第101話
「おいおい……なんで、こいつが水路にいるんだよ」
他の冒険者が魔物と戦っているのを発見したサルディが叫ぶ。
戦っていたのは、”バーサクロコダイル”
凶暴な鰐に似た魔物で、数分であれば二足歩行になり前足で攻撃を仕掛けてくる。
ランクBの討伐対象となる魔物だが、討伐人数は五人以上だ。
このオーリス周辺では、殆ど生息していない魔物のため、星天の誓の三人も、知ってはいたが、実物は初めて見る。
「大丈夫か‼」
バクーダが慎重に近付き、冒険者の安否を確認する。
バーサクロコダイルの横に一人倒れている。
一目で絶命していると、駆け付けたリゼたちは感じていた。
「おい、リューヘン‼」
戦っている冒険者はリューヘンで、もう一人の左腕に怪我をしていたがヒューゴル。
倒れているのは、ジモロンドだった。
「おぉ、バクーダ助けてくれ‼」
涙目のリューヘンが、バーサクロコダイルに背を向けて走ってきた。
リューヘンの行動に合わせるかのように、ヒューゴルも走る。
「とりあえず、逃げるぞ‼」
バクーダは逃走することを決意する。
「でも、ジモロンドが‼」
リューヘンが振り返るとジモロンドの体は、バーサクロコダイルに引き千切られていた。
「すまん……成仏してくれ‼」
リューヘンは叫びながら走り続けた。
・
・
・
・
・
・
・
「はぁはぁ、追手は来ないようだな」
分岐していた場所まで走り切るのは厳しかったので、途中で休憩する。
後ろや水路の様子を確認して、安全は確保する。
とりあえず、ヒューゴルの手当てを優先する。
ヒューゴルの持っていた体力回復薬は、バーサクロコダイルに全て割られてしまったようなので、コファイが自分の持っていた体力回復薬を分けてあげていた。
「何があったんだ?」
「それがだな――」
リューヘンは、一部始終を話し始めた。
昨日同様に、三人で水路の調査をしていた。
とくに問題もなく、簡単なクエストだと笑いながら奥へと歩いていくと突然、水路からバーサクロコダイルが現れて、ヒューゴルに襲い掛かったそうだ。
水路から少し離れた壁際を歩いていたことが幸いして、左腕の怪我だけで済んだが、転倒した時に体力回復薬が割れて、武器は水路に落としてしまったそうだ。
これ以上は奥に進むことは危険だと判断した三人は、出来るだけ三人で固まり、少しずつ後退していたが、すぐに水路の中からバーサクロコダイルが追撃をしてきた。
しかも水路に上がってきたため、武器を落としてしまったヒューゴルは戦えず、リューヘンとジモロンドの二人で相手をすることになる。
地上に上がってきたのであれば、逃走しやすいと考えたリューヘンは二人に告げるが、バーサクロコダイルの皮は一級品で高く買い取ってもらえる。
状態が悪くても最低三ヶ月は普通に暮らしていけるような上級素材だ。
欲に目が眩んだジモロンドは一人で、バーサクロコダイルに向かって行ったそうだ。
当然、リューヘンとヒューゴルが止めようとしたが、それよりもジモロンドの行動は早かった。
その結果……。
話し終えたリューヘンは泣いていた。
コファイがリューヘンを慰める。
「とりあえず、叫ぶか!」
分岐点との距離も近いので、他の誰かにも聞こえるかも知れないと思ったヒューゴルが提案をすると、リューヘンも同意した。
「しかし、バーサクロコダイルが追って来ないか?」
「……ジモロンドを食べているから大丈夫だろう」
サルディの心配をよそに、仲間の発言とは思えない言葉でヒューゴルが返す。
自分の命が大事なのは仕方がないと思いながら、リゼと星天の誓の三人は、ヒューゴルの発言に不快感を感じていた。
「助けてくれーーーーーー‼」
同意を得る間もなく突然、ヒューゴルが叫んだ。
「おっ、おい‼」
流石に仲間のリューヘンも驚く。
サルディたちは水路や周囲を警戒すると同時に、勝手な行動をするヒューゴルに怒りを覚えていた。
とりあえず、注意しながら歩きながら分岐していた場所まで戻ることにする。
リューヘンとヒューゴルを中央にして守るように歩く。
先頭はバクーダで、次が【ライトボール】で周囲を照らすコファイ。
最後尾はサルディで、リゼはその前を歩くことになった。
常に後ろを気にしながら歩くサルディの負担を少しでも減らすように、リゼも水路に変化がないかを気にしていた。
「おぉ、もうすぐ分岐点だ」
ヒューゴルが嬉しそうに話す。
しかし、リゼは水路から、ゴミでない物体が表面に浮かんでいるのを発見する。
「水路にバーサクロコダイルがいるかもしれません」
「ひぇーーーー‼」
リゼが叫ぶと、ヒューゴルは前を歩いていたコファイとバクーダを押しのけて自分だけ逃げようとした。
しかし、バクーダの横を抜けようとした時、足を滑らせて水路に落ちてしまった。
「たっ、助けてくれ‼」
一瞬、沈んだヒューゴルが水面に顔を出す。
「捕まれ!」
バクーダがヒューゴルに手を伸ばすと、ヒューゴルも必死で手を伸ばす。
しかし、ヒューゴルは防具の重みで上手く泳ぐことが出来ず、バクーダの手を掴むことが出来いでいた。
「危ない‼」
リゼが叫ぶと、水面が盛り上がり、バーサクロコダイルの口が大きく開き、ヒューゴルの首を挟むと水中へと消えていった。
そして、水面には赤い模様が浮かんできた。
「ヒューゴル‼」
リューヘンは水面に向かって、仲間の名を叫んだ。
「気を付けろ!」
サルディは警告する。
リゼも戦闘態勢を解くことなく、周囲を警戒していた。
