第79話
ゴブリン討伐に向かっていた冒険者が帰還した。
討伐に向かった冒険者たちが誰一人欠けること帰還したこと、ゴブリンたちを殲滅させたことを知ると、町に残っていた冒険者や、町の人々から歓声が上がっていた。
ギルドマスターのニコラスの隣に、銀翼のリーダーであるアルベルトが立っていたのも大きい。
リゼは遠巻きに、その様子を見ていた。
帰還したアルベルトの近くに、クウガたち銀翼のメンバーも集まっていたことので気が引けていたし、ニコラスたちの所に自分が行ったところで、なんて声を掛けていいかさえも分からなかったからだ。
そんな喜びを噛み締めている場所に、ポンセルが冒険者に肩を抱えられながら現れた。
ポンセルの姿を見た冒険者たちは、視線を逸らしたり、口を閉ざしたりした。
「ギルマス。俺の仲間……タバッタやラレル、メニーラは‼」
ポンセルの言葉に、ニコラスは無言で首を横に振る。
「そうか――いろいろと、ありがとうよ」
ポンセルは仲間の死んだことを理解した。
薄々はポンセルも気付いていた。
だが、僅かな望みでも仲間の生存を期待していたのだった――が、それも叶わなかった。
仲間が死んだことで、ポンセルがニコラスたちを責めることは無かった。
むしろ、討伐隊を編成してくれたことを感謝していたくらいだった。
ポンセルは肩を抱えてくれている冒険者に小声で話をすると、その場から去っていった。
ニコラスはポンセルに声を掛けようとしたが、町の人たちや冒険者から声を掛けられてしまい、慰める言葉さえ言えなかった。
偶然、ポンセルがリゼの方に歩いて来ていた。
リゼは逃げるのも失礼だと思い、歩いて来るポンセルを待っていた。
「……大丈夫ですか?」
「あぁ、大丈夫だ。心配してくれて、ありがとうな」
「暴風団の皆さんは無事だったんですか?」
「……残念だが、俺以外は全員、死んじまったよ」
ポンセルは、話すのを少し躊躇うように、ゆっくりとした口調だった。
リゼも、仲間の死で傷心なポンセルに失礼なことを聞いてしまった……と、後悔をする。
「その……これから、どうするんですか?」
「さぁ、どうするかな。今は何も考えられないな」
リゼはポンセルが、無理をして笑顔で会話をしてくれている感じがしていた。
そのポンセルの笑顔が、リゼには心苦しかった。
自分に心配をかけないようにとする、ポンセルの気持ちが伝わったからだ。
「私はタバッタさんに……いえ、暴風団の皆さんに教わったスライムの倒し方を絶対に忘れません‼」
「……そうか。タバッタも喜んでいるな」
ポンセルは目じりを下げて、少し嬉しそうな表情に変わる。
自分の仲間のことを、誰かが覚えてくれている――そのことが、ポンセルにとって、とても嬉しかったからだ。
暴風団という、有名でもないクラン。
しかし、自分にとっては苦楽を共にした仲間たちがいた誇れるクランだった。
駆け出しの冒険者であるリゼから、そのようなことを言われるとは思っていなかったポンセルは、タバッタに「良かったな!」と心の中で話し掛けた。
「俺のことより、リゼもこれから大変だと思うが頑張れよ」
「はい!」
リゼの返事にポンセルは勇気づけられたような気持になっていた。
年下の女子に――と、ポンセルは自然と笑顔になっていた。
「どうしましたか?」
ポンセルが笑っていることに気付いたリゼは、不思議そうに話す。
「いや、なんでもない。じゃあな」
「ポンセルさんも、お気をつけて」
リゼはポンセルの後姿を見ながら、以前は四人だったのに……と切ない気持ちになっていた。
仲間を持つことは、その仲間の死も覚悟したうえで行動しなければならないことを、ポンセルからリゼは学ぶ。
同時に、リゼはポンセルを自分に置き換えて、「私では耐えられないかも……」と思いながら、
(早くしないと‼)
リゼはギルド会館に大勢の人が集まる前に、クエストを受注しようと思い、ギルド会館へと移動をする。
