第76話
ケアリス草の採取のクエストに向かう途中、リゼはステータスを開く。
今回のクエストと並行して出来るクエストを消費しようとしていた。
(……これかな)
リゼはノーマルクエストから『達成条件:十分間利き目をつむる』『期限:三十分』を選択して、受注する。
自分の利き目が分からないリゼは、右目と左目を交互につむり、数字が減るほうを確認する。
右目をつむると数字が減ることから、リゼは自分の利き目が右目だと知る。
リゼは右目をつむったまま歩きながら、他のクエストを選ぶ。
気になるクエストを発見する。
『達成条件:木の上に一時間滞在』『期限:二時間』だ。
クエスト自体は難しくないが、一時間も着の上に滞在するだけというのが、苦痛にならないかと考えていた。
とりあえず、採取場所についてから、このクエストを受注するかは考えることにする。
他にもクエストはないを続けて探す。
そのなかから『達成条件:両手の開閉(五百回)』『期限:一時間』を選んで受注する。
歩きながらでもできるクエストだ。
しかし、誤算があった。
片目をつむっての歩行は、距離感などがうまくつかめないので、何度もつまずく。
(……難しいな)
リゼは歩く速度を変えずに、歩き続けた。
そして二つ目に受注したクエストだが、簡単かと思っていた両手の開閉が、思った以上に握力を失う。
この後に、ケアリル草の採取でも握力を使うので、リゼは不安になる。
リゼはケアリル草の生息地に到着した。
歩く速度を変えていないつもりだったが、移動に思った以上に時間を消費してしまったようだ。
移動中のクエストは二つとも達成している。
震える両手で、ケアリル草の採取を始める。
この場所は、ケアリル草が群生しているので、比較的早く採取することができた。
一時間ほどで、背籠がケアリル草で埋まる。
クエストの依頼本数は満たしていると、感覚的に分かる。
この場所は、ランクCやランクDのクエスト場所よりも、効率がいい。
幸いなことに魔物との遭遇もない。
夕暮れも近付いてきているので、早めに帰ろうと決める。
帰り道、遠くにワイルドボアを発見する。
討伐することが出来れば……と一瞬、頭をよぎる。
しかし今、無理をすることはできない。
無事にオーリスまで戻ることが最優先だからだ。
この背籠にあるケアリル草で、何人もの冒険者の命を救うかも知れない……。
リゼはワイルドボアに気付かれないように、慎重に行動をする。
森を抜けて人の往来がある場所まで出て、リゼは少し休憩をする。
ワイルドボアを発見してからは常に緊張をしていた。
やっと、緊張を緩めることができると思いながら、首にかかっているプレートを触る。
(あと、どれくらいのポイントでランクBになれるんだろう)
受付嬢に聞けば、昇級までのポイントを教えてくれる。
しかし、リゼは聞けずにいた。
あまりにポイントが必要だった場合、恥ずかしい思いをすると思っていたからだ。
それに実力不足なのに、調子に乗っていると思われるかもしれない。
ギルドで毎日、クエストを達成していれば、いずれランクBの冒険者になれる――。
リゼは立ち上がり、陽の方向を確認して歩き出す。
そして、オーリスの城壁にいる門番が見える場所まで来ると再度、陽の方向を確認した。
(一時間くらいなら大丈夫かな?)
リゼは先程、保留にしたクエスト『木の上に一時間滞在』を受注して、木を登る。
木の高さなどの制限はないので、比較的に低くて凹凸がある登りやすい木を選んだ。
簡単に数メートル上の枝に手をかけることが出来た。
枝に腰掛けて、数字が減っていくのを確認する。
あとは、ここで景色を眺めていればいいだけなので、休憩がてらオーリスの方を見ていた。
陽が沈まるので、多くの商人たちの乗る馬車がオーリスへと入って行く。
いつもなら、冒険者たちの姿も多くあるのだが……なんとなく寂しい光景だった。
行きに受注した『十分間利き目をつむる』のクエストは今、受注すればよかったと、リゼは後悔していた。
リゼは少しでもクエストを消化しようと、保留しているクエストを閲覧する。
簡単なものや、他のクエストで消化しやすいものばかりを選択しているので、面倒なクエストばかりが残っている。
リゼ自身も、「いつかは受注しないといけない」と分かってはいるが、生活のためには通貨を稼ぐ必要がある。
どうしても優先順位が下がってしまうのだ。
時間的にも今日はギルドで、これ以上のクエストを受注することはできない。
夜のうちにできるクエストを、もう一度確認する。
出来るだけ宿から出たくない。
その理由は、銀翼のメンバーと出会う可能性があるからだ。
自分が怪我をしたせいで、銀翼に迷惑を掛けてしまったと思っている。
申し訳ない気持ちもあり、なんとなく顔を合わせ辛かったのだ。
リゼは自分の甘さと、弱さが招いた事件だと思っていた。
もし、他の冒険者であれば、アリスのように強ければ……と、どうしても考えてしまうのだ。
なぜなら、アリスやラスティアに、ミランの銀翼女性メンバーのほうが、アルベルトと親しくしている。
だが、あの加害者はアリスたちに怒りの矛先を向けていない。
正確には、向けていたが実力で敵わないと知っていたので、手を出せなかったのだと思う。
結局、リゼが弱いから狙われたことには違いないのだ。
気が付くと一時間が経ったのか、目の前に『ユニーククエスト達成』の文字が浮かんでいた。
リゼは木から下りて、オーリスに戻る。
ギルド会館に着くとアイリの前に行き、背籠を受付のカウンターに乗せる。
リゼの身長だと受付のカウンターは、少し高いので背籠を乗せるのも一苦労だった。
「お疲れ様。ケアリス草の確認をするので、少し待っていてね」
「はい」
アイリはリゼの姿を見て、安心する。
もしかしたら、リゼが魔物を討伐して来ると思っていたからだ。
自分が思っていたよりも、リゼの帰りが遅かったので、アイリは少しだけ不安になっていたのだった。
ケアリル草の本数を数え終わると、採取した本数を教えてくれる。
依頼分の本数より多い分は、追加報酬として支払われる。
「ありがとうございます」
リゼはアイリから報酬を受け取ると走って、ギルド会館から出て行った。
走り去るリゼの後ろ姿を見ながら、アイリは勝手に銀翼のメンバーとの約束でもあるのだろうと思っていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ギルドから何処にもよらずに宿に戻った。
リゼは自分の部屋へと直行する。
悪いことはしていないが、逃亡しているようだった。
リゼは防具を脱ぎ、水で体を拭く。
(っ!)
草で傷を負った手に、水がしみる。
体を拭いている布を、床に落とす。
握力が思っている以上に無かったことに、リゼは気付く。
小刻みに震える両手で、落ちた布を拾う。
体を拭き終えたリゼは、採取クエストの準備の時に、買った夕食用のパンを食べる。
味には飽きていたが、不味くはないし、なにより安い。
腹が満たされれば、なんでもよかった――。
学習院に通う子供たちと比べて、知識がない。
冒険者として、リゼは圧倒的に経験が足りない。
リゼは冒険者として、先のことを考えていた。
銀翼のメンバーと会ったことで、事件の時の自分の不甲斐なさ、弱さを思い出したのだ。
リゼはステータスを開き、自分の能力値を確認する。
能力値『体力:三十』『魔力:十八』『力:二十』『防御:十七』『魔法力:十一』『魔力耐性:十六』『素早さ:六十』『回避:四十一』『魅力:十四』『運:三十八』。
万能能力値は残っていない。
『素早さ』と『運』に『回避』に振り分けしているので、この三つの能力だけが異様に高い。
魔法を使わない職業のため、魔法関係の能力値は低い。
スキルで発生するクエストを達成すれば、報酬で上がると思っていた能力値も、最近は能力値を上げる報酬が少なくなっている。
これはリゼにとっても誤算だった。
自分の能力値を見ながら落ち込んだリゼは、ステータスを閉じた。
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