第100話

 ギルド会館の前は、多くの冒険者で溢れかえっていた。

 ここにいる冒険者たちは、自分と同じクエスト『地下水路の調査』を受注したのだと、リゼは周りを見ていた。

 時間になると、ギルマスのニコラスが現れて説明を始めた。

 昨日の調査範囲よりも、より広い範囲で調査をするらしい。

 地下水路は途中で幾つ水路が分かれているので、大きく二班に分ける。

 ギルマスのニコラスが指揮する班と、サブマスのフリクシンが指揮する班だ。

 適当に二班に分けられたので、リゼはフリクシンの班になる。


「リゼも、こっちか」


 リゼが振り向くと、声の主はサルディだった。

 その後ろには、星天の誓のバクーダとコファイの二人もいた。


「はい。星天の誓の皆さんは、昨日も参加されたのですか?」

「もちろん! こんなに報酬のいいクエストは、なかなかないからな」


 リゼの質問に、バクーダが答えた。


「リゼは……昨日、いなかったよな?」

「はい。このクエストが貼りだされる前に、別のクエストを受注していたので、今日が初めてです」

「そうか。人数も昨日よりも多いようだし……リゼさえよければ、俺たちと一緒に行動するか?」

「……お願いします」


 リゼは一瞬躊躇したが、星天の誓の三人であれば、全く会話をしていない冒険者と比べて、少しは気が楽だと感じたので、バクーダの提案を受け入れる。


「昨日と同じであれば、地下水路が分かれるたびに、更に細かく班を分けると思うしな」

「そうなんですね」


 リゼは星天の誓の三人から、昨日の話を聞かされる。

 昨日、問題の地下水路を奥まで進み、幾つかの細かくわかれている水路も調査をしたが、それらしい痕跡が見つからなかったようだ。

 水路と言っても、オーリスの外では川になる。

 よって、外部からオーリスに侵入出来ないようにと、町の境界には柵が設置されている。

 定期的に確認はしているそうだが、昨日の調査で川上に設置されていた柵の一部が破壊されていたそうだ。

 その為、そこから魔物がオーリスに侵入した可能性も視野に入れて、今日の調査は討伐も含めたクエストになると教えてくれた。


「あっ、ギルマスが続きの説明をするようだ」


 班を分け終えたところで、ニコラスが説明の続きを始めた。

 オーリスに滞在する冒険者の多くが、今回のクエストに参加しているので、一度に地下水路に入ることが出来ないので、先にフリクシンの班から地下水路に入り、途中の分岐点で左側の水路を進む。

 ニコラスたちの班は、反対の右側を進むそうだ。

 その後、細かい分岐に関しては、ニコラスとフリクシンの指示に従い、細かい班に分かれて対応をすること。

 魔物を発見して、そのまま討伐に成功すれば、その魔物の素材は討伐した班もしくは、討伐に参加した班に優先権が与えられる。

 しかし、討伐が難しいと判断をしたら撤退するようにと、念押しされる。

 戦闘になれば、近くにいるものであれば、音で判断も可能なので、その点も考慮して調査をするようにとも説明を受ける。


「質問はありますか?」


 最後にニコラスの言葉に、誰も返す冒険者がいなかった。


「じゃぁ、行くぞ‼」


 フリクシンは叫ぶと同時に歩き出す。

 リゼも遅れないようにと、星天の誓の三人と一緒に歩いていく。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 地下水路の入口に到着する。

 事前に用意しておくようにと言われていた松明に火を付ける。

 説明通り、フリクシンたちは最初の分岐点で左側を進む。

 その後も幾つかの分岐点で、フリクシンが指示を出して三~五人を一班として、幾つかの班が分岐点を分かれていく。

 水路には数字が書かれているので、水路内で迷子になることは無い。

 もし、迷子になっても、川下に向かって歩いていけば出口に辿り着くことが出来る。


「次は……バクーダ。お前たちで頼む」

「了解です。リゼも一緒に行きますね」

「ん? リゼは星天の誓に入ったのか?」

「違いますよ」


 バクーダは笑いながら、フリクシンの誤解を解く。


「気を付けろよ。それと、絶対に無理をするな」

「はい‼」


 リゼは星天の誓と一緒に、地下水路の調査を始める。


「松明は消していいよ」


 歩き始めてすぐにコファイが光属性の魔法【ライトボール】を発動させた。


「やっぱり、松明よりも明るいな」

「コファイのおかげで、かなり楽だよな」

「そんなことないよ」


 サルディとバクーダに褒められたコファイは、少し照れていた。

 その後も奥へと進むが、鼠をたまに見かける程度で、魔物や、その痕跡は見当たらない。

 フリクシンたちと別れた場所に書かれた数字で、この先には地下水路の分岐が無いことは説明を受けたので知っていたので一本道をひたすら進む。


「しかし、臭いな」


 あまりの悪臭にバクーダが顔をしかめる。


「僕、昨日の夜は食欲無かったですからね」

「俺も部屋に着いて、服を脱いだ時、改めて臭さに気付いたからな」


 和やかに談笑をしながら進んでいたが、突き当りまで来る。


「異常なしだな」


 サルディが問題無いと判断する。

 それはバクーダやコファイも同様だった。

 

「戻るか」


 リゼたちは、今来た道を戻るため引き返す。


 戻っている最中にリゼは、星天の誓の三人に聞きたいことがあったので、意を決して聞くことにした。


「あの……お聞きしたいことがあるのですが」

「おぉ、リゼから話し掛けてくれるなんて、珍しいな。なんだ?」

「その、気を悪くされたらすいませんが……クラン名に色を入れなかったのは、どうしてですか?」


 リゼは先日、偶然聞いた冒険者たちの言葉が気になっていたのだ。

 サルディたちは互いに顔を見合わせていた。


「なんだ、リゼも噂を信じるほうだったのか?」

「いえ、そういうわけでは無いのですが……」

「まぁ、周りからも散々、反対されたしな」

「そうそう。俺なんて親父や御袋から、そんなに早死にしたいのか‼ って、無茶苦茶叱られたからな」


 バクーダとサルディは笑って話す。


「もし四人目が、このクラン名に不安を感じているんであれば、改名も考えている。俺たちの目標は、強いクランになることだからな」

「そうそう。ただ、僕たちのセンスでは、これ以上のクラン名が無かっただけだしね」

「俺は……色なしのクラン名でも問題無い。ただの迷信だと証明したい気持ちは、少しだけある」


 サルディとコファイ、バクーダの三人は、それぞれの思いを話してくれた。

 たしかにクラン名が色なしだと不安を感じて、新しい冒険者が加入しないことは考えられる。

 そのせいで、有能な冒険者がクランに加入しないのであれば、本末転倒になるとサルディは考えているのだろう。

 その一方で、バクーダの色なしクラン名で、強さを証明したいという気持ちも、リゼには理解できた。

 考え方の違いはあるが、以前に聞いた三人の銀翼への憧れに違いはないので、クランとしての方向性は合っているが――。


 リゼたちは、フリクシンたちと別れた場所に戻ってきた。


「どうする?」

「とりあえず、奥に進むか?」

「そうだね」


 リゼたちは水路の奥へと進むことにする。


「ちょっと、待って‼」


 コファイが足を止めた。

 サルディとバクーダは、意識を耳に集中させる。


「……これって⁈」


 分岐している水路の奥から戦闘しているような音が聞こえる。


「どうする?」

「とりあえず、向かうか‼」


 リゼたちは、音が鳴る水路を奥に向かって走った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る