それはコファイや、バクーダも同様だった。
「……まずいですね」
「何がだ、コファイ?」
「水面の血が水下に移動しています。つまり、バーサクロコダイルがこの先、待ち構えている可能性が高いです」
冷静に状況判断していたコファイの発言に、リゼたちは愕然とする。
つまり、自分たちは逃走経路を塞がれてしまった。
戦闘になれば逃げることが出来ないということだからだ。
「やるしかないな」
「あぁ」
バクーダとサルディは意思を固める。
それはリゼも同じだったが、スライムやジェットモウルの討伐とは緊張感が違う。
死を感じることは初めてだった。
もしかしたら、別の場所に移動していることも考えられたので、リゼたちはゆっくりと分岐点へと歩くことにした。
しかし、リゼたちの思惑は大きく外れた。
すぐに、水下からバーサクロコダイルが姿を現した。
「ちっ!」
バクーダが舌打ちをする。
なぜなら、水路の両側にある道だと、剣が壁に当たってしまい、思うような攻撃が出来ない。
「リゼ……いけるか?」
「はい‼」
「バクーダはリューヘンの護衛を、コファイは援護を頼む」
「分かった」
「了解です」
サルディも、この場所で剣士が戦いにくいことは知っていた。
となれば、戦闘できるのは拳闘士の自分と、盗賊のリゼしかいない。
コファイはバーサクロコダイルに直接、ダメージを与えることが難しい。
この場所では、戦闘出来るスペースが無いため、多くて二人が限度だ。
リューヘンの職業は剣士だが、主に
とても戦力にはならない! と判断をする。
それに、リューヘンの実力も知っているサルディは敢えて、リューヘンよりもリゼを選んだ。
「皆さん、目を閉じてください」
コファイが叫ぶと同時に、リゼは目を瞑る。
「【フラッシュ】!」
辺り一面が眩い光に包まれる。
「ぎゃぁぁぁぁ‼」
突然の光で咄嗟に目を覆うバーサクロコダイル。
そして、同じように「め、目が‼」と叫ぶリューヘン。
「おりゃ!」
サルディが、バーサクロコダイルの背中に拳を入れる。
「……思ったよりも、固いな」
ダメージを与えられなかったと感じたサルディは、苦笑いをする。
リゼも小太刀で切ろうとするが皮が固いため、思ったよりも傷を負わせることが出来なかった。
バーサクロコダイルも攻撃を受けたことが分かったので、目を瞑ったまま二足歩行になり、両腕を振り回していた。
サルディは水路に逃げ込まれないように、なんとか蹴りなどでバーサクロコダイルを壁へと押し付けていた。
気付くと、バーサクロコダイルの左側をサルディが、右側をリゼが攻撃していた。
攻撃をしながらリゼは、以前に呼んだ魔物図鑑のバーサクロコダイルの情報を思い出す。
魔物なら弱点があったはずだ――。
(あっ!)
リゼはバーサクロコダイルの弱点を思い出した。
視力が回復してきたバーサクロコダイルは、何度も攻撃を仕掛けるサルディが鬱陶しいのか、サルディを睨むように体勢を変えようとする。
リゼはバーサクロコダイルの脇腹に小太刀を突き刺す。
バーサクロコダイルが痛みで叫ぶと同時に、リゼに腕を振り下ろして反撃をする。
リゼは反撃を予想していたので、すぐに小太刀を抜くと、後ろに下がった。
バーサクロコダイルの標的が、サルディからリゼに変更された。
しかし、リゼは間髪入れずに攻撃を再開する。
二足歩行している今でないと、脇腹への攻撃が出来ないからだ。
バーサクロコダイルの顔を見ながら、微妙に位置を変更している。
バーサクロコダイルの弱点は、脇腹と死角だった。
大きく長い口のため、口を開いた時にも周囲が見えるようにと、口を開いた部分は死角となる。
つまり正面は全く見えないのだ。
だから、二足歩行になったとき半身で構えるような姿勢を取っていた。
リゼは、この死角から攻撃をくり返す。
情報共有するように、バーサクロコダイルの弱点を皆に伝える。
「分かった!」
サルディが背後から脇腹を攻撃しようとすると、バーサクロコダイルは体を反転させてサルディへ攻撃をする。
しかし、その瞬間にコファイが二回目の【フラッシュ】で、バーサクロコダイルの視力を奪う。
又も、バーサクロコダイルとリューヘンが、先程と同じように叫び声をあげた。
バーサクロコダイルは二足歩行を止めようとするので、サルディが強引に壁へとバーサクロコダイルの体を押し戻した。
「任せろ‼」
リューヘンの護衛をしていたバクーダが剣を水平に構えたまま、リゼが傷つけた場所を斬り付けた。
バーサクロコダイルからは大量の血飛沫があがると、そのまま腹を天井に向けて倒れた。
「バクーダ、危ないだろう!」
「サルディなら、避けてくれると確信していたんだよ」
「ったく……」
バクーダが斬り付ける水平の軌道を確認したかのように、ギリギリで寝転ぶようにバクーダの攻撃を回避していた。
一瞬の出来事だったが、リゼは目を奪われた。
「おい、リゼ!」
呆然としていたリゼにサルディが声を掛ける。
慌ててサルディのほうを向くと、サルディとバクーダ、コファイの三人が自分に向かって、拳を出していた。
「早く!」
急かされるようにして、リゼも同じように拳を出すと、三人がリゼに拳を押し付ける。
「クエスト完了だな!」
サルディは嬉しそうに笑うと、バクーダとコファイも笑顔だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます