第75話
翌朝、馬小屋に行くと五頭の馬がいた。
馬小屋の主人曰く、疲労も少なめだから昼前には引き渡せると言われる。
アルベルトたちは、今いるディップルから、オーリスまでは馬を使っても二日はかかる。
夜通し走ることは、馬への負担も考えると、どこかの町か村で一泊する必要がある。
野営も考えたが、途中に『ホラル』という小さな町がるので、ホラルで一泊することにした。
馬にはアルベルトとササジール、クウガとオプティミス、ミランとラスティアが二人一組で騎乗する。
アリスとローガンは一人での騎乗だ。
ローガンは体重が重いため、馬への負担を減らす為だったが、アリスは男性との騎乗を頑なに断ったためだ。
銀翼のメンバーは、ディップルを昼前に旅立った。
ホーラルに向かう途中で、何人かの商人たちの馬車とすれ違う。
オーリスでのリゼの事件のことを聞くが、誰も詳しくは知らなかった――。
陽も完全に沈んだころ、アルベルトたちはホラルに到着した。
到着してすぐに、アルベルトは宿の手配をミランとラスティアに頼む。
ローガンとアリスに、ササジールには飲食店での席とりをしてもらう。
アルベルトとクウガに、オプティミスは、馬を預けるために馬小屋へと移動した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「あまり、自分を責めるなよ」
馬小屋に向かう途中、クウガがアルベルトに呟く。
「……大丈夫だよ」
クウガは分かっていた。
アルベルトが自分のことで、誰かが傷付いた――。
そのことに対して、アルベルトは気持ちが不安定な状態になる。
自分の判断が間違っていたとか、自分を責めるような思考になってしまうからだろう。
ノアを失ってから、アルベルトは常に自責の念に駆られてるのだろう。
完璧だと思われているアルベルトの欠点でもあるが、それを知るのは数人のクランメンバーのみだった――。
「二人だけの世界に入って、僕も仲間に入れてよね」
黙っていたオプティミスだったが、自分だけ会話に入れないことを不満に感じていたようだった。
「悪かったな。ほら、以前に話したオーリスであった後輩のことだ」
「その後輩ちゃんが、さっき話していた事件の被害者ってこと?」
「……そういうことだ」
クウガは、横目でアルベルトの様子を伺う。
オプティミスに悪気はないことは分かっているが、アルベルトの様子が気になったからだ。
一方のオプティミスだが、クウガが使う「後輩」という言葉の意味が、孤児部屋出身者だということは知っていた。
一緒に町を訪れたときに、何度も聞いた言葉だったからだ。
しかし、クウガはもちろんだが、アルベルトたちが、そのオーリスで会ったリゼという冒険者に、オプティミスは興味を持っていた。
馬を馬小屋に預けて、飲食店のある通りに移動をする。
通りの両側を見ながら歩いていると、ミランが立っていた。
「宿のほうは、どうだった?」
「あいにくと一人部屋は満室だった。四人部屋を二部屋に、二人部屋を一部屋確保できた」
一人部屋は宿泊代が、もっとも高額になるが人気がある。
反対に八人以上で泊まれる大部屋が、もっとも安い。
その分、見知らぬ者との同室になるため、問題も起きやすい。
安全の面からも、一人部屋が一番なのだ。
中途半端な四人部屋や二人部屋は、それなりに需要はある。
ただし、どうしても四人部屋や二人部屋にこだわる客がいなければ、空室になりやすい。
「ありがとう。それで、ミランが立っているということは大丈夫――」
「あぁ、ローガンとササ爺はすでに始めている」
「まぁ、そうだろうね」
アルベルトは予想通りの展開に苦笑いをする。
ミランが立っていた店は、完全に酒場だったからだ――。
店に入ると、アルベルトたちに気付いたローガンが大きく手を振り、場所を教えてくれた。
アルベルトは席に座ると、明日以降の話を始めた。
早めにしておかないと、酔っ払って覚えていない可能性のほうが高かったからだ。
真剣な表情でエールを飲みながら、全員が予定を把握した。
部屋割りの話になると、二人部屋はローガンとササジールに決定する。
なぜならローガンのイビキで、睡眠不足になるからだ。
ササジールも同じように酒臭いので、酒飲み二人を一つの部屋にするのに、誰も反対をする者はいなかった。
重要な話を終えたので、食事を楽しむことにしようとすると、ローガンから変な噂を耳にしたと、アルベルトに話をする。
オーリスから数キロ離れた場所で、ゴブリンの集落が見つかったそうで、オーリスの冒険者たちが討伐に向かったというのだ。
しかも、ゴブリンのなかには進化種もいるらしく、被害にあった冒険者がいるそうだ。
「進化種か――それは厄介だね。もう少し、詳しく聞きたいね」
「そこの冒険者が話していたから、話なら直接聞いたほうが、いいかもな」
ローガンは立ち上がると、噂をしていた冒険者たちに近付き、話をする。
酔っ払っていたが、エールを一杯奢ることで、交渉が成立した。