しかし、既にギルド会館にも多くの人たちが集まっていた。
リゼがギルド会館に入ると、ニコラスたちを出迎えようとしていたクリスティーナと目が合う。
「おはようございます。リゼさん」
「おはようございます。クリスティーナさん」
「丁度、良かったです。ギルマスも戻られたので、リゼさんにお話があるのですが、時間を取っていただけますか?」
「……私に話ですか⁈」
リゼにはギルドマスターであるニコラスと、受付長のクリスティーナから話をされるようなことに、心当たりはない。
(……もしかして‼)
リゼはアルベルトが、このオーリスに来たことが関係してるのでは? と気付く。
そうであれば、理由は一つしかない。
(断ることは出来ない――な)
リゼは自分に選択肢がないことを理解していた。
「分かりました。時間については、お任せします」
「ありがとうございます。では、申し訳ありませんが部屋を用意しますので、御待ち頂けますか?」
「あっ……」
リゼは一瞬、躊躇った。
クリスティーナは、そんなリゼの表情を見逃さなかった。
「本日、リゼさんを拘束する分は、多少ですが保証をさせていただきます」
「いえ、それは……」
クリスティーナの言葉にリゼは戸惑う。
「では、リゼさんは宿泊されている宿で御待ち下さい」
用意された部屋で待つよりも、気が少しでも紛れるだろうと、代案を提示する。
「……兎の宿にいますので、宜しくお願いします」
「承知致しました」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「……アイリ」
「はい、なんでしょう?」
リゼを見送ったクリスティーナはアイリに話し掛けた。
「……今の私は怖かったですか?」
「それは、リゼちゃんに対してですか?」
「そうです」
「……少しだけ、怖かったかもしれませんね」
言葉を選ぶようにアイリは答えた。
「そうですか……」
「あっ、でも……受付長のことを知れば、リゼちゃんも分かってくれると思いますよ」
アイリの言葉に、クリスティーナは表情を変えなかった。
そのことがアイリにとっては、クリスティーナを傷付けてしまったのではないかと、気が気でなかった。
「アイリにレベッカ」
「「はい‼」」
アイリとレベッカは同時に返事をする。
「リゼさんも冒険者の一人です。いつまでも敬称を”ちゃん”では、いけません。今後は、改めるようにしてください」
クリスティーナの言葉に、アイリは親しみを込めて呼んでいたのだが、いつの間にか、冒険者としてのリゼを見ていないのではなかったのか? と、気付く。
「受付長、申し訳御座いません。以後、気を付けます」
レベッカも又、リゼを妹のように思い接していたことで、公私混同していたことに気付かされた。
リゼのような小くて素直な冒険者と、今まで接することが無かったからだ。
「宜しくお願いします」
クリスティーナは表情を変えることはなかった。
以前から気になっていたが、なかなか注意することが出来ずにいた。
アイリやレベッカが、リゼと話をする姿が羨ましかった。
昔の自分の姿に類似していたからだ。
しかし、今の自分の”受付長”という立場では、それを許すことが出来ない。
冒険者と、その担当受付嬢は信頼関係がなければならない。
これはクリスティーナが受付嬢になった頃、当時の受付長から何度も教えられたことだ。
自分が受付長になってからも、その教えを受付嬢たちに話していた。
アイリやレベッカは、リゼの担当受付嬢ではない。
それにリゼは、アイリやレベッカに対して心を許してはいないことは、客観的に見ていても分かっていた。
言い方は悪いが、アイリとレベッカが一方的に距離を縮めているだけだった。
リゼを一人前の冒険者として扱うことを疎かにしてはいけない! というクリスティーナの優しさから出た言葉でもあった。
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