国など出来ないことは常識だった。

 つまり、カシムとスミスがドヴォルグにいるということは、武器や防具の制作を依頼するのは絶望的だということだ。

 残るのは、オスカーと言われる人物だけだ。

 もう一冊の”名匠の歴史”を呼んでみたが、大半がカシムとスミスのことだった。

 オスカーはたまに名前が出てくるくらいだったが、製作されたアイテムの殆どが”ユニーク”だという事くらいしか載っていない。

 現在の状況などは、なにも載っていなかった。


(……罰則か)


 リゼはクエストを諦めることにする。

 雲をつかむような存在であるオスカーを見つける自信を無くしていた。


(でも、この武器って魅力的だな)


 オスカーが製作したと言われる短刀の絵が描かれていたが、とても綺麗に思えたからだ。

 リゼは、その後も諦めてはいたが、他に書籍がないかを探す。

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

(やっぱり、ないな)


 一階を探し終えたリゼは二階へと移動する。

 そして、一階と同じように名匠に関する書籍がないかを探す。


「あれ、リゼ。二階に上がってきたの?」

「はい。一階で探している本が見つからなかったので」

「何の本を探しているの?」


 コファイの質問に、リゼは答えるのを戸惑う。

 自分のような者が名匠に関する書籍を探していると知られたら、笑われると思ったからだ。


「……その、名匠に関する本です」

「名匠? ……あぁ、バクーダに刺激されたんだね。僕も昔、読んだけど凄いアイテムばかりだったよ。確か……”名匠の歴史”だったかな」

「あっ、その本は一階にあったので読みました」

「そうなんだ。だけど、二階に名匠に関する本があったかな?」

「少し探してみます」


 リゼはコファイの横をすり抜けて、名匠に関する書籍の探し始める。

 しかし、二階は冒険者関係の書籍が多いため、魔物や戦闘方法や、必要なアイテムの説明などが書かれた本が多数を占めていた。

 やはり、名匠に関する書籍は無かった。

 そもそも、ドワーフに関する本なので数が少ない。

 もっと大きな図書館……王都図書館であれば、もしかしたらとも考える。


(……行く価値があるかな)


 リゼは王都まで行って、何も収穫が無かった時のことを考える。


(どちらにしろ、罰則でのステータスが戻るまでは無理しない方がいい)


 自分の能力が罰則により落ちているため、元に戻るまでは無理はしないと考え直す。

 コファイと約束した時間まで、あと少ししかない。

 リゼは一階に下りて、もう一度探すことにした。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「遅かったな」


 リゼとコファイはオーリス図書館を出て、ギルド会館に到着する。

 二人の姿を発見したサルディが、声を掛けた。


「バクーダは?」

「まだ来ていない。もうすぐ、来るだろう」


 サルディが答えると、ギルド会館の入口からバクーダが姿を現した。


「皆、早いな」

「いや、バクーダが遅いだけだろう」

「そうか? それより、報酬の使い道は決めたのか?」


 嬉しそうなバクーダが、サルディとコファイに報酬の使い道を尋ねる。


「僕はブックを購入するつもりだよ。支援魔法でなく、攻撃出来るブックを幾つか考えている」

「俺は……今の装備でも十分だから、とりあえずは貯めるかな。バクーダは武器を新調するのか?」

「そうしたいんだが、取り置きして貰っているアイテムバッグを購入しようと思っている」

「そうだな。アイテムバッグは持っておいた方がいいしな」

「そういうことなら、僕もアイテムバッグ購入にしようかな」


 バクーダがアイテムバッグ購入することで、コファイは肩身が狭くなったのか、意見を変える。


「コファイはブック購入だろう。俺とバクーダがアイテムバッグを持っていれば、余程の遠出でなければ必要ないしな」

「そうそう。俺たちの参謀なんだから、気にする必要は無いってことだ」


 サルディとバクーダはコファイの意見を一蹴する。


「それで、リューヘンは?」

「先にギルマスたちと会っているそうだ」


 時間よりも先にギルド会館に着いたサルディは、リューヘンと会って話をしたそうだ。


「じゃあ、ギルマスの所へ行きますか」

「そうだな」


 サルディが代表で受付に行き、全員揃ったことを伝える。

 受付嬢が忙しかったのか、クリスティーナがリゼたちを案内してくれた。

 二階に上がり、部屋の扉を二回叩く


「ギルマス。クリステーナです」

「どうぞ」


 部屋の中からニコラスが返事をする。

 クリスティーナが扉を開けると、ニコラスとフリクシンの向かいに、リューヘンが座っていた。

 ニコラスに言われて空いている椅子に座る。


「先に先日討伐したバーサクロコダイルの買取価格だが、白金貨十二枚だ」


 ニコラスの言葉に、バクーダは口もとが緩む。


「それで分配だが、リューヘンから白金貨二枚だけでいいと申し出があった」

「……俺は何もしていないからな。本当であれば、白金貨二枚貰うのも変な話だ」

「残りの白金貨十枚を、君たち四人で分けるということでいいかな?」


 サルディは、リゼたち三人の顔を見ると、三人とも頷く。


「はい。それで構いません」


 ニコラスにサルディが答える。


「じゃあ、俺はこれで」


 リューヘンが席を立つ。


「お前ら、頑張れよ」

「リューヘンは、次の町に行くのか?」

「いいや。俺は冒険者を引退して、故郷に帰る。ヒューゴルやジモロンドのことも報告しなくちゃいけないしな」

「同郷だったのか?」

「あぁ、俺たちは幼馴染だったからな」

「そうか……もう、町を出るのか?」

「荷物も少ないから、夕方に町を出る商人一行と一緒にな」

「元気でな」

「お前らもな」


 サルディと会話を終えたリューヘンが部屋から出ていく背中は寂しそうだと、サルディたちは感じていた。

 リゼは知っている冒険者が引退するのを始めて見たため、少しだけ動揺をしていた。

 リューヘンも悩んだうえで出した答えだと分かっていたが、あまりに呆気ないものだと――。


 リューヘンはクリスティーナと一緒に退室する。


「今回のクエストの報酬だ」


 バーサクロコダイルの買取とは別の、クエスト報酬がリゼたちの前に置かれた。

 他の冒険者たちは既に受付で報酬を受け取っているらしい。

 フリクシンが討伐した、バーサクロコダイルの報酬も上乗せされているので、受注した報酬よりも多かった。


「報告書を読ませてもらったが、本当にありがとう。ギルマスとして礼を言わせてもらう」


 ニコラスは立ち上がる。同時にフリクシンも立ち上がると、二人して頭を下げた。

 リゼたちも立ち上がろうとしたが、ニコラスたちが頭を下げるほうが早く、サルディたちも戸惑っていた。


「君たちは、そのままで構わないよ」


 頭を上げたニコラスが、戸惑うリゼたちを落ち着かせるかのように話す。

 座ったニコラスは、オーリスの水路の破壊は、自然なものでなく故意に破壊されたものだと話した。


「それって……」

「誰かがオーリスでの混乱を画策したのかも知れない」

「でも、どうして――」

「目的は分からない。今まで以上に警戒を強める必要があることには違いないだろう」


 ニコラスの言葉に緊張感が走る。

 町の警護は騎士団の仕事だから、冒険者がすることはない。

 しかし、町に危険が迫れば騎士団と一体になり、町を守る必要がある。

 なにより、敵の正体や、オーリスを狙う理由が分からないため、対策が出来ない。

 不穏な空気が部屋を包んでいた――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る