「俺たちに聞きたいことって?」
冒険者三人が座れるスペースを新たに作り、椅子を用意した。
「最近、オーリスで起きたことであれば、なんでも教えてくれ」
「あぁ、いいぞ」
冒険者たちは、オーリスについて話し始めた。
リゼの事件についても、町の噂になっていたので知っているようだった。
「そういえば……全身に包帯を巻きながら歩いている子を見たな」
「あぁ、包帯から血も滲んでいたし、町の人たちが例の事件の子だって言っていたよな」
「鬼気迫る感じで、足を引きずりながら歩いていたから、町の人たちも道をあけていたし、よく覚えている」
リゼの意識が戻ったことに、安心するアルベルトたちだったが、リゼが大怪我を負った状態で歩いていたかが分からないでいた。
ゴブリンについては、自分たちが街を出るときに、オーリスの冒険者たちが集まって、討伐に向かったと教えてくれる。
ギルドで受付と話していると、怪我を負った冒険者が意識を取り戻して、ゴブリンナイトや、ゴブリンアーチャーがいると話しているのを耳にした。
助けてあげたい気持ちもあったが、自分たちにも用事があったので、そのままオーリスを出立したそうだ。
彼らの話は、ここまでだった。
「ありがとうな」
ローガンは礼を言いながら、追加でエールを三人に奢りる。
「それよりお姉さんたち、美人だね。このあと、少しだけ俺たちと飲まない?」
「そうそう、もしかしたら楽しいことが待っているかも知れないしね」
「どう?」
酔っ払いの三人は、アリスにラスティア、ミランに声を掛けた。
アリスは銀翼の男性メンバーを見るが、笑っているだけだった。
「楽しいことって何かしらね。ラスティア」
「さぁ、分かりませんけど楽しませてくれなければ、それ相応の覚悟があるってことではありませんか? ミランはどう思いますか?」
「俺たちを楽しませてくれるっていうんだから、それなりに腕っぷしに自信があるんだろう。こんな町にも銀翼の俺たちと対等に戦える奴がいると知っただけでも、十分に楽しいがな。そう思わないか、アリス?」
「たしかに、そういう考え方もありますね。私もストレスが溜まっていますので、発散するには、いい機会だわ」
笑顔を崩さないアリスたち。
「……銀翼⁈」
酔っ払いの三人は周りをゆっくりと見渡す。
「銀翼のリーダー、アルベルトだ。よろしくね」
アルベルトも笑顔で自己紹介をする。
三人は酔いが醒めたのか、悪酔いしたのか分からないが、顔色が一気に悪くなる。
「す、すいませんでした」
三人は一斉に立ち上がり、頭を下げる。
周りの客たちも、なにが起こったのかと、こちらを見ていた。
有名なクランのメンバーが、こんな場所にいるとは夢にも思わなかったのだろう。
このようなことは、よくあるのでアリスとラスティアは気にしていない。
ミランだけが残念そうにしている毎度の光景だった。
「話を聞く限り、皆はどう思った?」
アルベルトはゴブリン討伐について、意見を聞く。
皆の答えは、五分五分。
進化種などの不確定要素を考えれば、冒険者側が不利だという結論だった。
オーリスにいる冒険者の殆どが、ゴブリン討伐に参加したと聞いている。
もし、全滅にでもなったら――。
聞かなければ、なんでもない話だっただろう。
しかし、聞いてしまった。
いくら冒険者は自己責任だとはいえ、聞かなかったことにはできない。
アルベルトは悩む。
ここでゴブリン討伐後に、オーリスに向かったとしても間に合うかも知れないが……。
「お前は何人か連れて、ゴブリン討伐に向かった冒険者たちを助けてやれ」
「しかし、それでは――」
「俺が先にオーリスへ行き、情報収集をしておく。それだけでも時間の短縮はできるだろう」
「それはそうだが……」
クウガの案に、アルベルトは同調するかを考える。
これ以上、日程を遅らせれば、本来のクエストへの影響もかなり大きい。
「クウガ、頼めるか?」
「任せておけ‼」
先程の酔っ払い冒険者三人組の話を整理しながら、今迄のゴブリンとの戦闘の記憶を重ね合わせていく――。
森や洞窟内での魔法攻撃には制限があるため、アリスとササジールが構想から外れる。
その代わりに、ラスティアとミランは確定していた。
残りの一人はローガンに決めた。
オーリスの冒険者たちがいる手前、オプティミスが勝手な行動を止める自信がなかった。
アルベルトはメンバーを発表した――。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
――翌朝。
自分の決断に自信がないのか、アルベルトは悩んでいた。
「アルベルト。気持ちを切り換えろよ。リゼのほうは俺に任せておけ」
「……頼んだよ、クウガ」
拳を合わせるクウガとアルベルト。
オーリスに向かうクウガたちと、ゴブリンが発生したと言われている森へと向かうアルベルトたちだった。
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